ヘテロクロミアの魔眼騎士

礼(ゆき)

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本編

34,部屋を片付けて、気づいてしまう

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 丸いパン数個と細長いパンを一本購入し、二人は帰宅した。靴を脱ぎ、室内に入る。
 テーブルに食材を入れた袋を置いたデュレクは、品を確かめながら並べてゆく。
 セシルは横から物珍しそうに覗き込む。

「これをどうするのだ」
「まずは、今日使う品を残して、仕舞うよ」
「仕舞う? ここにある食材は、すぐ使うわけじゃないのか」
「そりゃあねえ、こんな量を一食で、食べきれない。食材の買い溜めはしておくものだよ。毎日、買い物に行かないしさ。瓶詰と缶詰を常備しておくと楽したい日には楽できる」

 よく分からないとばかりに、ポカンとするセシルに、(家事一つ、知らない子なんだなあ)とデュレクはしみじみと感じいる。知らないことを誤魔化さないところに育ちの良さが伺えた。

「家事って、怠けたくなる日があるものなんだよ」
「なんで?」
「それは……、毎日、同じことの繰り返しだもん。
 野菜類は数日は保存できる。瓶や缶は長期で保存できる。生肉や魚は腐りやすい。その日のうちに食べることになる。魚や肉でも干してあるものは日持ちする」

 初めて聞くことばかりで、セシルは目が回りそうだった。
(一人で暮らすって、想像していたより、ずっと大変じゃないか!)

 王宮にいた時の泰然とした雰囲気はどこにいったのか。思ったことがすべて顔に張り付いているセシルを見て、デュレクは苦笑する。

「まずはセシルは自分の部屋の管理からだね」
「管理って?」
「例えば、朝のベッドメイキング、クローゼットの整理、衣類の洗濯と片づけ、シーツも定期的に洗った方がいいし、部屋にカーテンもあっただろう。年に一回や二回は洗いたいよね」
「そんなに、やることあるの……」

 途方に暮れるセシルを見ているのがデュレクは心底面白い。

(こんなに知らない状態でよく家を出たものだなあ。事情が事情だし、出た方が良かったとも言えるけど、この状態で一人暮らしはねえ……)

 これだけ関わってしまっては追い出せない。デュレクの方が気になってそわそわしそうだ。

「屋敷に住んでいた時は、セシルが出かけた後で、使用人がベッドメイキングから、洗濯、クローゼットの整理までしていたろうし、シーツも数日に一回は交換していただろうね」

 今にも涙目になりそうなセシルを見て、こらえきれなくなったデュレクはけらけらと笑いだす。
 いきなり笑われ、呆気にとられるセシルも恥ずかしくなる。からかわれている気になり腹が立ってきた。
 彼女がむっとした表情になり、彼は笑いをかみ殺した。

「ごめん、ごめん。本当にお嬢様だなと思ってさ」
「仕方ないだろ」

 セシルは口を折り曲げて、頬を赤らめる。王宮で見せていた精錬された騎士の面影もない。

「やることは本当だよ。一人で暮らすって大変だろ。手探りでいっぱい失敗するより、俺と一緒で良かったって思ってよ」

 そこは素直にセシルも認める。まっすぐな菫色の瞳でデュレクを見つめた。

「デュレク。私はまず、なにをしたらいい?」
「そうだね。今日は料理は俺が作るから、その間は部屋を片付けておいでよ。荷物を鞄に入れっぱなしだろ。ハンガーが足りなかったら言って、俺の部屋に余っているから、渡すよ」
「わかった、そうする」
「毎日、整えやすいようにして生活できるようになろうね」

 何もわからないセシルは子どものように頷いた。


 
 自室へと戻ったセシルは、真っ先にクローゼットを開く。床に無造作に置いた鞄を引っ張り出し、荷物をぽいぽいとベッドにほおり出した。一つひとつ、見聞し、分類する。
 次回、出仕する際の衣類をまとめてハンガーにかけた。

 仕事着と私服、寝間着を分ける。ハンガーにかけて、左右に寄り分けてかけた。下着類は、空いた旅行鞄一つに詰め込んだ。人に見せるものではないので、丁度良い。
 
 その旅行鞄と、宝飾品と財嚢を入れた荷袋はクローゼットの端に置いた。

「よし」

 荷物を片付けた満足感に満たされたセシルは気づく。

(下着って、どうやって洗うんだ)

 デュレクは男性である。女性用の下着の洗い方なんて知っているのだろうか。そもそも、知っていようがいまいが、訊ける相手はデュレクしかいない。
 その現状と自分の無知さに、セシルは頭を抱えた。

(これぞ、まさに、恥を忍んで聞く、ということか。
 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うが……、それはない!)
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