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第二章 仮面の魔導士

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仮面をつけることを許された俺は、世情について調べ始めた。

未来で年表を見たことがあっても、事細かなことは覚えていない。
幼少期の記録がないオーウェンの享年もはっきりしない。
おそらく、二十代半ばで命を落したとされている。

つまり、今から、五年から八年ぐらいで、俺は死ぬ。
ことに、なっている。

その間に争いが耐えないはずなのだが。
どうも、世情から流れてくる情報を分析する限り、戦争の気配がない。

隣国同士、つかず離れずという距離感を保っている。
国境沿いで小競り合いがあるとは言うが、互いにけん制し合い、大戦になる兆しにはなっていない。

(いったい、どういうことだ? ここからどうやって戦乱になだれ込むんだ)

未来の歴史は虫食いで、俺は分からないことばかりで首を傾げた。




オーウェンの日常を受け継いだ俺は、常にレイフとともにあった。
彼が学ぶ場にいつも同席し、学友のような立ち位置で勉学に励んだ。

魔導士としての技量はさすがにオーウェンが群を抜いていたが、それ以外はレイフはとても優秀だった。

彼は、人当たりが良く、俺だけでなく、使用人にも気さくに話しかける。
未来の記憶を持つ俺は、時々、問答をしかけても、よく考えて返答する。
この器の大きな、聡明な青年は、いったいどこでその人格を育てたのかと驚くばかりだ。

マグガ伯爵も俺とレイフを分け隔てなく育ててくれているので、彼の人格は父譲りなのだろう。




オーウェンの部屋には、扉が二つある。一つは廊下に、もう一つは窓のない小部屋に通じており、そこで独学で勉強をしていた、ようだ。

ようだとしか言えないのは、なぜか、この部屋の記憶が曖昧だからだ。
何をしていたのか、はっきりと思い出せない。

それは、あまり意味のないことだとして、記憶が蘇らなかったのかもしれない。
細かな使用人の名前や立場を記憶していないのと同じように。

オーウェンの記憶は、重要なことは残っていても、感心が薄かったり、日常の些細なことはあまり残っていなかった。
この部屋で独学で学んでいたことは、彼にとって、さほど重要な事ではなかったのだろう。

本棚を見る限り、基礎的な本ばかりが並んでいる。
オーウェンという青年は、基礎を重んじる人物だったと言える。
この小部屋で行っていたことも、ただの反復基礎練習かなにかだったのだろう。
基礎を重視する姿勢には好感が持てる。

床になにか陣が描かれているが、その意味も今は思い出せない。




そんなある日、マクガ伯爵が俺とレイフを呼んだ。

人払いされた室内で、俺は、なぜオーウェンがマグガ伯爵家の養子に入ることになったか。
真実を知ることになった。
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