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第二章 仮面の魔導士

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マクガ伯爵から解放された俺は、ショックを受けるレイフと向き合う。

「レイフ様、俺は戦います。そのために俺はここにいるのだと分かりました」
「しかし……」

迷う青年に苦渋の表情を浮かべる。

「国が争えば、民は疲弊します。孤児が増え、身寄りのない者はゴミのように死んで行きます。子どもも女も。弱い者から蹂躙されます」

それは奴隷として生きた前前世で見た光景だ。
賢いレイフはその目に怒りの灯をともす。
若者らしい正義感を称える双眸が眩しくて、俺は目を細めた。

レイフが名を轟かせば、俺が知る未来より、もっとより良い未来が訪れる。
そんな予感が胸を過る。

それは歴史を改変することになるかもしれない。
俺が知る歴史では、レイフ・マクガという男の名は残っていない。

「戦争を起さないことが先決ですが、もしそれが叶わないのなら短期間で終わらせることが大切です。もし、会議で諸国の行く末が決まるとしたなら、戦争に利益を感じる者に主導権を渡してはいけないはずです」

戦争では多額の金が動く。
それは前世でも誰もが知っていて、語らないことであった。
人の命のやり取りがあることより、金の流れこそが最優先となり、享楽とともに戦火はひろがり、人は殺されていった。
この時代も変わらないだろう。
欲に目が眩んだ者たちの自由にさせてはいけない。

「俺たちが勝つことには意味があります。俺のことよりもずっと広い、この大地に生きるすべての者たちが関わっています」

俺の意図をくみ取るレイフが強く頷く。

「勝ちましょう。下手な者に権力を渡してはいけません」

俺は強い決意とともにレイフに告げた。






部屋に戻った俺は状況を整理した。


俺たちが住まうスピア国。
周辺には、ヤネス国、サイラ国、ミデオ国の三国がある。この三国のどこかが前前世で俺が産まれた国なのだろう。

この四か国に、秘密結社に属する二十四家が潜んでいる。

そして、おかかえの魔導士同士を戦わせ、互いの優劣を決め、優位者に立った家が次の時代の方向性を定めていく。

俺とレイフはその伝統的な戦いの場に駆り出されるわけだ。



その後も俺とレイフはマクガ伯爵の元へたびたび呼ばれた。
二十四家の成り立ちから、今に至る歴史まで、口頭で伝えられることは多岐にわたった。

二十四家はかつてこの大陸を収めた国の貴族であった。
彼らが戴く王家が腐敗し、これ以上はついていけないと立ち上がり、王家を滅ぼした。
二十四家は、権力とは腐敗するものだと認識する。

よって彼らは王になることなく、秘密結社として横のつながりを維持するようになる。

王は傀儡。
しかし、王家にも人々にも傀儡とは気づかせない。
腐敗すれば挿げ替える頭のようなものだ。

過去、二十四家は何度かその頭を変えながら、連綿と横のつながりを維持していた。

領地を保有し、互いの婚姻関係とその王朝の有力者との繋がりを維持する婚姻を繰り返しながら、二十四家が属する秘密結社は、表の各国を操る組織へと変わっていった。

時には、二十四家が欠けることもあったが、血筋を辿り、一番近い近親者の子孫を擁立したりと画策しながら、二十四家は大陸の裏の覇者として君臨し続けた。

連綿と続く血統のなかで、割と初期に産まれた異端能力者が魔導士として認知されるようになった。
二十四家にぽつりぽつりと産まれる彼らは自然を超越した力を持つ。
各家が魔導士を抱えるようになると、物事の決定において、一騎打ちという選択肢がうまれた。

魔導士の主が責任を取る不文律は、その初期の一騎打ちにおいて、敗者の魔導士をかばった主が、片耳を削ぎ落し、勝者に捧げたことに由来する。






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