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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。

巨大な津波

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「ありがとうルパ……。助かったよ」

 ルパは大きく首を振って助けられたのは自分の方だと言いたそうな表情で泣く。

「血が無いと自分で立てなくなるほど力が抜けるのか……。これじゃあ、救助活動が上手く出来ない……。一回死ぬか……、いや、駄目だ。何度も死んで良い命なんて無い。命は一つだから尊いんだ」

 僕は体を炎の衣で包む。血の無い分を魔力で補い、ルパの補助無しで移動できるようになった。

「これだけの地震があった後じゃ、津波が絶対に来る。早く逃げないと……。もう、一〇分も経っているんだ、時間が無い。ルパは足が速いからできるだけ遠くに逃げるんだ。ここは海から結構離れているから逃げればまだ助かる。僕は出来る限り人を助けてから……って、ちょ、ルパ! なにしてるの!」

 ルパは泣きながら僕を担ぎ、走り出す。

 律儀に荷物も抱えており、プルスは僕の頭に飛び乗っていた。

 ルパはガラスや瓦礫塗れの地面を思いっきり踏みつけながら海と反対方向に走る。

 僕は助けを求められる声のする方を見るも、皆建物に潰されており、今からじゃ助けられない。

 出来たのは入口付近にいる人に圧し掛かっていた建物をファイアで燃やし、灰にして脱出させるくらいだ。

『ドドドドドドドドドドドド!』

 二度目の大きな地震が襲い掛かって来た。

「うわっ! 二回目! ルパ! すぐそこの広場に移動して!」

 ルパは足場がおぼつかなくなる前に思いっきり跳躍し、周りの建物が少ない広場に非難する。

 地面が揺れている間、ルパは僕の体に抱き着いて怖さを凌ぎ、僕は魔力を練って体力を回復させる。辺りにも生き残っている人がおり、避難してきたようだ。

「ママ! 怖いよぉ~! パパとお兄ちゃんはどこにいるの~!」

「大丈夫、きっと生きてるわ。だから、私達も生き残りましょう。絶対大丈夫だから」

 子と母が抱き合いながら励まし合い、縮こまっていた。

「ハハハ! 全部潰れてやがる! なんじゃこりゃ! 夢か、夢だろ! ハハハ!」

「しっかりして! 今、ぶっ壊れてる場合じゃないでしょ。揺れがおさまったら逃げるよ!」

 カップルなのか冒険者の服を着ている女性が男性を何度も叩いて勝機に戻させようとしている。男性の方は顔がボコボコだ。

「ニクス……、ニクス……、ニクス……、ニクス……」

 ルパは僕に抱き着き、名前を連呼していた。

 僕はここにいるのだからそんなに呼ばなくても分かるのに。今、ルパを守れるのは僕だけだ。だからこそ、僕は死んでいられない。

「ルパ、安心して、大丈夫だから。僕は生きてる。絶対にルパを死なせたりしない」

「ううぅ……、ニクス~! ニクス~! うわぁぁぁぁぁぁぁん!」

 ルパは声がせっかく出せるようになったのにまたもや叫びながら泣いていた。ルパの泣き声は二度目の大きな地震がおさまるまで続く。三分経ち、地震がおさまった。

「よし、ルパ。逃げるよ」

「うん。全力で逃げる」

 僕は体の中に魔力を循環させて血液の代わりをさせていた。老廃物は炎の衣で無理やり消し、動ける体を維持する。

 初めの大きな地震から一五分ほとだったころだった。
 午後五時過ぎだったが、天気がよどんでいるので視界が少し暗い。多くの人が立ち尽くして泣いていたのだが何かを見て顔を青ざめさせた。
 そのあと、思いっきり走り始める者と全く動けない者に分かれた。

「に、ニクス……、何か近づいてくる……。大きな壁みたいなものがドンドン近づいてきてる……。何この音……、あり得ないよ……」

 ルパは地面に縮こまり、耳を押さえて恐怖に震えていた。

「そんなに怖い何かが近づいてきているの……。もしかして津波が来たのか……」

「津波? 津波ってなに……」

「津波って言うのは大きな地震の後に起こる災害のことだよ。情報誌にも乗ってた。大きな津波が街を飲み込んで多くの死者を出したって……」

「そ、そんな……。じゃあ、この音は津波の迫ってくる音なの……。ずっと鳴り響いてるよ。長い長い間、ゴゴゴゴゴゴゴってずっと鳴り響いてる。どんどん近づいてきて、もう、すぐそこまで近づいてきてる……」

「すぐそこまで……」

 僕は海のある方向を見た。すると何か近づいてきていると遠目でも分かる。遠くから見たら小さな波が近づいてきているようにしか見えなかった。でも、ルパの反応からして小さい波な訳がない。そもそも、遠くから見て波が見えるだけでもおかしい。

 僕と同じように思った人たちが一斉に海とは逆の方向に走り出したのだ。

「プルス……、炎の翼を使える?」

「はい。今の主の魔力量でも使用できます」

「ルパ、僕に抱き着いて。絶対に離したら駄目だよ」

「うん……。死んでも離さない……。ずっとずっと抱き着いてる」

 ルパは僕の胸に大きな耳を当てるようにして抱き着いてきた。今、この状況で僕たちの方を見る者は誰一人としていなかった。自分の命を守らなければならないと思っていたからだ。

 僕の頭に乗っていたプルスは背中に向かい、炎の翼になる。

 僕はほんの少し跳躍し、翼を羽ばたかせる。地上から一〇〇メートル上空に移動した僕は滑空して海の方に向かった。

「う、嘘でしょ……。な、なんだ、これ……」

 台地を抉るような空気の振動と、何もかも飲み込んでしまいそうなほど大きな水の壁がブレーブ街に迫ってきていた。
 波の高さは約八〇メートル。横の長さは見切り出来ないので三キロメートル以上。
 今、街の建物はほぼ倒壊し、小さな津波を防げるような壁や防波堤など意味をなさない。なんせ、街にあった建物は八〇メートルもなかったのだ。城壁ですら二五メートルしかないのに……。あまりに大きすぎる怪物が迫ってきて、僕の思考は止まっていた。

「プルス、あの津波は止められないの……」

「不可能です。今の主の魔力量では到底止められません。一〇〇〇回死ぬ覚悟があるのなら……可能性はあります」

「僕の命を一〇〇〇回掛けないとあの津波が止められないんだ……。そもそも、僕の復活する時間ってどれくらいなの?」

「欠損の大きさによりますから、出来るだけ傷を小さくすればすぐに蘇生します。ただ……、主の場合、体が頑丈すぎるので通常よりも死ぬ時間が長くなると予測されます。津波の速度が見たところ時速三〇キロメートル。港まで、もう、三キロメートルもありません。六分足らずで到着してしまいます」

「はは……、死ににくいせいで、こまる時がくるなんて思わなかった……」
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