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本編

42,翌朝 ※

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 セシルは、デュレクの為すに任せて、あえぎ続けた。二度目の射精を迎える時には、両手をデュレクの背に回し、彼の名を呼びながら、おねだりしていた。
 陰茎を飲み込んだ膣の接合部から、愛液と精液に、細い血が混じった液が垂れる。くにゃりと力を失ったセシルは、寝具に沈むように寝落ちしてしまった。

(ここでこと切れちゃうんだね)

 苦笑いするデュレクは、身をもたげる。
 おさまりのいいセシルの膣内で、陰茎はすでにしぼんでいる。
 息を吐く。
 陰茎を膣から抜き、寝息を立てるセシルの横にねころがった。快楽に押し流された後に訪れる静寂に満たされる。

(戻ってきてすぐに女を拾ってくるとはねえ……)

 宿探しで、相手を男と間違えたのはデュレクである。

(小柄だし、少食だし……、気づく点はあったかな。ボロのコートを着ていることで騙されたよ)

 そのためのコートだったはずだ。そう思えば、十分に役を果たしている。

(前線で過ごし終えたら、遠い村にでも出奔しようと考えていたんだけどな)

 人生どうなるか、分からないものである。
 仕事場では上司のような凛とした女。一人で暮らすこともよく知らないお嬢様。デュレクと同じ魔眼を持つ。正当な貴族の娘なのに、家庭では不遇を味わってきた。 
 デュレクにとって縁遠い貴族の娘のはずなのに、セシルの境遇は、忘れかけた過去を彷彿とさせる。

 セシルならデュレクの過去をもすべて飲み込んでくれるような気になる。あんなことがあった、こんなことがあったと、零しても差しさわりがない。

 例え伴侶を得たとしても、半生を隠すことになると思っていた。過去など捨てれるなら捨ててしまってかまわない。血統に未練はない。

 生まれとともに得た傷を抱えて生きるのが人生のような気がしていた。それを吐露できる相手などいるわけがない。そうデュレクは思っていた。

 デュレクは体を起こす。どうせ洗うのだからと脱いだ下着を拾い、乾きかけた陰茎とセシルの股間を軽く拭き上げた。セシルの寝間着だけ枕元に残す。
 新しい下着を身に着け、部屋を出て、洗い場へと向かう。
 下着を水洗いし、干しておく。シャツ類は籠にほおり投げた。
 シャワーはあっさりと終えた。
 部屋に戻る途中に台所へ立ち寄り、水を飲む。

(セシルは大丈夫か)

 ふと思い立ち、上段の棚からおぼんを出す。水差し代わりにポットに水半分を入れ、マグカップを乗せた。そのおぼんを持ち、部屋へと戻った。
 
 セシルは寝ている。ベッド横の壁際に机があり、そこにおぼんを乗せた。

 起きそうもないセシルの横にデュレクは横になる。掛布を肩までかけて、セシルにもかけなおす。

 彼女を抱き込んだ彼は、髪をよけた首筋に顔を近づけ息を吸い込んだ。乾いた汗の香りがする。

 デュレクも眠りにつく。前線から急いで戻り、閣下や殿下と面会するごとに味わった緊張に疲れていた。





 翌朝、目覚めたセシルは一人だった。
 見回してもデュレクはいない。薄ぼんやりと天井を見上げて、昨日のことが蘇ると、再びかっと体が熱くなった。
 腰と腹が重い。気だるさが残っている。動作が億劫だ。

(今日、休みでよかった)

 出仕は明日の昼。その時には、万全でいたい。
 体を起こすと枕元に、寝間着があった。周辺をまさぐり、床を見ても、下着はない。衣類で残っているのは、セシルの寝間着だけだった。
 袖を通す。

 喉がカラカラだった。変な声をずっとあげてしまったからだと自覚する。
 顔をあげると、机の上にポットとマグカップが乗ったお盆が置かれている。自然と足が向いた。ポットの蓋をあけるとたぷんと水が入っていた。カップに水を注ぎ、一気に飲み干す。
 デュレクの優しさが染みた。 

 部屋を出る。すでに着替えて台所にいたデュレクが、食事を作っている最中のようだった。
 扉を閉める音に気付き、振り向く。眼帯もつけていた。

「おはよう、セシル」
「おはよう」
「体はどう」
「……、少し、重い」
「そっか。食事、もうすぐできるから、ちょっと待ってて」
「では、先に着替えてくる」

 朗らかに笑ったデュレクが台所へ向き直る。

(いつも楽しそうな男だな)

 男の背を盗み見ながら、セシルは自室へ向かった。
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