フィール・ザ・タイム ～ハッカあめ～

4

　公園の出入口近くまで来たとき、少し前を歩いていた時河は振り返り、「それじゃ、ここでお別れ」と言った。
「ねぇ、本当にもらっていいの？　このメガネ」
「うん、もちろんだよ」
　時河はそう言った後、少し間を置いてから何かをぼそっとつぶやいた。
「………………」
「え……？」
　加奈にはそれをハッキリと聞き取ることはできなかったが、「そのメガネは、あなたに渡すように頼まれたものだから」とつぶやいたような気がした。しかし、その言葉の意味は分からない。
「ねぇ、今、何て言ったの？」
　時河は人差し指を口元に当て、軽くウインクをした。
「ひ・み・つ。いずれ分かる時がくると思うわ」
「何それ……」
「じゃあね」
　時河は最後に何かをたくらんでるような微笑を浮かべて見せ、踵を返すと、公園の出入口のほうへ向かって小走りで駆けていった。その小さくなっていく時河の背に向かって、加奈は「ねぇ！」と大声で叫ぶ。時河が一瞬立ち止まる。
「今度は、学校で会おうね！　……同じクラスだといいね」
　時河は振り返らず、その言葉に答えるようにただ手を振り、そのまま去っていった。加奈は時河の姿が見えなくなってから、誰に言うでもなく、つぶやいた。
「また……学校でね」