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第五章 統一国

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輸出を始めた薬物の効果が浸透し、三家の思惑通り事が進む。
武器の生産も戦争も未だ当たり前のように続き、言わずもがな、現場は大変な事になっていた。

現場の指揮官は戦況を分析し、指揮を取る。
食料も乏しいなか、泥水をすすり、国内の決定通り、戦いに明け暮れる。
敗戦の将は時に首を刈られ、勝者によって首をさらされた。

その度に、円卓の国境線は引き直される。
円卓に座る者たちにとって、その程度の国境線の変更は余興に過ぎない。
たまには予想通りと行かない事態を見届け、ハラハラドキドキしたかったのだろう。

仲良く話し合っている三国の国境線は血生臭い話で満ち満ちている。

戦地でどれだけの人が死んでいるのかなど、円卓の上では話にも上らない。
どれだけの町が焼かれても、そ知らぬ顔だ。
周辺の地域で、孤児が増えていることも、気に留めない。
彼らから見たら、子どもとは、若者とは、きのこのように生えてくる群衆物なのだろう。

前前世の俺もまた、そんなきのこの一つだったわけだ。

一部略奪部隊も動いており、二十四家にかかわりが薄い貴族の屋敷に強奪に入っている賊もいた。この賊は、各家の子飼いの私兵だ。

彼らの働きはたびたび円卓でも話題にのぼった。

賊は、大抵、屋敷内にいる人間は皆殺しし、略奪を終えれば火をつけることを常とし、時には凄惨な拷問も笑いながら行っているらしい。

そんな賊の働きを、円卓を囲む三者は、野蛮、品がないなどと蔑み罵っていた。
己を顧みず何を言うかと思えども、肥大した自尊心を持つ彼らは、自己を崇高な存在とでも勘違いしているのだろう。



彼らは話しを聞きながら、俺は一つ考えを改めた。

前前世の俺は、自分こそが最底辺だと思っていた。
孤児で、奴隷で、荷物運びとなれば、前世で言う人権なんてないも同然。
前前世の俺から見れば、ほぼすべての人間が自分より恵まれているように映っていた。

しかし、現実は違ったのだ。

捨て駒のように殺されて行く兵士や傭兵、騎士達。
どさくさに紛れて略奪の憂き目にあう無関係な貴族たち。
薬づけにされて働きづめにされる武器職人たち。

彼らは誰がなんのためにこの世界を荒らしているのかも分からないままに、翻弄され、死んでいくのだ。

この時代は、どんな立場であっても一握りの者を抜かして、誰もが恵まれていなかったのだ。






薬物の効果は半年続く。
ここから徐々に効果は反転してく。

疲労感が増大し、筋力を削ぎ落す。
微量では眠気を覚え、気力がなえる。
興奮状態を味わうには薬の量を増やさねばならない。





円卓を囲みはじめて三年が経過した。

魔導士同士の戦いをもって、どの国を統一国にするか決する日がやってきた。

さあ、反撃を開始しようじゃないか。

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