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実家に向かう
二カ月ぶりの帰還
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ディアさんがペガサスさんの背中に乗り、第三王子、リリル、スグルさんの三名が乗った。重そうだが、銀の翼をはためかせると宙に浮き、王都の方角に飛んで行く。
「ニクス達はこれからどうするんだ?」
クワルツ兄さんが僕に質問してきた。
「僕は未開拓の土地の家にいったん戻るよ。もうすぐ冬だし、冒険には不向きな季節だからさ、おとなしくしているつもり」
「そうか。正月になったらまた家族で集まるし、来れるなら、皆で新年を迎えよう」
「そうだね。来れるように努力するよ」
「ニクス君、ルパちゃんとミアちゃんを大切にね」
ミートさんが二日酔い気味の廃れた笑顔を僕に見せて来た。手を握り、のこったアルコールを燃やしてあげると、すっきりとした顔になり、先ほどとは比べ物にならない笑顔を浮かべる。
「はい。二人は僕が責任をもって育てます」
「な、育てるってなに、親気分なわけ!」
「むぅ~、私達はニクスさんの子供じゃありませんよ~」
ルパとミアは僕をぽこすか殴り、怒りを表す。
「ニクス、異邦でも気をつけてな」
ガイアス兄さんは僕の頭に手を置き、子ども扱いしてきた。
「うん、ガイアス兄さんも奥さんを置いて死なないようにね」
「ああ、善処する」
「ニクス君、いつでも帰って来ていいからね。美味しい料理を作って待ってるから」
マリアさんが僕に抱き着いてくる。僕も御姉さんを抱きしめ、感謝する。
「ありがとうございます。えっと、渡しそびれたんですけど、ダイヤモンドの指輪を作ってきたんです。新婚祝いに貰ってください」
僕は二カ月ほど前から作り続けてきた巨大なダイヤがついた指輪をマリアさんに渡す。指輪入れにはちゃんと入れてあるので、箱を開けてからのお楽しみだ。
マリアさんは木製の箱のふたを外す。すると、ダイヤモンドカットされた半透明な物質が光を屈折させ、輝きを放つ。
「う、うわっ! ダイヤモンド大きすぎ! なにこれ、どうなってるの!」
マリアさんは大きめの卵ほどのダイヤモンドを持ち上げ、叫んだ。
「僕の趣味で作ったダイヤモンドの指輪です。ただで申し訳ないんですけど、貰ってください」
「あ、ありがとう。大切に飾らせてもらうよ」
マリアさんは嬉しそうに微笑み、何度も頭を下げて来た。
「…………」
「…………父さん、じゃあ、僕たちはもう行くね」
僕は何も喋らない父さんに背を向けて歩く。
「ニクス。風邪を引かないようにな……」
父さんはぼそっと言うと、家の中に足早に戻っていった。
「はは……。父さんも飲み過ぎには気を付けて」
父さんと僕は一言ずつ言葉を交わし、わかれた。そのまま、僕たちはガリーナ家と知り合いの皆から離れていく。
「ニクス。今から帰るの?」
ルパは、僕の手を握りながら聞いてきた。
「そうだね。旅も疲れたし、泉で体を癒そうか」
「うんっ! お湯が出る泉で体を温めた後、蒸し風呂に入って気絶するくらい体を休める」
「気絶するまではやりすぎだよ。じゃあ、ミア、僕たちの家に案内するよ」
「はい! 私もニクスさんの力になれるよう、精一杯努力します」
ミアも僕の手を握りながら、元気よく答えた。
街中は昨日の事件の犯人を捜している。どうも皆、角ウサギに襲われたと言っている。昨日の少女は誰にも見えていなかったのだろうか。だとしたら、殺人少女ではなく、殺人兎の大群が襲ってきたと噂になるだろう。他国でもそうなのだろうか。まあ、今回の騒動での死者はおらず、僕が全身回復させた。
――殺人兎の情報を辿れば、あの少女の行方を知ることができる。でも、少女は人間だ。寒い場所を移動することは難しいはず。動き出すとしたら来年の四月くらい。出来るのなら動かないでほしいけど、あの欲求深さは病気だし、欲しいと思ったものは全部自分の物なんて言うおっかない性格。もう会いたくないけど、少女が殺されるなんて考えたくもない。王都でテリアさん達にお土産を買っておいたし、もう、帰ろう。
僕たちはフランツの街の港に移動し、人目を避けて炎の翼を展開。
「ミア、高い所に行くけど、我慢してね」
「は、はい。ニクスさんにぎゅっと抱き着いて我慢します」
ミアは僕に抱き着き目を瞑る。ルパは慣れたように僕に抱き着いた。
僕は縄で二名の体を僕の体に固定し、落ちないように心がけている。
「プルス、帰る方向はわかっているよね」
「はい。この場からほぼ反対側の位置に目的地があります。では飛びます」
プルスは翼をはためかせ、目的地の鳥籠へと向かう。安全に配慮して飛び、時間にして一三時間ほど空の旅をしたころ、僕たちは鳥籠に到着した。
「んんんんっ~! はぁ~! やっぱり落ち着く」
ルパは家の前で伸びをしながら、息を大きく吐く。
「はわわ……、あ、足がやっと地面に付きました……」
ミアは目を回しながら、千鳥足で地上に立っていた。
「ふぅ……。約二カ月ぶりの帰還だ。にしても、ヒヨコが増えたな……」
僕たちが家に帰ってくるころには、沢山のヒヨコたちが孵っており、プルスを投げ込むと黄色と赤色が違うだけで見た目はほぼ同じだった。
「ちょ、やめてください、押さないでください」
プルスはヒヨコたちに囲まれ、おしくらまんじゅうの状態になり、とても熱そうだ。
ヒヨコが増えれば卵も増える。仲間が一人増えたし、これを機にこの場を牧場にすると言う計画も始めようかな……。
「ニクス、ニクス! 泉に入りに早く行こう! もう、待ちきれないよ」
ルパは僕の手を取り、引っ張ってくる。泉のお湯に入りたくて仕方がないようだ。
「わかったわかった。まず、荷物を置いて水を持ってからね」
僕は荷物を置いてみずだめに溜まっている水を水筒に入れた後、泉に向かう。ミアは初めての自然のお風呂に浸かるわけだが、どういう感想を言ってくれるだろうか。
僕たちは森の中にある泉に向かった。すでに冬になりかけているのでとても寒い。帰って来た時刻は午後五時だが、もう暗くなり始めている。
二カ月前は八月だったので、こんなに日照時間が短くなっているとは思わなかった。
「ニクス達はこれからどうするんだ?」
クワルツ兄さんが僕に質問してきた。
「僕は未開拓の土地の家にいったん戻るよ。もうすぐ冬だし、冒険には不向きな季節だからさ、おとなしくしているつもり」
「そうか。正月になったらまた家族で集まるし、来れるなら、皆で新年を迎えよう」
「そうだね。来れるように努力するよ」
「ニクス君、ルパちゃんとミアちゃんを大切にね」
ミートさんが二日酔い気味の廃れた笑顔を僕に見せて来た。手を握り、のこったアルコールを燃やしてあげると、すっきりとした顔になり、先ほどとは比べ物にならない笑顔を浮かべる。
「はい。二人は僕が責任をもって育てます」
「な、育てるってなに、親気分なわけ!」
「むぅ~、私達はニクスさんの子供じゃありませんよ~」
ルパとミアは僕をぽこすか殴り、怒りを表す。
「ニクス、異邦でも気をつけてな」
ガイアス兄さんは僕の頭に手を置き、子ども扱いしてきた。
「うん、ガイアス兄さんも奥さんを置いて死なないようにね」
「ああ、善処する」
「ニクス君、いつでも帰って来ていいからね。美味しい料理を作って待ってるから」
マリアさんが僕に抱き着いてくる。僕も御姉さんを抱きしめ、感謝する。
「ありがとうございます。えっと、渡しそびれたんですけど、ダイヤモンドの指輪を作ってきたんです。新婚祝いに貰ってください」
僕は二カ月ほど前から作り続けてきた巨大なダイヤがついた指輪をマリアさんに渡す。指輪入れにはちゃんと入れてあるので、箱を開けてからのお楽しみだ。
マリアさんは木製の箱のふたを外す。すると、ダイヤモンドカットされた半透明な物質が光を屈折させ、輝きを放つ。
「う、うわっ! ダイヤモンド大きすぎ! なにこれ、どうなってるの!」
マリアさんは大きめの卵ほどのダイヤモンドを持ち上げ、叫んだ。
「僕の趣味で作ったダイヤモンドの指輪です。ただで申し訳ないんですけど、貰ってください」
「あ、ありがとう。大切に飾らせてもらうよ」
マリアさんは嬉しそうに微笑み、何度も頭を下げて来た。
「…………」
「…………父さん、じゃあ、僕たちはもう行くね」
僕は何も喋らない父さんに背を向けて歩く。
「ニクス。風邪を引かないようにな……」
父さんはぼそっと言うと、家の中に足早に戻っていった。
「はは……。父さんも飲み過ぎには気を付けて」
父さんと僕は一言ずつ言葉を交わし、わかれた。そのまま、僕たちはガリーナ家と知り合いの皆から離れていく。
「ニクス。今から帰るの?」
ルパは、僕の手を握りながら聞いてきた。
「そうだね。旅も疲れたし、泉で体を癒そうか」
「うんっ! お湯が出る泉で体を温めた後、蒸し風呂に入って気絶するくらい体を休める」
「気絶するまではやりすぎだよ。じゃあ、ミア、僕たちの家に案内するよ」
「はい! 私もニクスさんの力になれるよう、精一杯努力します」
ミアも僕の手を握りながら、元気よく答えた。
街中は昨日の事件の犯人を捜している。どうも皆、角ウサギに襲われたと言っている。昨日の少女は誰にも見えていなかったのだろうか。だとしたら、殺人少女ではなく、殺人兎の大群が襲ってきたと噂になるだろう。他国でもそうなのだろうか。まあ、今回の騒動での死者はおらず、僕が全身回復させた。
――殺人兎の情報を辿れば、あの少女の行方を知ることができる。でも、少女は人間だ。寒い場所を移動することは難しいはず。動き出すとしたら来年の四月くらい。出来るのなら動かないでほしいけど、あの欲求深さは病気だし、欲しいと思ったものは全部自分の物なんて言うおっかない性格。もう会いたくないけど、少女が殺されるなんて考えたくもない。王都でテリアさん達にお土産を買っておいたし、もう、帰ろう。
僕たちはフランツの街の港に移動し、人目を避けて炎の翼を展開。
「ミア、高い所に行くけど、我慢してね」
「は、はい。ニクスさんにぎゅっと抱き着いて我慢します」
ミアは僕に抱き着き目を瞑る。ルパは慣れたように僕に抱き着いた。
僕は縄で二名の体を僕の体に固定し、落ちないように心がけている。
「プルス、帰る方向はわかっているよね」
「はい。この場からほぼ反対側の位置に目的地があります。では飛びます」
プルスは翼をはためかせ、目的地の鳥籠へと向かう。安全に配慮して飛び、時間にして一三時間ほど空の旅をしたころ、僕たちは鳥籠に到着した。
「んんんんっ~! はぁ~! やっぱり落ち着く」
ルパは家の前で伸びをしながら、息を大きく吐く。
「はわわ……、あ、足がやっと地面に付きました……」
ミアは目を回しながら、千鳥足で地上に立っていた。
「ふぅ……。約二カ月ぶりの帰還だ。にしても、ヒヨコが増えたな……」
僕たちが家に帰ってくるころには、沢山のヒヨコたちが孵っており、プルスを投げ込むと黄色と赤色が違うだけで見た目はほぼ同じだった。
「ちょ、やめてください、押さないでください」
プルスはヒヨコたちに囲まれ、おしくらまんじゅうの状態になり、とても熱そうだ。
ヒヨコが増えれば卵も増える。仲間が一人増えたし、これを機にこの場を牧場にすると言う計画も始めようかな……。
「ニクス、ニクス! 泉に入りに早く行こう! もう、待ちきれないよ」
ルパは僕の手を取り、引っ張ってくる。泉のお湯に入りたくて仕方がないようだ。
「わかったわかった。まず、荷物を置いて水を持ってからね」
僕は荷物を置いてみずだめに溜まっている水を水筒に入れた後、泉に向かう。ミアは初めての自然のお風呂に浸かるわけだが、どういう感想を言ってくれるだろうか。
僕たちは森の中にある泉に向かった。すでに冬になりかけているのでとても寒い。帰って来た時刻は午後五時だが、もう暗くなり始めている。
二カ月前は八月だったので、こんなに日照時間が短くなっているとは思わなかった。
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