上 下
40 / 65
本編

40,もう一度問いかける ※

しおりを挟む
 沈黙という一呼吸置き、女を責めたくなる男心を押えて、デュレクはセシルに謝罪した。逃がすつもりはないし、逃げられるとも思えない状況でも、今後のこともある。

 なにせ彼女は、殿下や兄である団長、引いていは宰相とも話すことができる立場だ。今、ここで、セシルを傷つけて損をするのはデュレクである。失われる信頼と、呆れる兄の顔が浮かぶ。仕事をしにくくなるのは必至。

(初めてだよな。昨日が……、たぶん……)

「ごめん。先走った」

 セシルに向けて手を伸ばす。
 放心するセシルがびくっと体を強張らせる。

「悪かった」

 セシルはデュレクを見つめる。菫色の瞳には、昼間のような力強さはない。
 ゆらぐ瞳が示す意味がなんなのかデュレクにはよく分からなかった。

 セシルは、男が自分を求めてきたことに戸惑っていた。
 元婚約者に罵られ、それを払しょくするように昨日はデュレクに許した。
 あの気持ちよさをもう一度求めて、近づいた。
 ここで、逃げるのは都合よすぎることも分かっていた。すでにいい年を迎えつつある以上、頭では分かっている。

 ただ、怖かった。
 なにがどう進むのか知らずベッドの上にのぼった。背後をいきなり取られるとは想像していなかった。気持ちがついてこなかった。

 元婚約者のこっぴどいセリフを背に受けて屋敷を飛び出してきたばかりである。女と見られて求めてくる男がいると、にわかに信じ難かった。

「私が、女に見えるのか」

 するりとセシルの口から昨夜と同じセリフが零れる。
 昨日聞き流したセリフをセシルが繰り返しているとデュレクも気づく。
 
 昨夜は、すぐに事に進みたかったために『当たり前だろ』と肯定して終えてたが、さすがに今日は、なぜ問うのか気になった。

「もちろん、セシルはどう見ても女だ。良い女だよ。なんでそんなことをきく?」

 デュレクは前進する。触れずに、セシルの顔に自身の顔を近づけていく。息がかかるかという距離で止まった。
 セシルは視線を一瞬そらし、元へと戻す。

「昨日、屋敷を出る時、元婚約者に男女と罵られた。『狂暴な女なんかと、子どもなど為せるものか』という言葉を背に受けて、子爵家(うち)を出たんだ」

 やっとデュレクも合点がいった。
 
「酷いことを言うなあ」

 セシルの味方に付きながら、頬にキスをする。ゆっくりと覆いかぶさってゆく。
 セシルは抵抗せずに、ベッドに背を預ける。腕を伸ばし、デュレクの背を抱いた。
 
「ずっと仕事ばかりしてきた。そう言われても、仕方ない気もする」
「いやいや、違うだろ。人の好みなんて、千差万別なんだ。男の好みは、一人一人違う。驚くぐらい違うからな」

 セシルは、きょとんとする。

「分かんなくていいよ。少なくとも、そいつにとってのセシルと、俺にとってのセシルは違うんだ」

 話しながらすっかり下に敷いたセシルの身体に体重を乗せてきゅっと押す。もぞっと動き、肌が擦りあえば、気持ちよさそうに息を吐く。
 デュレクは鎖骨下に唇を落した。
 両手で乳房を掴み、揉みしだくと、セシルの呼吸が早くなる。
 始めから硬く立っている乳頭を食む。舌でいじくりながら、腰へと手を下げた。昨日のことを覚えているセシルの身体が、先んじて足を開く。うち太ももに手を添えたデュレクは、胸から顔を離し、体を起こした。

 しゃべりすぎた。さっきから、体は入れたくて仕方ない。ソファーで遊んでいる時から我慢に耐えた亀頭からは先走る汁が漏れていた。
 中指をセシルから漏れてくる蜜で濡らしながら、ねじ込む。手首を返し、親指で陰核を摩る。

「はぁ、んぁ、んんっ、やぁぁ……」

 鼻にかかる上ずった嬌声を漏らすセシル。
 デュレクは気持ちよく、その声に耳を傾ける。予想以上に濡れていた。

(まずは、入れてからだ)

 指を抜く。
 体内をいじるものを失ったセシルがほっとしたのも束の間。セシルの両足を大きく均等に広げたデュレクは、そそり立った陰茎をセシルの中にずずっと押し込み始めた。

「力、抜けよ」

 眉間に皺をよせ、いつもより心持ちゆっくりとデュレクは侵入する。
 恥ずかしさに耐え切れず、セシルは両手を頬に寄せて、拳を口に押し当て、首をそらした。
しおりを挟む

処理中です...