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第二章 仮面の魔導士

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マクガ伯爵から話を聞いて以降、俺とレイフは額を突き合せて、世界の行く末について話し合った。

俺は前世で、世界史を学んできた、特にオーウェンが生きていた前後の歴史も詳しい。政治や経済もそれなりにかじってきている。
知識だけで言えば、二十四家のなかで最も有利な立ち位置にいると思われる。

優秀なレイフは俺の知識を余すことなく取り込んでくれた。
前世の記憶をもって、俺はレイフに統治者としての素養を身につけさせていく。

俺自身はあくまで、レイフの武器となることを目指し、権力は望まない。
権力を望めば、暗殺される可能性が高くなるからだ。
あくまで暗殺を回避し長生きする俺の目的に変更はない。

長生きのために必要な条件はなにか。
考えればすぐわかるだろう。それには平和な世界が必要だ。

人々が勝手に生きれば、平和になるというわけではない。世の中の秩序を保つ存在も必要だ。
未開発なこの時代で、平和な世界を維持するには、名君はまだまだ必要な要素であろう。

だからといって、俺はレイフに国王になってほしいわけではない。
ただ、国王や国の治世に必要な人材になってほしいだけなのだ。
名君と誉れ高いマーギラ・スピアの補佐として、身を立ててほしいと願っている。
単に、この好青年が成功していく様が見たいだけなのかもしれない。

今回の長生きの目的の一つに、時代の寵児を身近に見る、というのを加えるのもなかなかにおつなものだろう。

なにせ、マクガ伯爵の思想も、穏健派と言える立ち位置。領内の統治を見ても、領民を搾り取るような真似はしていない。そんな父を持つ点も好感が持て、レイフを育てたくなった。

どんな時代もそうだが、戦争を好むものはある一定数いるものだ。
つまり、二十四家のなかにも戦争を長引かせたい一派もいるのだ。

潜んでいる家によってはその様な思想に毒されており、その国では諍いが頻発し内乱状態。好戦的な人間も周辺から多く集まり、領地内の小競り合いが耐えず、国民は疲弊しているという。現状は、その様な事態であっても他国は介入しない。あくまでも内部の人々が苦しむだけだ。

俺の前前世はその国で生きていた可能性が高い。
そんな悪い噂がたつ国はミデオ国という。

争いを望む者が牛耳れば、どうなるか。火を見るよりも明らかだろう。ミデオ国を勝者にしてはならない。

統一された後も不安定な治世が続くけば、平和な世界で長生きを求める俺の望みも潰える。






レイフと俺の信頼関係がより強固になった頃、領地から首都へと旅立つ日取りが決まった。

旅立つ直前、マクガ伯爵から餞別を受け取った。
それは俺が美術館で見た仮面であった。

俺は感慨深くその仮面を手にした。
懐かしい、嬉しい、憎らしい、などさまざまな感情が渦を巻き、上手く表現できない。
俺を殺した者が身につけた畏怖、美術館で邂逅した際の望外の喜び。
感慨まじりあった結果、まるで戦友が手元に戻ってきたかのような錯覚に襲われる。

「魔導士が素顔をさらさないのも、いいだろう。素顔がばれないことにも、戦いの場ではメリットがあるかもしれない」

仮面を贈る伯爵は俺にそう言った。






俺とレイフはスピア国の首都へと旅立った。

これから会うスピア国に潜む秘密結社の家々がどんな魔導士を連れてくるかは分からない。
とはいえ、警戒すべき家は決まっている。
それは、エネル公爵家だ。

スピア国に潜む六家のなかで、最も、政治や軍事の中枢に入り込み、権力をふるっている、飛ぶ鳥を落とす勢いで栄えている家だ。

エネル家と言えば、オーウェンを暗殺したと言われるゾーラの生家でもある。
俺にとっては、六家との闘い以上に、今後のエネル家の動向が気になる。



なぜなら、未来で歴史を学んできた俺にはおおよその結論が見えているからだ。

歴史上、スピア国が四国を統一させている。
つまり四国のうちスピア国の魔導士が頂点に立つということだ。

歴史の表舞台に立つ唯一の魔導士オーウェンか、スピア王家の名君に嫁すゾーラの生家が抱える魔導士か。
順当に考えれば、おそらく、この二家のどちらかの魔導士が勝ち進むことになるのだ。



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