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第四章 戦争争議

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スピア国の国庫が先細りし始めると、国家間での金のやり取りがより一層激しくなった。

とはいえ、最終的にはリドリー家の資産が増えるようにお金の流れは収斂される。

どこの家が属する国が統一しようとも、リドリー家に財が残るように、ゴードは考えているのだろう。
残りの二家もそのような考えの元で動いている。
財の肥大化を目指すという点において、円卓につく三家は思想を同じくしていた。

ここまでくれば、国は形を成していない。あくまでも、ゲームの表向きの顔と言ったところだろう。

スピア国の借金は多方面にわたる。
多くはサイラ国から借金が多い。

借用書は増えても、常時国庫は空っぽのサライ国は、それを補うように増税を行う。当然、そこに暮らす人々は苦しめられていた。

サライ国代表のバスカ家は鉱物から武器を製造する職人たちを一手に束ねて囲い込み、そこで生み出される武器をミデオ国に流し私腹を肥やしていた。

比較的ヤネス国は食料が豊富であったが、高所得者向けの生産や加工を主としており、一般に出回る食料は細るばかりであった。

金があるところには、何でもそろうようにできているものだ。




三家に握られたゲームではスピア国はまったく手足も出せず、発言権もない。
そのなかで、俺だけが最終的に、スピア国が統一国になることを唯一知っている。
レイフにも、俺が必ず勝つと伝え、耐えるように言い含めていた。
未来への展望を彼と語りながら、スピア国内では勝利への布石を打つために、レイフを通して公爵に依頼をしていた。

スピア国内では、山間に特殊な草が生える。
その草は、山間地帯の一部の地域で行われる祭りで使われる麻薬になる。

古くから祭事で利用される馴染み深い天然の麻薬だ。
前世では、その効能が研究しつくされ、不法な栽培や売買は禁止されていた。
過度な痛みを取り除く効果があるため、病気の末期患者には使われていたものの、取り扱いには国の免許や医療機関での処方を必要としていた。
精製方法を工夫すると、短期間の多量摂取にて遅効性の毒薬にもなる。扱いや精製も若干注意がいる植物である。

スピア国が反映した時代は、まだこの麻薬成分を含む草は注目されていない。
儀式用の植物としてしか見られていなかった。

その点に俺は着目し、公爵にその草を栽培と密かな薬物生産を依頼したのだ。
ある程度の輸出量が生産できたところで、円卓でこの草から作られる薬について説明した。

疲労感の軽減、興奮作用があり睡眠時間を削減でき、高揚感も高まると。

二年間の重労働で、武器職人たちの不満が高まっていることは掴んでいた。
傭兵たちの士気も落ちていることは聞き及んでいた。

それらを補完する薬として、俺はレイフにこう提案させた。

この薬には武器を作り続ける職人たちの疲労感の軽減に効果がある。
同時に、興奮作用があり、睡眠時間も少なくできる。
興奮作用には高揚感も伴うため、傭兵たちに与えれば、より好戦的になる。

国庫がつきそうなスピア国は、四国のうちどこに統一させるかを決めるまで持たないかもしれない。
やむない苦渋の提案としてレイフは語った。

すぐに育つ植物であり、葉は無限に取れるため、安価での取引を持ち掛ければ、三国の代表者は、レイフをあざ笑いながら、その提案を受け入れた。
彼らには俺たちが負け犬に見えていたことだろう。




四国のうち、どこの国により統一させるかを決するまで半年を切った。
十分な麻薬の製造に半年をかけた。
スピア国が維持できるギリギリのところでの申し出に、我が世の春を謳歌する三国の代表者は飛びついた。



罠にかかったとほくそ笑んだのは俺だ。
笑い出しそうな顔が仮面に隠れていて本当に良かった。



スピア国にどんなに借金が溜まろうとも俺は一向にかまわなかった。

なぜなら、借金は、はなから返す気がないからだ。

戦争における正義は、勝者にある。

スピア国が勝つ以上、正義はすでに手中にある。


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