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鶏を買ったら……知り合いが増えた。
寒い夜の乗り越え方
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「はぁ、家の中に入ると一気に温かくなった」
「そうだね。やっぱり家の中は最高だ。じゃあ、勉強の続きをしようか」
「うん。今日も勉強する。えっと、文字はもう全部覚えたし、書けるようにもなった。次は何をするの?」
「今日からは計算を勉強しよう。まずはお金の計算からだ」
「お金の計算。出来るようになりたい」
「じゃあ、実物を使って計算しようか」
僕とルパは脚の低い机を挟んで向かい合って床に座っている。僕は銅貨一枚と銀貨一枚、金貨一枚、虹硬貨一枚を小袋から取り出して机に並べた。
「はい、これの名前はわかるかな?」
「お金」
「そうだね。それじゃあ、高い物を買える順に並べてみて」
「わかった」
ルパは硬貨を一か所に集め、右から銅貨、銀貨、金貨、虹硬貨の順に並べた。
「正解。よく覚えてたね」
僕はルパの頭を撫でて褒める。ルパははにかみながら尻尾を振っていた。
「買い物でニクスが良く使っている奴から並べただけ」
「それでも正解は正解だよ。じゃあ、次に銀貨は銅貨何枚分かわかるかな?」
「えっと、確か……。一〇枚」
「正解。よしよし、よく覚えてたね。硬貨は銅貨から大金貨までは一〇枚ごとに同じ値段になる。虹硬貨は大陸で価値の一番高い硬貨で金貨一〇〇〇枚分あるんだって」
「へぇ、この硬貨が金貨一〇〇〇枚分と同じなのか。なんかよくわからないから変な感じ」
ルパは虹硬貨を摘まみ、弾いたり回したりして遊んだ。
「そうだよね。僕もよくわからないから、全然使えないよ」
――兄さんたちにお金の仕送りでもしようかな。国と場所がわかっているからお金も送れるはずだ。でも、出てきた手前、お金を送っても変な気分だし……。学費を返すって手紙を書いて送ってもいいな。
「じゃあ、復習はここまで。今から勉強を始めるよ」
「はーい」
僕は木版に黒い塗料を塗った黒板に白石灰(チョーク)を使って数字と数式を書いていく。
ルパに計算式を覚えてもらい、簡単な買い物をしてもらった。
ルパは余裕で正解し、応用の問題も難なく解いた。彼女はそこそこ賢いようだ。
足し算、引き算は容易に使いこなし、掛け算、割り算は少し苦戦していた。それでも、楽しそうに勉強するものだから、僕も教えるのが楽しくて仕方なかった。
一人で勉強している時はあまりにも楽しくなかったが、今は違う。いつまでも勉強できそうだ。二時間ほど勉強したのち、ルパは机に突っ伏して眠ってしまった。どうやら最後の問題を解いて疲れ切ってしまったのだろう。
僕はルパを布団のある寝床に移動させ、布団をかぶせた。
「お休み、ルパ」
ルパはむにゃむにゃと口を動かし、返事をする。何を言っているのか全くわからないが、きっと特に意味はないだろう。
「プルス、炎の衣ありがとう。もういいよ」
「了解です」
プルスは僕の頭で翼をはためかせると、僕とルパの体を纏っていた炎の衣が消えた。
僕は角ウサギの毛皮で作った服を着こんだまま、布団の中に入る。
ルパの温もりが分厚い布団に移っており、ぬくぬくだった。このままルパを抱きしめて湯たんぽにしてみたいと何度も思ったが、抱き着くと怒るので、僕からは動けない。
だが、プルスが胸に入ってくると、プルスの熱が体に伝わりとても暖かく眠れるようになる。プルス自身は魔力を使って暖かくなっている訳ではないので、魔力が枯渇することなく、体を温められる暖房になってくれるのだ。
「プルス、布団の中に入ってくれる」
「わかりました」
プルスは布団の中に入り、僕の体にくっ付いてくる。とても暖かい。少しすると、ルパが寝返りを打ち、無意識か意識があるのかわからないが、僕に抱き着いてきた。ようやく僕もルパを抱きしめられる。
ぎゅっと抱きしめてあげると、ルパの尻尾が少し動くので安心してくれているのかもしれない。
ルパと僕でプルスを挟みながら眠ることで冬の寒さにも対抗していた。
次の日の朝。僕はいつも通り朝五時頃に目を覚ました。
外は当然真っ暗だ。カンデラの明りを少しだけ灯し、足下が見えるようにする。ついでにルパの顔も……。
「うぅ……。寒い。やっぱり朝は苦手だ。でも、ルパは温かいなぁ」
ルパは僕の体に未だに抱き付いていた。僕は起き上がって外に出る。
昨日よりも雪が積もっているが、海が近いお陰かニ〇センチも積もっていない。一五センチくらいだ。
草むらがないので茂みで用を足し、雪を被せておく。トイレだけは恋しいと思ってしまう生活だが、今日は前々から計画していた探検に向かおうと思っている。ルパも今日を楽しみにしていた。
「今日は一二月二二日。一年で最も気温が低くなると言われている日。証拠はあるんだ。きっと見つけて見せるぞ」
僕は立ち昇る湯気を見て右手を高らかにあげた。
僕が家の中に戻った時、ルパが眼を丁度覚まし、起き上がっていた。
そのまま眠たい眼を擦りながら歩き、扉を開けて冷たい風を浴びた瞬間尻尾が垂れさがり、ブルブルと震えていた。体感温度を一気に下げたせいで眠気は冷めたと思うが、顔が凍っていた。
「うぅ、顔が冷たい……」
「いきなり扉を開けるからだよ。もっと着込んで外に出ないと凍えちゃうでしょ」
「まだ大丈夫。私はもう少し寒くても元気に動けるから、鍛錬したあと森に早く行こうね」
「わかってる。焦らなくても場所はすぐにわかるんだから、絶対にたどり着けるよ」
「うぅ~、楽しみ。でも、なんでこの前まで気づかなかったんだろう」
「多分風向きが変わったから、湯気に気づいたんだよ。あの湯気がなかったらまさかあれがあるとは思わなかった。勝手にお湯が沸き上がる泉が森の中にあるなんてね」
「勝手にお湯が湧き出るなんて凄い。いつでもお湯で体を洗えるなんて夢みたいな場所だよ。早く鍛錬してすぐに調べに行こう!」
「はいはい。わかったよ。じゃあ、外で待ってるから」
「了解! トイレ行った後すぐに手を洗っていつもの場所に向うから、先に行ってて」
ルパは靴を履いて雪の降る外に飛び出した。
嫌がっていた靴もこれだけ雪が降るとさすがに履くようになった。
履き始めると動きやすい事実に気づいたらしく、戦闘中も靴を履くようになった。
だが、靴の消耗が激しいので数回の戦闘で買い直す必要があるくらい、ルパの踏み込みは強い。
雪が降っていなければ靴を履かずに戦いたいそうだが、素足になるともっと加速力が上がるので、僕の眼ではもう追いつけないかもしれない。
鍛錬でルパの足は僕よりも早くなった。持久力は僕の方がまだ上だが、じきにぬかされるかもしれない。人と獣族なので能力の差は確かにあるが、ルパに負けるとルパはこの場を去ってしまう。
出来れば避けたいので、僕も強くならなくては……。
「そうだね。やっぱり家の中は最高だ。じゃあ、勉強の続きをしようか」
「うん。今日も勉強する。えっと、文字はもう全部覚えたし、書けるようにもなった。次は何をするの?」
「今日からは計算を勉強しよう。まずはお金の計算からだ」
「お金の計算。出来るようになりたい」
「じゃあ、実物を使って計算しようか」
僕とルパは脚の低い机を挟んで向かい合って床に座っている。僕は銅貨一枚と銀貨一枚、金貨一枚、虹硬貨一枚を小袋から取り出して机に並べた。
「はい、これの名前はわかるかな?」
「お金」
「そうだね。それじゃあ、高い物を買える順に並べてみて」
「わかった」
ルパは硬貨を一か所に集め、右から銅貨、銀貨、金貨、虹硬貨の順に並べた。
「正解。よく覚えてたね」
僕はルパの頭を撫でて褒める。ルパははにかみながら尻尾を振っていた。
「買い物でニクスが良く使っている奴から並べただけ」
「それでも正解は正解だよ。じゃあ、次に銀貨は銅貨何枚分かわかるかな?」
「えっと、確か……。一〇枚」
「正解。よしよし、よく覚えてたね。硬貨は銅貨から大金貨までは一〇枚ごとに同じ値段になる。虹硬貨は大陸で価値の一番高い硬貨で金貨一〇〇〇枚分あるんだって」
「へぇ、この硬貨が金貨一〇〇〇枚分と同じなのか。なんかよくわからないから変な感じ」
ルパは虹硬貨を摘まみ、弾いたり回したりして遊んだ。
「そうだよね。僕もよくわからないから、全然使えないよ」
――兄さんたちにお金の仕送りでもしようかな。国と場所がわかっているからお金も送れるはずだ。でも、出てきた手前、お金を送っても変な気分だし……。学費を返すって手紙を書いて送ってもいいな。
「じゃあ、復習はここまで。今から勉強を始めるよ」
「はーい」
僕は木版に黒い塗料を塗った黒板に白石灰(チョーク)を使って数字と数式を書いていく。
ルパに計算式を覚えてもらい、簡単な買い物をしてもらった。
ルパは余裕で正解し、応用の問題も難なく解いた。彼女はそこそこ賢いようだ。
足し算、引き算は容易に使いこなし、掛け算、割り算は少し苦戦していた。それでも、楽しそうに勉強するものだから、僕も教えるのが楽しくて仕方なかった。
一人で勉強している時はあまりにも楽しくなかったが、今は違う。いつまでも勉強できそうだ。二時間ほど勉強したのち、ルパは机に突っ伏して眠ってしまった。どうやら最後の問題を解いて疲れ切ってしまったのだろう。
僕はルパを布団のある寝床に移動させ、布団をかぶせた。
「お休み、ルパ」
ルパはむにゃむにゃと口を動かし、返事をする。何を言っているのか全くわからないが、きっと特に意味はないだろう。
「プルス、炎の衣ありがとう。もういいよ」
「了解です」
プルスは僕の頭で翼をはためかせると、僕とルパの体を纏っていた炎の衣が消えた。
僕は角ウサギの毛皮で作った服を着こんだまま、布団の中に入る。
ルパの温もりが分厚い布団に移っており、ぬくぬくだった。このままルパを抱きしめて湯たんぽにしてみたいと何度も思ったが、抱き着くと怒るので、僕からは動けない。
だが、プルスが胸に入ってくると、プルスの熱が体に伝わりとても暖かく眠れるようになる。プルス自身は魔力を使って暖かくなっている訳ではないので、魔力が枯渇することなく、体を温められる暖房になってくれるのだ。
「プルス、布団の中に入ってくれる」
「わかりました」
プルスは布団の中に入り、僕の体にくっ付いてくる。とても暖かい。少しすると、ルパが寝返りを打ち、無意識か意識があるのかわからないが、僕に抱き着いてきた。ようやく僕もルパを抱きしめられる。
ぎゅっと抱きしめてあげると、ルパの尻尾が少し動くので安心してくれているのかもしれない。
ルパと僕でプルスを挟みながら眠ることで冬の寒さにも対抗していた。
次の日の朝。僕はいつも通り朝五時頃に目を覚ました。
外は当然真っ暗だ。カンデラの明りを少しだけ灯し、足下が見えるようにする。ついでにルパの顔も……。
「うぅ……。寒い。やっぱり朝は苦手だ。でも、ルパは温かいなぁ」
ルパは僕の体に未だに抱き付いていた。僕は起き上がって外に出る。
昨日よりも雪が積もっているが、海が近いお陰かニ〇センチも積もっていない。一五センチくらいだ。
草むらがないので茂みで用を足し、雪を被せておく。トイレだけは恋しいと思ってしまう生活だが、今日は前々から計画していた探検に向かおうと思っている。ルパも今日を楽しみにしていた。
「今日は一二月二二日。一年で最も気温が低くなると言われている日。証拠はあるんだ。きっと見つけて見せるぞ」
僕は立ち昇る湯気を見て右手を高らかにあげた。
僕が家の中に戻った時、ルパが眼を丁度覚まし、起き上がっていた。
そのまま眠たい眼を擦りながら歩き、扉を開けて冷たい風を浴びた瞬間尻尾が垂れさがり、ブルブルと震えていた。体感温度を一気に下げたせいで眠気は冷めたと思うが、顔が凍っていた。
「うぅ、顔が冷たい……」
「いきなり扉を開けるからだよ。もっと着込んで外に出ないと凍えちゃうでしょ」
「まだ大丈夫。私はもう少し寒くても元気に動けるから、鍛錬したあと森に早く行こうね」
「わかってる。焦らなくても場所はすぐにわかるんだから、絶対にたどり着けるよ」
「うぅ~、楽しみ。でも、なんでこの前まで気づかなかったんだろう」
「多分風向きが変わったから、湯気に気づいたんだよ。あの湯気がなかったらまさかあれがあるとは思わなかった。勝手にお湯が沸き上がる泉が森の中にあるなんてね」
「勝手にお湯が湧き出るなんて凄い。いつでもお湯で体を洗えるなんて夢みたいな場所だよ。早く鍛錬してすぐに調べに行こう!」
「はいはい。わかったよ。じゃあ、外で待ってるから」
「了解! トイレ行った後すぐに手を洗っていつもの場所に向うから、先に行ってて」
ルパは靴を履いて雪の降る外に飛び出した。
嫌がっていた靴もこれだけ雪が降るとさすがに履くようになった。
履き始めると動きやすい事実に気づいたらしく、戦闘中も靴を履くようになった。
だが、靴の消耗が激しいので数回の戦闘で買い直す必要があるくらい、ルパの踏み込みは強い。
雪が降っていなければ靴を履かずに戦いたいそうだが、素足になるともっと加速力が上がるので、僕の眼ではもう追いつけないかもしれない。
鍛錬でルパの足は僕よりも早くなった。持久力は僕の方がまだ上だが、じきにぬかされるかもしれない。人と獣族なので能力の差は確かにあるが、ルパに負けるとルパはこの場を去ってしまう。
出来れば避けたいので、僕も強くならなくては……。
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