勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第六章~

第34話 ザリガニ大統領

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「yes we  can」

勇者アカデミーに流暢な英語が響き渡った。天井まで立ち込める煙。その中に見える巨大な物影。
やがてその煙は消えうせ、中に潜んでいた謎の正体が判明した。

「ザ……ザリガニ?」

高らかに掲げた二本のハサミ。海老のような真っ赤な体。それは、何メートルもある、巨大なザリガニであった。英語を話しているので恐らく種類はアメリカザリガニだろう。

勇者イサモノ……。なんや、あれ」

「お、俺にも分かりません」

呆然とザリガニを見詰める太郎と網走先生であった。

「な、なんだなんだ!?でっけーザリガニだぞ!」

「新たなモンスターか!?」

アカデミーの生徒も突然のザリガニ登場にざわついている。

「太郎……。なにあれ?ちょっとクサいんですけど」

安倍も困惑している。

「大丈夫、味方だよ……。多分」

「あ、でも余裕のダブルピースしてるしちょっと強そう」

「う~ん、ピース以外できないんじゃ……」

どうやら太郎は召喚魔法でザリガニを、いや正確に言うとザリガニ大統領を召喚してしまったらしい。
何故大統領なのか。それは「yes we  can」と言っているからである。

(どうしよう、ザリガニなんかに何が出来るんだよ)

不安に思う太郎。しかしその心配は杞憂であった。ザリガニ大統領は自慢のハサミでモンスターを掴みあげ、次々と投げ飛ばしたのだ!(ついでにアカデミーの壁も壊している)
この様子を安倍は白い目で見詰めていた。

「あはは、面白―い。ザリガニがモンスターをちぎっては投げちぎっては投げ、学校を破壊し……」

この様子をアカデミーの上空から見詰めていたレイカは、突如現れた巨大ザリガニに驚きを隠せない。

「な、なんなの!あの不気味な生き物は!モンスターたちちっとも歯が立たないじゃない!」

するとザリガニ大統領は、校舎の天井を突き破り外に居たレイカにも手を(いやハサミを)伸ばした。

「ひっ!なにすんのよ!放しなさい!」

レイカはあっという間にザリガニ大統領のハサミに掴まれてしまった。まさかアカデミーを襲撃したら、巨大ザリガニに捕まるなんて夢にも思わなかっただろう。

「あ!なにあれ!?なんか変なオバサンがザリガニに掴まれてる!」

安倍よ。初対面の女性にオバサンと言うのではない。例えそれが敵であろうと。

レイカの存在に気付いた網走先生は、ザリガニ大統領の足元に駆け寄った。

「おう、そこの女何者や!?人間ちゃうやろ、空飛んでるし」

「チッ、答える訳ないでしょうが」

レイカは力を振り絞って、ザリガニ大統領を目掛けて手から攻撃魔法を繰り出した。
不意を突かれて、ザリガニ大統領をレイカを離してしまった。大統領、痛恨のミス!

「フン、流石勇者アカデミーだけあってある程度実力者は居るようね。あのお方に報告しなければ!」

だーかーらー、あのお方って誰なんだっつーの!

「言っとくけど勝ち目がないから逃げる訳じゃないのよ!覚えてらっしゃい!」

誰も聞いてないのに捨て台詞を吐いて、レイカはどこかへと飛び去って行った。
結局なんだったのだあの女は……。

「行っちゃったね」

太郎がポツリと呟く。

「とりあえず、勝ったみたいやな」

気が付くと足元には大量のモンスターが転がっている。ザリガニ大統領が奮闘したお蔭だ。
ザリガニ大統領は仕事を終えたからか、再び煙に身を包み何処かへと姿を消してしまった。ありがとうザリガニ大統領。さようならザリガニ大統領。

かくしてアカデミーの平和は守られた。多くの人々を救ったザリガニ大統領を召喚した太郎は『ザリガニ勇者』の名で永遠に語り継がれるだろう。

「いらんわ!そんな不名誉な称号!」

【太郎はレベルが上がった!】

「えっ?もしかして今の戦闘で経験値が入ったの?やったー!」

本来ならザリガニ大統領が得るべき経験値だと思うが。

「えへ、いきなり魔法使えちゃったりなんかして。しかもレベルまで上がっちゃったりなんかして」

勇者、調子に乗っちゃったりなんかして。

「でもお前まだレベル3だろ?」

安倍はおもむろにスマホの画面を見せた。自分のレベルや、獲得した経験値が分かるアプリである。かがくのちからってすげー。
そこにはレベル8の文字が。

「あっ、お前ちゃっかりレベル上げしやがって!」

「というか太郎が一番レベル低いわよ」

戦闘を終えた富子が言う。

「嘘!?俺が一番低いの!?」

勇者なのにパーティーで一番レベルが低い太郎であった。

「いいもん、頑張ってレベル上げするから」

なにはともあれ、モンスターも倒して一件落着。しかしモンスター襲撃に謎の女、そして魔王からの手紙。
これから先、何かが起こりそうな予感がする。

網走先生は一人、今後の出来事に対して不安を抱くのだった。

(こりゃ事件の予感がするで)

ちなみに勇者の活躍は翌日新聞の一面を飾っていた。

『勇者アカデミーに巨大ザリガニ出現!怪奇現象は何かの予兆か!?「生臭かったです」と近隣住民の声!』

【つづく】
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