ヘテロクロミアの魔眼騎士

礼(ゆき)

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本編

48,太子御所に向かう

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 二日ぶりに登庁したセシルは、デュレクと連れ立って、団長の執務室へと向かった。昼時にはまだ早い時間帯、団長は部屋におり、書類に目を通していた。

 二人を迎え入れた団長は待っていましたとばかりに笑みをこぼす。笑顔はデュレクとよく似ていた。

「やっと来たな、二人とも」
「おはようございます」
「早速だが、座ってくれ。状況を説明しよう」

 促されて、ソファー席についた。書類を整えてから、遅れて団長も席に着く。
 慣れないデュレクは、例え相手が兄であっても口出しはしないでおこうと心に決めていた。
 
「御所の様子はいかがですか。霧の程度と殿下の様子は?」
 
 セシルはいつもの調子で用件を切り出す。 

「御所周辺の霧は今朝方まで、眼を凝らしてやっと見える程度だった」
「半年ほど前であれば、その状況から御所周辺に広がり切るまで数日かかっていましたが、ここ最近は翌日には深い霧につつまれていますね。
 となれば、今日の夕方から、私たちは御所に詰めることになりそうですね」
「セシルの見立て通りだ。殿下もそのように希望されており、二人が御所に着いたら、女官や騎士たちは戻るように手配してある。昼食を終えたら、すぐに御所へと向かってほしい」
「分かりました。この現象が確認されてから、一年待ちました。もし魔眼を持つ者の仕業であれば、この一年で能力が伸びていると思われますね」
「まあな。セシルは浄化はできても、魔眼を持つ術者がどこにいるのか、または相手に術を返すことはできない。侯爵家や伯爵家の魔眼は希少だ。デュレクの魔眼が開眼していなければ、手立ては無いに等しかった。これでやっと払うことができる」

 団長は、なのにお前ときたらなかなか来ないんだからな、と言いたげな恨みの目をデュレクに向ける。
 戻りたくないため、条件ばかり並べてきたせいだと視線の意味を痛感するデュレクは無言で目をそらした。

(俺、ここで、そんな大変なことが起こっているなんてしらないもん)

 浮かぶ言い訳は口にしない。言ってくれれば違うのにとこぼしたくても、兄にも立場があることぐらい分かる。殿下の御身に危険が迫っていると、言えなかったに違いない。宰相の件もある。秘密裏に処理をしたい事案なのだ。そう理解したのは、ここに来てからだった。

(愚かな俺だって、セシルと兄貴の会話、宰相と殿下との面談で、それぐらい分かったよ。俺はもっと私的な理由で呼び戻していると思ってたんだ)

 不満げにデュレクは、ひっそりと口をすぼめる。
 仕事優先のセシルは、そんな兄弟の事情など知ったことではないと感知しない。

「先日、殿下の意向は確認済みです。昼食を終えましたら、早急に殿下の元へ急ぎます」

 セシルとデュレクは団長との面談を終えると、執務室を後にした。無言で移動し、早めの昼食をそそくさと終える。混雑する前に席を立ち、棟外へ飛び出す。
 灯篭が並ぶ、太子御所へと続く道までやってきて、二人は足を止めた。

 団長から聞いた話より、霧は濃くなっていた。
 霞(かすみ)がかかり、等間隔に並ぶ灯篭に白い陰りが重なる。

「回を重ねるごとに、霧がかかる速度が増している。急ぐぞ」

 今まで無言だったセシルが言葉を発し、ずんずんと道を歩き出す。
 デュレクは、周囲を伺いながら、後を追う。 

「霧か……。懐かしいな。魔族生の生物にも霧を扱う輩がいる」
「戦ったことがあるのか」
「あるよ。魔族生の生物はほとんど、意志を持つ無機物や自然現象のようなものだから実態はない。通常の剣や槍、弓は効かないものもいる。実体化した時に、殺るのが常套。でも、やすやすと尻尾を出すこともないからね。前線では幾人もの犠牲者を出して、捕縛し抹殺することも少なくない」

「その眼があれば、実態をすぐにとらえられ、犠牲を最小におさえられる。デュレクが前線の猛者になるわけだな」
「まあね。兄貴に呼ばれてから、条件を付けていたのもあるが、前線の戦況を少しでも軽くするために動いていた一面もあるんだ。貴族が魔眼を失い、前線が手薄になったつけは、近いうちに必ず中央までのぼってくるだろう」

「そんなに、前線は荒れているのか」
「荒れているというか、魔眼を持たない貴族ばかりになって、色を得ていても最前線に来ないから、悪循環が止まらないんだよ」
「浄化も、退魔も、破魔も、呪詛も、すでに魔眼を持つ者は知れている。今は、ほぼ王直属。殿下にお仕えしているのは私一人という惨状だ。たとえ、片目であっても魔眼を得たデュレクは貴重な存在だ」

「これは言ってはいけないかもしれないけど、宰相が非嫡出子を把握することで、色持ちの非嫡出子を前線に押し出そうとしているのかもな。
 特権階級に収まった貴族に、命をかける前線に出る気は無い。かといって、この押され続け、犠牲者を出す戦況は何とかしないといけない。
 俺のような半端者だったり、分家の色持ちを前線に出せと貴族に迫る布石かもしれないよな。俺は勝手にそういう方向にも邪推しちゃうよ」

 話しているうちに、太子御所の門が見えてきた。
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