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第四章 戦争争議

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テーブルゲームの合間に交わされる雑談から推測すると、俺の前前世はミデオ国にいた可能性が高い。

自分の話ばかりするゴード曰く、ミデオ国は内部の争いが多い国だそうだ。

ミデオ国を仕切るリドリー家は国内に秘密の金山を抱えており、資金も潤沢。
ゴードは、いかにその金をうまく利用し資産を増やしたかをつまびらかに語るのだ。

リドリー家は国内に武器を多くさばいていた。
いわゆる武器商人と言ったところか。

地域ごとの小競り合いが多く、消耗品の武器は飛ぶように売れたそうだ。
おそらくその小競り合いも、起こるべくして起こる土壌をリドリー家は作っているのだろう。
治める国もそれ相応の武力を持たなくてはいけない。国庫に占める軍事費は増えるばかり。
また個人も自衛のために武器を保有するようになり、なにかと物騒な事件が耐えず、結果として孤児のような身寄りのないものが増えたようだ。

前前世の生活状況を思うと気分の良い話ではない。
前世の人生を知ってしまえば、あれは人間が暮す最低限も満たしていない状況だ。
こんな支配者の元で、劣悪な環境で暮らさなくてはいけなくなったのかと思うと、腸が煮えくり返る。





不当な扱いに怒りを覚えているのは俺だけではない。
レイフも一緒だった。

砦には食堂があり、料理人もいる。
侍女もいれば、侍従もいる。

当初は、他の家々の者たちと食堂で食べていたが、いつの頃からか、俺たちは二人で自室で食べるようになった。
馬が合わない者たちとの食事は栄養にならないだろ。

我慢に我慢を重ねているレイフは、食事の時にだけ不満をぶちまける。

「今度は誘拐だって。子供まで巻き込むのか」
「先ほど、廊下の立ち話を盗み聞きしました。その子は殺されて発見されましたね」
「殺されて発見されるなんて、聞いていないぞ。有力者の子どもだぞ」
「それを理由にまた……」

皆まで言わず理解するレイフが舌打ちする。

「先日の要人暗殺もそうだ。その人物は、リドリー家の手足として働いていたものじゃないか。そんな人物をも、用済みとなればすぐに消してしまうのか」
「勝手に武器の流通を差配したことが気にくわなかったのでしょう」
「三年。三年もこんな状況が続くのか。こんな状況下では、食べる物を確保することだって難しくなる。働き手がどんどん削がれていくからな。耕せない畑地も増えれば、国庫も細る」
「彼らにとっては、卓上のゲームで、資産が増えていくことが面白いのでしょうね」
「なにが、面白いだ。俺はなにも面白くない」
「数字が増えていくことが面白いのでしょう」

その昔、前世で貯金通帳の数字が増えていくのを楽しみにしていた時期があった俺は、その時の心情を少し肥大して想像する。
膨大な数字が増えていく様は、なにかの感覚を麻痺させる。
増えていくことによろこびを感じ、ただ増やすことだけに面白味を感じていた。
働き始めた直後あたりだ。
すぐに結婚して、子どもができたので、貯蓄の楽しみは消えてしまったが……。

俺の言葉にも、反発したそうにぶつぶつと文句を呟くレイフに俺は告げた。

「三年、いえ、一年過ぎましたので、あと二年。
その時は、俺が必ず、魔導士同士の戦いで勝ちます。
だから、もうしばらく、辛抱しましょう」

二人きりであることを良いことに、俺とレイフは彼らに勝った後こそどうすべきか話しあった。

百年を超える人生を生きてきた俺にとっては、三年は短い。
まだ二十年強しか生きていないレイフには長く感じられるだろう。
耐え忍ぶには、希望が必要だ。


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