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鶏を買ったら……知り合いが増えた。
三日ぶりの戦闘
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「よし、これでいいかな」
「もういいの?」
「さっき少し走ったから体は温まっているんだよ。だから問題ない」
「わかった。じゃあ、勝負を始める。私はニクスから一本取れたら勝、ニクスは私を捕まえたら勝。それでいいでしょ」
「うん。それでいいよ。ルパと殺しあわずに済むだけでありがたい。でも、手加減はしないからね」
「当たり前。そんなことしたら殺す。私は本気のニクスに勝ちたい。だから全力で戦って!」
ルパは短い木剣を持ち、初めて戦った時と同じく四つん這いの体勢をとった。
「プルス。審判をお願い」
「了解しました」
プルスは僕の頭から地面に飛び降り、ルパと僕の間に移動する。
「では、私が審判を務めます。危険行為は即敗北になりますからね。気を付けてください」
プルスは真っ赤な翼を高らかにあげる。
「私が翼を下したら、勝負開始とします。では、三、二、一、始め」
プルスは翼を真下におろす。
「ふっ!」
ルパは低姿勢で走り始めた。短い木剣を片手で持ち、僕の真下に入り込んでくる。やはり一〇メートル足らずでは彼女の加速度と移動距離が一枚上手で、僕はいつも遅れる。
「はっ!」
ルパは短剣を持って僕の顎下目掛けて突き上げてきた。
僕は顎を上げ、紙一重でルパの攻撃を回避し、開いている横腹に右脚で蹴りつけると、木が折れたような低い音が鳴った。
「くっ……」
ルパは蹴りを真面に食らい、真横に吹き飛んだ。
僕は追撃を加えるため追いかける。
僕に蹴り飛ばされたルパは空中で体勢を整え地面に軽く着地する。
僕はルパが着地してから、攻撃を加えて行った。拳、蹴り、投げ、など。拳や蹴りはルパに見極められてなかなか当たらない。実際、僕が当てられた攻撃はどれも、彼女の攻撃のさい、隙をついての一撃だった。
「なるほど。ルパはカウンターに弱いのか。逆に僕は攻めあぐねるから、踏み込みが足らないみたいだね」
「はぁ、はぁ、はぁ。ニクスの蹴り、凄く利いた……。凄く痛い。でも、守ってても勝てない」
ルパは腹部を抑えているが、口角を上げて眼をかがやかせている。戦えるのが楽しいのか、運動出来ているのがうれしいのか。僕にはその両方に見えた。
「じゃあ、次は僕から攻めるよ!」
僕は跳躍し、ルパに蹴りかかる。ルパはその場から後方に下がり、僕の攻撃をかわした。
地面が割れ、大きな罅が何本も入る。地面に着地した途端に踏み込んで、僕はルパの攻撃範囲に入る。
「くっ!」
ルパは右脚で僕の頭を蹴りかかってきた。だが、いつもの蹴りより威力、速度共に衰えており、簡単に受け止められる。足首を持ってルパの体をひっくり返し、うつ伏せにしたあと、脚を決めて動けないようにした。
「そこまで。主の勝利」
「ふぅ……。ルパ、立てる?」
「立てる……。でも、力の差を感じた。やっぱりニクスは強い。私、まだまだ追いつける気がしない。ただ……、ワクワクしてるのも確か。三日間動けなかったけど、久々に動けて凄く楽しかった。ニクスとの戦いはやっぱり心臓がバクバクする」
ルパは清々しい顏で微笑んでいた。負けたのに、それでもいいと思えるようになったようだ。
ルパの心境の変化は著しく、負けて悔しがり、さっと立ち直って反省している。その状況を見て僕が思ったのは『ルパは絶対に成長する』だった。
「じゃあ、はい。食べさせて」
ルパは僕に金平糖の入った瓶を渡してきた。ちゃんとあげるのは三日ぶりくらいか。僕は瓶の蓋を開けて金平糖を一粒出したあと、彼女に食べさせる。
「うぅぅ。この味……。やっぱりこの味が一番美味しい」
「じゃあ、僕はルパの耳を触らせてもらおうかな」
「わ、わかった。止めてと言ったら止めてよ」
「うん。もちろんだよ。同じ過ちを犯すほど、僕は馬鹿じゃない」
「じゃぁ……。どうぞ……」
ルパは僕に頭を差し出してきた。大きなふさふさの耳がピクピクと動いており、緊張しているのがわかる。
「おぉ。ふかふかで気持ちいい。すっごい癒される……。なんだこれぇ……」
「うぅっ、こ、こっちは不愉快極まりなぃ。全身ぞわぞわしてぇ、くすぐったいぃよぉ……」
僕はルパの耳をモフモフし、十分癒されたのだが、なぜか未だに止めての一言がこない。
「ルパ、まだモフモフしててもいいの?」
「ふぁぁ……。あ……、お、終わり。もう、終わり!」
ルパは耳をモフモフされて緩んだ顔をしていたのだが、僕に声を掛けられて正気に戻り、僕の手を払いのける。
「ルパ、僕は結構長い間、耳を触っていたけど、嫌じゃなかったの?」
「途中から眠くなってボーっとしてただけ! 本当はすっごく嫌だった。もう触られたくないけど、私が負けたらまた触らせてあげる!」
「怒りながら言うような発言じゃないと思うけど……」
ルパは僕に背を向けて尻尾を振りながら怒っていた。
ルパが僕に怒るとき心が晴れるのか、それとも感情を隠してわざと怒っているのか。相手の心が読めないためわからない。
「ニクス! 早く特訓しよ! 私、凄く弱くなってた。やっぱり少しやらないだけで全然違う!」
「確かに筋力は落ちてたけど、動きに無駄が見当たらなかったから、凄く綺麗な動きだったよ。僕の練習を見て、自分の中で咀嚼し、実戦でやって見せた。ルパは戦闘の才能があるよ。見ているだけで自分で体現できるなんてそうそう出来る代物じゃない。落ち込まずに、長所をもっと伸ばしていこう」
「私の長所? んー。長所……、長所……。自分の長所って考えるの難しい」
「ま、長所は何気なく出来てしまうような部分だからね。僕が見つけたルパの長所は体の柔らかさと、初速、踏み込み、辺りかな」
「私の体に柔らかい部分なんてないよ?」
ルパは体に手を当てて答える。
「いや、あるよ。お尻とか、胸とか、太ももとか……って違う! 僕が言いたいのはルパの柔軟性のことだよ」
「柔軟性……」
「ルパは股割りできる?」
「股割り? お尻は割れてるけど」
「そう言うことじゃなくて……。こうやって両脚を一直線に出来る?」
僕は地面に座って両足をなるべく離れさせ、一本にする。そのまま地面にベターっと胸を着けてルパに見せた。
「す、凄い。脚が真っ直ぐになってる」
「ルパもやってみて」
「わ、わかった」
ルパも地面に座り。僕と同じように足を開けていく。
「もういいの?」
「さっき少し走ったから体は温まっているんだよ。だから問題ない」
「わかった。じゃあ、勝負を始める。私はニクスから一本取れたら勝、ニクスは私を捕まえたら勝。それでいいでしょ」
「うん。それでいいよ。ルパと殺しあわずに済むだけでありがたい。でも、手加減はしないからね」
「当たり前。そんなことしたら殺す。私は本気のニクスに勝ちたい。だから全力で戦って!」
ルパは短い木剣を持ち、初めて戦った時と同じく四つん這いの体勢をとった。
「プルス。審判をお願い」
「了解しました」
プルスは僕の頭から地面に飛び降り、ルパと僕の間に移動する。
「では、私が審判を務めます。危険行為は即敗北になりますからね。気を付けてください」
プルスは真っ赤な翼を高らかにあげる。
「私が翼を下したら、勝負開始とします。では、三、二、一、始め」
プルスは翼を真下におろす。
「ふっ!」
ルパは低姿勢で走り始めた。短い木剣を片手で持ち、僕の真下に入り込んでくる。やはり一〇メートル足らずでは彼女の加速度と移動距離が一枚上手で、僕はいつも遅れる。
「はっ!」
ルパは短剣を持って僕の顎下目掛けて突き上げてきた。
僕は顎を上げ、紙一重でルパの攻撃を回避し、開いている横腹に右脚で蹴りつけると、木が折れたような低い音が鳴った。
「くっ……」
ルパは蹴りを真面に食らい、真横に吹き飛んだ。
僕は追撃を加えるため追いかける。
僕に蹴り飛ばされたルパは空中で体勢を整え地面に軽く着地する。
僕はルパが着地してから、攻撃を加えて行った。拳、蹴り、投げ、など。拳や蹴りはルパに見極められてなかなか当たらない。実際、僕が当てられた攻撃はどれも、彼女の攻撃のさい、隙をついての一撃だった。
「なるほど。ルパはカウンターに弱いのか。逆に僕は攻めあぐねるから、踏み込みが足らないみたいだね」
「はぁ、はぁ、はぁ。ニクスの蹴り、凄く利いた……。凄く痛い。でも、守ってても勝てない」
ルパは腹部を抑えているが、口角を上げて眼をかがやかせている。戦えるのが楽しいのか、運動出来ているのがうれしいのか。僕にはその両方に見えた。
「じゃあ、次は僕から攻めるよ!」
僕は跳躍し、ルパに蹴りかかる。ルパはその場から後方に下がり、僕の攻撃をかわした。
地面が割れ、大きな罅が何本も入る。地面に着地した途端に踏み込んで、僕はルパの攻撃範囲に入る。
「くっ!」
ルパは右脚で僕の頭を蹴りかかってきた。だが、いつもの蹴りより威力、速度共に衰えており、簡単に受け止められる。足首を持ってルパの体をひっくり返し、うつ伏せにしたあと、脚を決めて動けないようにした。
「そこまで。主の勝利」
「ふぅ……。ルパ、立てる?」
「立てる……。でも、力の差を感じた。やっぱりニクスは強い。私、まだまだ追いつける気がしない。ただ……、ワクワクしてるのも確か。三日間動けなかったけど、久々に動けて凄く楽しかった。ニクスとの戦いはやっぱり心臓がバクバクする」
ルパは清々しい顏で微笑んでいた。負けたのに、それでもいいと思えるようになったようだ。
ルパの心境の変化は著しく、負けて悔しがり、さっと立ち直って反省している。その状況を見て僕が思ったのは『ルパは絶対に成長する』だった。
「じゃあ、はい。食べさせて」
ルパは僕に金平糖の入った瓶を渡してきた。ちゃんとあげるのは三日ぶりくらいか。僕は瓶の蓋を開けて金平糖を一粒出したあと、彼女に食べさせる。
「うぅぅ。この味……。やっぱりこの味が一番美味しい」
「じゃあ、僕はルパの耳を触らせてもらおうかな」
「わ、わかった。止めてと言ったら止めてよ」
「うん。もちろんだよ。同じ過ちを犯すほど、僕は馬鹿じゃない」
「じゃぁ……。どうぞ……」
ルパは僕に頭を差し出してきた。大きなふさふさの耳がピクピクと動いており、緊張しているのがわかる。
「おぉ。ふかふかで気持ちいい。すっごい癒される……。なんだこれぇ……」
「うぅっ、こ、こっちは不愉快極まりなぃ。全身ぞわぞわしてぇ、くすぐったいぃよぉ……」
僕はルパの耳をモフモフし、十分癒されたのだが、なぜか未だに止めての一言がこない。
「ルパ、まだモフモフしててもいいの?」
「ふぁぁ……。あ……、お、終わり。もう、終わり!」
ルパは耳をモフモフされて緩んだ顔をしていたのだが、僕に声を掛けられて正気に戻り、僕の手を払いのける。
「ルパ、僕は結構長い間、耳を触っていたけど、嫌じゃなかったの?」
「途中から眠くなってボーっとしてただけ! 本当はすっごく嫌だった。もう触られたくないけど、私が負けたらまた触らせてあげる!」
「怒りながら言うような発言じゃないと思うけど……」
ルパは僕に背を向けて尻尾を振りながら怒っていた。
ルパが僕に怒るとき心が晴れるのか、それとも感情を隠してわざと怒っているのか。相手の心が読めないためわからない。
「ニクス! 早く特訓しよ! 私、凄く弱くなってた。やっぱり少しやらないだけで全然違う!」
「確かに筋力は落ちてたけど、動きに無駄が見当たらなかったから、凄く綺麗な動きだったよ。僕の練習を見て、自分の中で咀嚼し、実戦でやって見せた。ルパは戦闘の才能があるよ。見ているだけで自分で体現できるなんてそうそう出来る代物じゃない。落ち込まずに、長所をもっと伸ばしていこう」
「私の長所? んー。長所……、長所……。自分の長所って考えるの難しい」
「ま、長所は何気なく出来てしまうような部分だからね。僕が見つけたルパの長所は体の柔らかさと、初速、踏み込み、辺りかな」
「私の体に柔らかい部分なんてないよ?」
ルパは体に手を当てて答える。
「いや、あるよ。お尻とか、胸とか、太ももとか……って違う! 僕が言いたいのはルパの柔軟性のことだよ」
「柔軟性……」
「ルパは股割りできる?」
「股割り? お尻は割れてるけど」
「そう言うことじゃなくて……。こうやって両脚を一直線に出来る?」
僕は地面に座って両足をなるべく離れさせ、一本にする。そのまま地面にベターっと胸を着けてルパに見せた。
「す、凄い。脚が真っ直ぐになってる」
「ルパもやってみて」
「わ、わかった」
ルパも地面に座り。僕と同じように足を開けていく。
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