上 下
162 / 341
新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

ルークス銀行

しおりを挟む
「ふぅ。じゃあ、私は素材をお金に変えてくるから、少し待ってて」

「了解です。ミートさん、素材の換金の時は出来るだけ交渉した方がいいですよ」

「わかってる。こう見えてもAランク冒険者だからね。素材の交渉は得意なんだよ」

 ミートさんは大量の素材を持ち、大きな冒険者ギルドに向った。

「ミートさん、全部持って行っちゃった。いいの?」

 ルパは僕の手を握りながら言う。

「別にいいよ。ルパはただお肉が食べたかっただけでしょ。お金が欲しかったわけじゃない」

「それもそうか……。別にお金なんて無くても、私はこのままでもいいや」

 ルパは僕に抱き着きながら尻尾を振る。

 これまた一時間ほど待った。暇な時間は馬車の中で石を磨き、綺麗さを整える。

「はぁ、はぁ、はぁ。ごめん、長い間待たせちゃったね」

 ミートさんが息を切らして馬車に戻ってきた。ジャラジャラと言う音が心地よく、ミートさんの顔が満面の笑み。どうやら、良い交渉が出来たらしい。

「ヌータウロスの毛皮が一枚金貨五枚、枚数が二〇枚あったから、金貨一〇〇枚。角が金貨一枚で四〇本。金貨四〇枚。魔石が金貨五枚で二〇個あったから金貨一〇〇枚。合計二四〇枚の金貨を貰えたよ」

「へぇ~。ヌータウロスって結構儲かるんですね」

「そりゃあ、ヌータウロスだからね。あと、素材の質がすごくよかったの。首を一発で切り落としていたから、ほぼ値下げさせずに売れた。でも、私が全部狩ったことにすると、後々面倒だから、三人で狩ったことにしたの。だから、はい」

 ミートさんは革袋を僕とミルに一袋ずつわたしてきた。

「一袋に金貨八〇枚入ってる。これで当分働かなくて済むよ」

 ミートさんの笑顔を見て、僕は別に必要ありませんよ、と言うのも申し訳なく思い、潔く受け取っておく。

「ありがとうございます。ありがたくいただきます」

 僕が受け取ると、ルパも一応受け取っていた。

「よし! じゃあ、私は今止まっている船に乗ってルークス王国の王都の近くにあるフランツの街まで行ってくる。借りた馬はすぐそこの厩舎にいる人にお願いすれば引き取ってくれるよ」

「そうですか。じゃあ、僕達もここからは徒歩で移動しようと思います」

「見たところ馬車がバンバン通っているから気をつけてね。それじゃあ、ニクス君、私は将来の旦那様に合ってくるよ!」

「はは……、ミートさんと言い話が進めばクワルツ兄さんが手紙を送ってくると思うので、期待して待っていますね」

「うん。それじゃあ、式場で会おう!」

「あ、ちょっと待ってください。ミートさんにこれを渡しておきます」

 僕は先ほどまで磨き続けていた石を取り出し、握って魔力を込める。

「え、えぇ、な、なにこれ。宝石?」

「ただの石です。この石をミートさんに渡します。多分僕と出会ったと言う証拠になるはずです。クワルツ兄さんは無駄に用心深い所があるので、ただ言っても気付いてもらえないかもしれません。ですから、この石を見せてください。そうすれば、僕に教えてもらったと理解してくれるはずです」

「な、なるほど……。あ、ありがとうニクス君。じゃあ、行ってくるよ!」

 ミートさんは僕の削った石を手に取り、笑顔で走って行った。ほんと、元気な人だなと思い、しっかり者すぎるクワルツ兄さんにはちょうどいい具合の塩梅を取ってくれそうだ。

 僕は馬と馬車を厩舎の方に渡し、返却を完了した。

「じゃあ、ルパ。僕達も目的地に行こうか」

「そう言えば、どこに向っていたの?」

「僕達が向かっていたのはルークス銀行と言う金融機関だよ。小切手を交換しに来たんだ。さて、ルークス銀行はどこかな……」

 僕はルパの手を握りながら、辺りを見渡す。どこもかしこも建物ばかり。どれがルークス銀行の建物なのか全くわからない。どこを見渡しても人、建物、人、建物、人、建物ばかり。

「うぅ、私、ここ苦手……。人がいっぱいいすぎて怖い……」

「ルパ。ゆっくり息を吸ってゆっくり吐くんだ。大丈夫。誰も襲ってきたりしない。僕と手を繋いでいっしょに歩いていれば、不審がられないよ」

「う、うん……」

 ルパは僕の手を握るどころか、腕を組みギュッと近寄ってくる。そこまでしたら歩きにくいと思うのだが、彼女は手を握るだけだとまだ怖いそうなので仕方ない。

 僕はルパと腕を組みながらゆっくり着実に歩いていく。

 魔法で空を移動する人や奴隷を連れている人、冒険帰りなのか、ドロドロ塗れの人など、いろんな人たちがいて怖いと言う気持ちがある反面、賑やかな場所だなと思う。
 ただ、人が多い所には犯罪も多く、大きな道を少し出れば、薄暗く、放浪者の蔓延る危険地帯になる。

 路地に連れ去られる子供や女性が多く、見回っている騎士達がすぐさま助けに向かうと言った場面を何度も見かけた。

 僕も見えない所から小石を投げて悪人の腕を貫通させ、子供から手を放させたりして悪事を取り締まる。僕にそんな顕現はないのだが、気づかれなければ問題がないので、考えないようにした。

 僕とルパはルークス銀行の前に到着した。ルークス銀行の周りには騎士達が数名待機しており、悪事を取り締まっている。

 僕がルークス銀行に入ろうとすると、なぜか騎士達が寄ってきた。怖い形相で睨みを聞かせてくる。

「ムムム……、お前……ニクス・ガリーナだろ」

「お前もそう思ったのか。俺も黒髪の男性が近づいてきた時、ニクス君だと思ったんだよ」

「え、私も思いました。やっぱりどう見てもニクスさんですよね」

 三名の騎士が僕の元に近寄ってきた。僕は「仕事しろよ……」と思ったが、もしかしたら僕が不審者だと思われているのかもしれない。ルパも怖がってふさぎ込んじゃってるし、荒事にならないようにしないと。

「えっと、えっと……。僕は悪人じゃないです。ただの観光客ですよ」

「だれも悪人なんて言ってないだろ。と言うか、お前はニクス・ガリーナだよな?」

「ま、まぁ、一応……」

 ――今は家名を名乗れないから、少し違うんだよな。今はニクス・フレイズなんだけど、なんでこの騎士は僕の名前を知っているんだ?

「やっぱりか。俺だよ俺。騎士養成学校の一〇八期卒業の同級生だ」

「俺もそうです。ニクスさんと同じ一〇八期卒業の同期なんですよ」

「私も、私も~」

 三人は僕の同級生らしい。なぜ三人は僕の名前を知っていて僕は知らないのだろう。おかしな話だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完】眼鏡の中の秘密

BL / 完結 24h.ポイント:624pt お気に入り:42

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:30,268pt お気に入り:645

獣人の恋人とイチャついた翌朝の話

BL / 完結 24h.ポイント:1,702pt お気に入り:32

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:57,488pt お気に入り:6,936

マイダンジョン育成中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:420pt お気に入り:75

あなたの妻にはなれないのですね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:43,153pt お気に入り:403

処理中です...