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三十一話
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私とザウエル、カプリエルは森の中に流れている川に足を運んだ。夕方近くで空の色は薄暗いが、視界は問題なく見えている。こんな森の奥に人などおらず、全裸でいても気にならない。
なんせ、八年住んでいて森の中で人と会った覚えが一度もないから。
この場は地下から湧き出ている源泉と川の水が混ざり合った丁度いい温度のお湯の温泉が楽しめる。
昔はありがたみなんて一切無かったが、冒険者寮の共同風呂や寮の浴槽などを考えると凄く贅沢な場所だと、今さら気づく。
ただ、今回は温泉を堪能しに来たわけではない。拷問で見るに堪えない姿になっているザウエルとカプリエルに綺麗になってもらうためだ。
「カプリエルちゃん、体くらい自分で洗えるよね」
「は、はいっす……」
威勢がよかったカプリエルは私たち同様に子供っぽい体型を曝し、体を川の水で綺麗に洗ったあと暖かいお湯が滞留している川辺に浸す。
ザウエルも川の水で体を洗ってからお湯に浸かった。私も疲れを癒すため、裸になって温泉に入り込んだ。
「ねえ、二人共、私なら魔王に勝てると思う?」
「キアスなら百回に一回くらい勝てるかも」
「まず無傷で勝つのは不可能っすね。おれとザウエルの二人係でもボコボコにされるっす。ほんと手も足も出ないっす」
魔族領の中はルークス王国よりも治安が悪いようで、村を盗賊が襲ったりするのは日常茶判事らしい。
加えて魔物を操れる者は魔物より強くなければならず、ほとんどの魔族は魔物を操れないんだとか。
ザウエルとカプリエルの二人は魔物を操れる魔族の盗賊に村を襲われ、孤児になった者だった。
魔王は魔物と盗賊を瞬殺し、孤児を保護しているんだとか。
良い奴なのか悪い奴なのかわからない。魔王に救われたザウエルとカプリエルの忠誠心は山よりも高く、渓谷よりも深い。そんな二人の口から語られる魔王の強さは恐らく本物。
「……キアスは魔王様を殺さないと言っていたが本当か?」
「コルトの身に何かあれば、許せないかもしれない。でも、魔族領で魔王がやっていることが間違っているとも思えない。そいつの狙いが私なら、私が魔王に会いに行けばルークス王国に攻撃する必要はなくなるよね」
「キアスさんが魔王様のもとに訪れなければ魔王様はまた別の魔人を送りつけてくると思うっす。不思議なくらい『黒羽の悪魔』に固執していたっすから」
「なんで、私なんかを狙うんだろう。私はただの女の子なのに」
ザウエルとカプリエルは私の方に丸い目を向けてくる。なんなら口までぽっかり空いていた。
「キアスが普通の女の子? はははっ。冗談きついって。オーガを含めた何百体の魔物を蹴散らす女の子がどこにいるんだよ」
「二人の魔人を捕まえて、鎖もつけずに野放しにしている女の子ってなんすか?」
ザウエルとカプリエルからしたら、私はただの女の子ではないらしい。確かに、言われてみたら普通ではないかもしれないけれど、心は昔と変わらず根っからの女の子なんだけどな……。
私はお湯の中で華奢な膝を抱え、赤子が母親の腹の中で縮こまっているような恰好になる。
私を女の子扱してくれたのは、死んだ両親と村の人達、あとコルトだけ。
彼は私の人生で初めてのことばかり経験させてくれた。もし、彼が死んでしまったらと思うだけで、薄暗い河川がぼんやりと滲んで見えてしまう。
魔王がコルトを保持しているのだとしたら、今、コルトを助けに行けるのは、おそらくルークス王国で私しかいない。私でも魔王に勝てるかわからない。
ルークス王国が軍を作って魔王を倒しに行っても勝てるかどうか。そもそも、軍を動かすとなると何カ月もかかってしまう。その間、コルトが無事でいてくれる保証はどこにもない。
もう、コルトが誘拐されてから一日開いている。彼が心配過ぎて昨晩も眠れなかった。寝不足は肌にも悪いし、心にも悪影響を及ぼす。早くしっかりと眠らなければ。
「明日の朝、ルークス王国に戻る。今日はそのままの姿でいてもいいけど、逃げようとすれば殺す」
寝不足で目つきが悪くなっている私の視線が相当怖かったのか、ザウエルとカプリエルは互いに抱き合って涙目になりながら震えていた。
二人を私と師匠が住んでいた家に招き、異空間に入れておいたパンや食材を使った簡単なサンドイッチを振舞う。
お腹が空いていたら力が出せないので、食べたい気分じゃなかったが無理にでも食べた。歯を磨いてから私が使っていた部屋に入る。魔法で埃を綺麗に除去してから毛布を床に敷いて簡易的な寝床を作る。
「じゃあ、二人は床で眠って。私はベッドで眠るから」
「……今さらっすけど、キアスさんはなんでおれたちに優しくするんすか。その場で殺されても文句を言えないのに」
「カプリエルちゃんは私に殺されたいの?」
「い、いや、そういう意味じゃなくて。キアスさんがおれたちを生かしておく理由がわからないっす。キアスさんくらい強かったらおれたちは必要ないっていうか……」
「生かしておく理由がないのと同じだよ、私に二人を殺す理由がないだけ。無駄に殺して誰かに恨まれたくないし、女の子の話し相手がいないし、一人でいたら多分、色々ありすぎて気がおかしくなっていた。近くに誰かがいた方が冷静になれる」
なんせ、八年住んでいて森の中で人と会った覚えが一度もないから。
この場は地下から湧き出ている源泉と川の水が混ざり合った丁度いい温度のお湯の温泉が楽しめる。
昔はありがたみなんて一切無かったが、冒険者寮の共同風呂や寮の浴槽などを考えると凄く贅沢な場所だと、今さら気づく。
ただ、今回は温泉を堪能しに来たわけではない。拷問で見るに堪えない姿になっているザウエルとカプリエルに綺麗になってもらうためだ。
「カプリエルちゃん、体くらい自分で洗えるよね」
「は、はいっす……」
威勢がよかったカプリエルは私たち同様に子供っぽい体型を曝し、体を川の水で綺麗に洗ったあと暖かいお湯が滞留している川辺に浸す。
ザウエルも川の水で体を洗ってからお湯に浸かった。私も疲れを癒すため、裸になって温泉に入り込んだ。
「ねえ、二人共、私なら魔王に勝てると思う?」
「キアスなら百回に一回くらい勝てるかも」
「まず無傷で勝つのは不可能っすね。おれとザウエルの二人係でもボコボコにされるっす。ほんと手も足も出ないっす」
魔族領の中はルークス王国よりも治安が悪いようで、村を盗賊が襲ったりするのは日常茶判事らしい。
加えて魔物を操れる者は魔物より強くなければならず、ほとんどの魔族は魔物を操れないんだとか。
ザウエルとカプリエルの二人は魔物を操れる魔族の盗賊に村を襲われ、孤児になった者だった。
魔王は魔物と盗賊を瞬殺し、孤児を保護しているんだとか。
良い奴なのか悪い奴なのかわからない。魔王に救われたザウエルとカプリエルの忠誠心は山よりも高く、渓谷よりも深い。そんな二人の口から語られる魔王の強さは恐らく本物。
「……キアスは魔王様を殺さないと言っていたが本当か?」
「コルトの身に何かあれば、許せないかもしれない。でも、魔族領で魔王がやっていることが間違っているとも思えない。そいつの狙いが私なら、私が魔王に会いに行けばルークス王国に攻撃する必要はなくなるよね」
「キアスさんが魔王様のもとに訪れなければ魔王様はまた別の魔人を送りつけてくると思うっす。不思議なくらい『黒羽の悪魔』に固執していたっすから」
「なんで、私なんかを狙うんだろう。私はただの女の子なのに」
ザウエルとカプリエルは私の方に丸い目を向けてくる。なんなら口までぽっかり空いていた。
「キアスが普通の女の子? はははっ。冗談きついって。オーガを含めた何百体の魔物を蹴散らす女の子がどこにいるんだよ」
「二人の魔人を捕まえて、鎖もつけずに野放しにしている女の子ってなんすか?」
ザウエルとカプリエルからしたら、私はただの女の子ではないらしい。確かに、言われてみたら普通ではないかもしれないけれど、心は昔と変わらず根っからの女の子なんだけどな……。
私はお湯の中で華奢な膝を抱え、赤子が母親の腹の中で縮こまっているような恰好になる。
私を女の子扱してくれたのは、死んだ両親と村の人達、あとコルトだけ。
彼は私の人生で初めてのことばかり経験させてくれた。もし、彼が死んでしまったらと思うだけで、薄暗い河川がぼんやりと滲んで見えてしまう。
魔王がコルトを保持しているのだとしたら、今、コルトを助けに行けるのは、おそらくルークス王国で私しかいない。私でも魔王に勝てるかわからない。
ルークス王国が軍を作って魔王を倒しに行っても勝てるかどうか。そもそも、軍を動かすとなると何カ月もかかってしまう。その間、コルトが無事でいてくれる保証はどこにもない。
もう、コルトが誘拐されてから一日開いている。彼が心配過ぎて昨晩も眠れなかった。寝不足は肌にも悪いし、心にも悪影響を及ぼす。早くしっかりと眠らなければ。
「明日の朝、ルークス王国に戻る。今日はそのままの姿でいてもいいけど、逃げようとすれば殺す」
寝不足で目つきが悪くなっている私の視線が相当怖かったのか、ザウエルとカプリエルは互いに抱き合って涙目になりながら震えていた。
二人を私と師匠が住んでいた家に招き、異空間に入れておいたパンや食材を使った簡単なサンドイッチを振舞う。
お腹が空いていたら力が出せないので、食べたい気分じゃなかったが無理にでも食べた。歯を磨いてから私が使っていた部屋に入る。魔法で埃を綺麗に除去してから毛布を床に敷いて簡易的な寝床を作る。
「じゃあ、二人は床で眠って。私はベッドで眠るから」
「……今さらっすけど、キアスさんはなんでおれたちに優しくするんすか。その場で殺されても文句を言えないのに」
「カプリエルちゃんは私に殺されたいの?」
「い、いや、そういう意味じゃなくて。キアスさんがおれたちを生かしておく理由がわからないっす。キアスさんくらい強かったらおれたちは必要ないっていうか……」
「生かしておく理由がないのと同じだよ、私に二人を殺す理由がないだけ。無駄に殺して誰かに恨まれたくないし、女の子の話し相手がいないし、一人でいたら多分、色々ありすぎて気がおかしくなっていた。近くに誰かがいた方が冷静になれる」
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