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貧乏貴族の臆病者

未開拓の土地に家を建てる

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「あぁ……、船が行ってしまった。僕の人生はここで終わるのか……。いや、まだ計画は終わってないぞ。最後までやってどうなるか試してみないと」

 僕は海の方から開拓地の方を見る。

 空に突き刺さりそうなほど大きな山がそびえており、迫力が凄かった。そこまで行くには周りにある森を抜けなければならず、今の僕にたどり着けるとは思えなかったため、開拓地ではなく風景として楽しむと決めた。

「さてと、どこに家を建てようかな。土地は好きなだけ使えるから、どこでもいいんだけど……。どうせならひらけた土地がいいな。地面を均すのは面倒だし」

 僕は荷物を引きずりながら運ぶ。ひらけた土地は案外早く見つかった。森の近くに家を建てると魔物が襲ってきそうだったので、少し遠い場所に建てよう。

「動物達には枯れ草を与えておけば、簡単には死なないよな。ごめんね、今は餌っぽい食べ物が無いんだ。今、集めた枯れ草で飢えを凌いでね」

 動物と心が通じ合っていたら、きっと怒鳴られていただろう。『なんていう糞飯を置いているんじゃボケ!』とね。

 今は僕の安全の確保が一番重要だ。その為には家を建てなければならない。別に大きい家じゃなくていい。寝られる小屋程度の場所さえあれば十分だ。

「よし! 夜になったら絶対に怖い思いをするから、枯れ木と枯葉を早めに集めておこう。一秒たりとも焚火を絶やさないようにしなければ、家がない僕は魔物に襲われて死ぬ」

 僕はのこぎりを手に取り、森の方へと走ってく。自分で言うのも何だが凄くビビりだ。
 一匹の虫が目の前に飛び出しても死ぬほど驚く。一番嫌なのは不意に驚かされることだ。かくれんぼ中に驚かされた時、失神してしまったのをよく覚えている。

「お願いします、怖い魔物は出てこないでください……。角ウサギくらいなら食料になるので出てきてもらってもいいですけど。ブラックベアーだけは勘弁願います。ジャイアントタイガーも無理です。見ただけで失神するので絶対に出てこないでください」

 僕は森に向って話しかけながら走る。

「よ、よかった……。何も出てこなかったぞ。よし、木を切って生皮を剥いで縄を作ろう。そのあとに枯れ木を集めて縄で縛り、動物たちのいる平地に戻る。今日はこれを目標にするぞ。『安全を第一に考えて行動する』を徹底しなければ、僕みたいな男はすぐに死ぬ。何はともあれ、縄と丸太を量産しよう」

 僕はのこぎりを使って木を切り始めた。

 木の円周は僕の身長よりも太く、右掌から左手の長さを一七〇センチメートルと仮定して測ると、四メートルほどあり、結構太かった。

 高さもそれなりにあり、一番高い所で三〇メートルはありそうだ。

 一本切って三等分にすれば一〇メートルほどの丸太になる。生皮を剥げば三〇メートルの縄が作れるのでそれを使っていろんな物を縛ろう。

 のこぎりを引くのに力があまり必要なかった。削られている木くずが僕のズボンに掛かるも気にしていられない。

「よく切れるのこぎりだな。金貨一〇枚はやっぱりさすがだ。こんなに切りやすいなんて思わなかったよ。さすが東国産。この、のこぎりを買って本当によかった」

 僕は木を平野の方に切り倒し、無駄に伸びている枝を切っていく。木を幹の部分だけにしたら皮を剥いでいった。すでにしなりがいい木の皮が何枚も取れたので、縄に困りはしない。

 木の皮を剥ぎ終わったら長い丸太を、家を建てる場所まで運ぶ。服が汚れるともったいないので上裸になり丸太を肩に担ぐ。

「丸太、丸太、丸太を使って家つっくろ~」

 僕は一つの物事に集中すると周りが見えなくなるたちなので、この時にはすでに恐怖心が消えて無くなっていた。それよりも木があまりにもよく切れるので楽しくなり、スキップをしながら丸太を運んでいる。

「えっと、木を一本切ったら丸太が三本作れた。太さもほとんど一緒だし、全部使えるとして小屋を作るために必要な丸太の本数は、どれくらいかな……。ん~~、まぁ、一〇メートルの丸太を一〇〇本くらい作れば何とかなるでしょ。動物たちの小屋も作らないといけないし、もっと必要になるかな。よ~し! 小屋と厩舎を作るために丸太を量産しまくるぞ!」

 その後、僕は未開拓の土地に到着してから周りが真っ暗になるまで木を切り続けた。

 作業を始める前に太陽の位置を見て、全ての工程が終わったころには一五度動いていたので一時間だと分かった。
 一本の木を切るために必要な時間は約一〇分。長い丸太を三本に切り分けるのに約三〇分かかり、木の皮を剥がないで丸太を三本作るのに約四〇分かかった。
 切り分ける前に木の皮を剥ぐのだが、木を丸裸にするために約二〇分を有するため、一時間で丁度一本の木を加工できる計算だ。
 つまり、一〇メートルの丸太を一〇〇本作るために必要な時間は三三時間以上かかる。

「なんだ。たった三三時間作業すればいいのか。すぐ終わるじゃん。僕が石を磨く時間は優に五〇時間を超えるんだから。それに比べたら全然楽勝だね」

 僕は枯れ木を集めた平地の基地に向った。

「さてと、木の枝を燃やし続けないといけないな。そうしないと魔物に襲われる」

 僕は空気が入りやすいように二本の木の枝を交互に組み合わせながら縦に積んでいくように組んだ。

「『ファイア』」

 僕が詠唱を放つと指先に魔法陣が出現し、小さな火の塊が木くずに飛んだ。
 木くずに火が燃え移り、細い枝に引火していく。

「よし、火が付いたぞ。あとは小さくなるごとに木の枝を入れていくだけだ」

 僕は焚火を安定して燃やし続けた。

「食べ物は森の入り口付近で見つけた茱萸(グミ)の実で我慢しよう。もともと良い食事なんてとった覚えはないんだ。毎日パン粥だったし、これくらい耐えられる。ただ、平地で寝るのはやっぱり怖いな……。家を早く完成させないと恐怖でどうにかなりそうだ……」

 未開拓の土地に来て一日目、僕は木を切って皮を剥いで丸太にして終わった。
 僕が未開拓の土地に来て三日目、ほぼ寝ずに家造りに打ち込んでいた。
 理由は簡単、寝たら死ぬからだ。
 少しでも早く僕が安心して眠れる場所が欲しかった。その為に全神経を注ぎ込み、丸太小屋を建てた。大きさは一辺五メートルの正方形型の家。釘は買っていないので、木を組み合わせて形を作り、崩れる可能性がある場所は縄で固定した。

 まさか一人で家を建てらるとは思っていなかったが案外やればできるみたいだ。まぁ、家と言うよりかは箱の方が近いかもしれない。

「やっと僕の眠れる小屋が出来たぞ……。これで雨が降っても大丈夫だ。最悪、ゴブリン程度の魔物なら進入されないくらい頑丈に出来ているはず……。一度殴ってみるか」

 僕は今現在残っている体力をすべて使い、小屋を殴った。

「せいや!!」

 大砲を当てられたかのような一撃が家に与えられ、円形の穴が開いた。

「あ……、穴が開いちゃった。まぁ、窓にすればいいか。でも、小屋は倒れなかったから強度は問題ない」

 僕は余った丸太を薄く切って穴に埋め込む。

「うん、いい感じ。さてと……寝るか」

 僕は三日間の疲れを癒すため、小屋に入ろうとした。だが……。

「あ、扉を付けるの忘れてた。これじゃ本当にただの箱じゃないか……」

 小屋のどの面にも扉を開けておらず中に入れなかったのだ。僕は仕方なく、限界を超えて力を振り絞る。

「せいや!!」

 のこぎりを通す穴は自分の拳で開けて扉っぽく長方形になるように切っていく。眠すぎて視界が悪いが、今すぐにでも寝たい僕は小屋に入口をすぐさま作った。

「よし……これでやっと寝られる」

 僕は真っ暗な小屋の中に入り、気絶するようにして眠った。
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