勇者太郎の冒険【小説版】

ヨシダ

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~第七章~

第37話 屋上で夜露死苦!

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太郎は酷く狼狽えていた。自分が誤って持ち去ってしまった誰かのネックレス。あろう事か、それは先程ぶつかった、あのDQNの私物だったのだ。

「この辺に落ちてないか?」

太郎が持っているとも知らず、DQNの我舞ガブは大切なネックレスを探しているのだった。太郎は顔面蒼白である。
頭の中でもう一人の太郎が自分に言い聞かせる。

正直な太郎「おい!今がチャンスだぞ。正直に返しちゃえよ」

いつもの太郎「いや、予定通り職員室に届けた方が」

悪い太郎「面倒くせえ、捨てちまえよ」

スケベな太郎「やや子って可愛いけど胸が小さいんだよなー」

空腹の太郎「お腹空いたよう」

岡本太郎「芸術は爆発だ!」

(ああ!もう!散れ!俺の思考!なんか関係ないの混ざってるし!)

その時、背後から我舞が太郎の頭をガシッと掴んだ。

「おい、お前……」

「ひえっ!」

我舞はそのまま両手で太郎を掴み、軽々と持ち上げた。

「なんでお前がそれを持ってんだよ!コラ!」

太郎は涙目になりながら必死に弁解した。

「違うんです違うんです!盗ったんじゃないんですー!さっき間違えて拾っちゃったから今返しに行こうと思ったんですー!」

我舞は両手を放した。突然放されて背中から床に落ちる太郎。
我舞は太郎の手から乱暴にネックレスを奪い取った。そして、太郎の肩に手をかけ、問い掛ける。

「わざわざ届けに来たのか?」

「ええ、まあ」

(本当は職員室に届けるつもりだったけどね)

「あの、ちなみに紐は拾った時点で切れてたので、俺が壊したんじゃないです」

そこまで聞くと、我舞はぶっきらぼうにそっぽを向き行ってしまった。

「もういい、悪かったな」

(なんだよー、お礼くらい言ってもいいのに。まあいいや、DQNなんかと関わりたくないし帰ろっと)

そう思い引き返そうとした時だった。運悪く向かい側から歩いてきた別のクラスの生徒二人と、正面衝突してしまったのだ。本当前見てないな、太郎よ。

「おうおう、どこ見てんだ?コラ」

「いってえじゃねえかよ~」

その二人は見るからに柄の悪そうな生徒だった。何故この学校にはこうも柄の悪い連中ばかりが居るのだ。

柄の悪い二人組は太郎に絡みだした。

「俺たちはな!戦士クラスの中で10番目と11番目の実力なんだぞ!お前なんか一ひねりだっつーの!」

威張るほどの順位ではない。

「す、すみませんでした」

そう言って太郎はカツアゲされる前からお金を出そうとしていた。情けない奴……。

「謝って済む問題かよ。なめんなよ、10番目と11番目を」

10番目と11番目に強い不良が太郎に絡んでいると、先程立ち去ったはずの我舞が何かを察したようで戻ってきた。そして、10番目と11番目の背後に無言で立ち、二人の方を叩いた。
身長二メートルほどの大男の我舞。相変わらず迫力がある。

「げっ、お前は踊り子クラスの我舞!」

「おい、行こうぜ。弱いものには強気で強いものには弱気なのが俺たちの鉄則だからな」

無言で肩を叩かれただけの二人だが、我舞にビビったのか突然態度を変えて逃げて行ってしまった。そんな鉄則だから10番目と11番目より上に上がれないのだ。

何故だかよく変わらないが、我舞のお蔭で事態は丸く収まったらしい。

「これで借りは返したからな」

我舞は素っ気なく言い捨てた。

(どゆこと?もしかしてネックレス返したお礼かな?)

我舞は若干呆れなような表情で太郎を見詰めた。

「ったく、お前そんなんでよくアカデミーの生徒やっていられるな。どこのクラスだ?」

聞かれたので正直に答える太郎。

「一応勇者クラスですけど」

それを聞いた途端、我舞の表情が豹変した。

「勇者ぁ!?てめえ、ふざけ……」

「本当ですぅ!」

太郎は咄嗟に生徒手帳を取り出した。そこには確かに、勇者クラスの勇者太郎イサモノタロウと書かれていた。

我舞はしばらく手帳と太郎の顔を交互に見詰めた。次の瞬間、ばっと太郎に手を伸ばす。

(なに!?ぶつの!?)

咄嗟に身を構える太郎。しかし、我舞は力強く太郎の両肩を掴み、真剣な眼差しでこう言った。

「話がある……。屋上へ来い!」

(えっ?なんなの呼び出しって。怖いよ!)

しかし断ると余計に怖そうなので、仕方なく我舞に連れられて屋上へとやって来た太郎であった。

(なんだよ~、何故DQNが呼び出しを。まさか告白じゃねーだろうな?俺はノンケだぞ……)

あまりの恐怖であらぬ事を想像してしまう太郎であった。

我舞は屋上の隅に腰を掛けた。

「おい、ちょっとこっち来て座れ」

「あ、ハイ」

言われた通りに座る。

「俺は踊り子クラスの我舞。我舞哲也ガブテツナリだ」

「変わった苗字だねぇ」

勇者イサモノほどではないと思うが。

「ちなみに身長は二メートル一センチ」

「おっきいねぇ」

しばし雑談で場を温めたところで、我舞は真剣な表情で太郎に向かってこう言った。

「実はお前に聞きたい事があってな」

「はいっ!」

身構える太郎。一体このDQN、屋上まで呼び出して何を聞きたいというのだろうか?

【つづく】
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