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第二章 仮面の魔導士

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「オーウェン、お前はレイフの剣であり、我が伯爵家の威信をかけ戦う義務がある」

俺とレイフの前で、そう告げたマクガ伯爵はとても冷徹な顔をしていた。
そんな父の顔を見たことがないと顔に書いてあるレイフがおどけながら問う。

「戦うとはどういうことですか、父上。この平和な御代で、いったい誰と戦うのです」
「王都に一部の貴族が選りすぐりの魔導士を連れてくる。我々は、その魔導士を戦わせて、数人の強者を決める。その強者から一人を選出し、国の代表として近隣諸国で勝ち残った魔導士と戦うことになっている」
「オーウェンが戦うのですか。もちろん、それにはルールがあるのでしょう」
「いや、ない。文字通り、命を懸けて戦ってもらう」
「それは、もしかしたら、オーウェンが死ぬこともありうるということですか」

震える声で問うレイフ。
方や、戦乱が起きることを知っている俺は、やっとその兆しが見えてきたかと武者震いした。

「その通りだ」
「待ってください、オーウェンに命をかけさせるなんて、私は一度も聞いたことがありません」
「昔からある一定期間で行われる儀式だ。
今回は、百年前に別れた国々を統一させるにあたって、どの国に統一させるかを決定づけるものになる」

俺はマクガ伯爵が語る意味が分からなかった。
未来で歴史を学んできたとはいえ、彼が話していることに該当する内容は思い出せない。

まるでこの時代の戦争が話し合いによって行われているかのようである。
未来で俺が知る限りは話し合いなんてなく、どこでも争いをしていたように感じたが、実態は違うのかもしれない。

疑問を抱えるものの、歴史とは新たな文献や遺跡などが出てきて覆されるものだ。
俺が生きていた時代にはまだ知られていないことが、この時代では行われていた。
それだけのことなのだろう。

「お前たちを対等に扱っていたのは、オーウェンとレイフの信頼関係を築かせるためだ。
情が移るリスクはあるが、初めからただの駒として扱う関係であればおそらく破綻し、敗れる可能性が高くなる。信頼する者、友と呼べる者、兄弟と思える者だからこそ、オーウェンはレイフのために戦えるだろう」

伯爵の言葉に、レイフは絶句する。
養子を手を尽くして育てる意味が腑に落ちた俺は、どこか心がすっきりしていた。

しかし、伯爵の口ぶりでは、まるで俺にも勝たなくてはいけない理由があるかのようだ。会話上で生じた疑問を伯爵に投げかける。

「俺が勝たないと、レイフ様にも何か問題が生じるかのようですね」
「そうだ、その通りだ。レイフが無事に帰ってこれるのは、オーウェン、お前が全勝した時のみとなる」


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