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第五章 統一国
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砦には内壁と外壁がある。
その内壁と外壁に程よい敷地があり、そこが雌雄を決する場となる。
砦で働く数人が掃き掃除をして、余計な木くずや葉、石ころを取り除いている。
むき出しの土の上で行われる儀式。公爵の屋敷下にあった闘技場よりは、魔法を使って行う一騎打ちには向いている。
戦う場に定められた敷地内を歩く。
古くから伝えられている儀式だからかもしれないが、会場に飾り気も物々しさもない。
これが伝統だと言われればそれまでが、ずいぶん簡素な準備だ。
国の行く末を決めるというのに。
腑に落ちないとはいえ、三日後に迫った儀式を前に、俺はレイフと今後の最終確認をしなくてはいけない。
下見を終え、俺はレイフの元へ向かった。
三日後に迫った儀式に気持ちを高ぶらせているレイフは、俺が訪ねるなり、開口一番早口で告げる。
「公爵も準備を整え終えて、いらっしゃる。おそらく砦に到着するのは、二十四家の当主たちが集うなかで最後だろう。その際には、ゾーラ嬢も同席する」
「ゾーラ嬢も?妹のガーラ嬢ではなく?」
最後の一言が引っかかった。ゾーラは俺を暗殺する女だけに、どうしても気になってしまう。
しかし、夜会で会った際もゾーラはガーラの影に隠れた存在だった。このような表舞台には、ガーラの方が訪ねて来そうなのだが……。
「ああ。公爵はゾーラ嬢を連れてくるという。手紙にはそうしたためられていた。それに……」
言いよどむレイフが口元に拳を寄せて、視線を横に流した。
俺は見たこともない彼の反応に、瞬きをした。
「ゾーラ嬢の手紙にも、こちらに来ると……」
「あっ……、ああ……」
レイフの反応に、俺は気の抜けた返事を返してしまう。
これは、あれか。
この反応は……。
「レイフ様、ゾーラ嬢と手紙のやりとりを……」
顔を赤らめて、口元をミミズのように歪ませるレイフ。
それだけで、俺だとて、悟ってしまう。
「もしかして、恋を……」
「いうな、いうな、いうな。それ以上、いうな」
真っ赤になるレイフは両手を振って俺の発言を制した。
ゾーラとレイフが……。
まさか……。
俺はまったく気づかなかった。
仮面の下でポカンとする俺の目の前では、赤くなるレイフが左右に体を動かして、なんとも居心地が悪そうだ。
「ああ……、彼女が来るのが楽し……」
「だから、いうな。それ以上言うな!!」
怒鳴られた以上に、思いもよらないカップリングに面食らう。
そして、瞬時にひらめく。
俺と婚約結婚し俺を暗殺するゾーラがレイフとくっつけば、俺の暗殺も回避できるのではないか。
このまま、レイフとゾーラがくっつけば……。
いつの間にか、歴史が変わっていたのだろうか。
思い当たる節はないが、そもそも、前世でかじった歴史だけが、歴史のすべてではない。
ゾーラがレイフとくっつくと見せかけて、公爵の反対にあうという可能性もまだ捨てきれない。
そんなこと、させるものか。
今回の功労者は俺だ。
スピア国を覇者にのし上げる俺の意向は尊重される、はずだ。
レイフの片手を俺は両手で掴んだ。
「レイフ様、その恋、俺は全力で支持します」
暗殺回避の糸口を掴んだ俺は、全力でレイフの恋を応援することにした。
その内壁と外壁に程よい敷地があり、そこが雌雄を決する場となる。
砦で働く数人が掃き掃除をして、余計な木くずや葉、石ころを取り除いている。
むき出しの土の上で行われる儀式。公爵の屋敷下にあった闘技場よりは、魔法を使って行う一騎打ちには向いている。
戦う場に定められた敷地内を歩く。
古くから伝えられている儀式だからかもしれないが、会場に飾り気も物々しさもない。
これが伝統だと言われればそれまでが、ずいぶん簡素な準備だ。
国の行く末を決めるというのに。
腑に落ちないとはいえ、三日後に迫った儀式を前に、俺はレイフと今後の最終確認をしなくてはいけない。
下見を終え、俺はレイフの元へ向かった。
三日後に迫った儀式に気持ちを高ぶらせているレイフは、俺が訪ねるなり、開口一番早口で告げる。
「公爵も準備を整え終えて、いらっしゃる。おそらく砦に到着するのは、二十四家の当主たちが集うなかで最後だろう。その際には、ゾーラ嬢も同席する」
「ゾーラ嬢も?妹のガーラ嬢ではなく?」
最後の一言が引っかかった。ゾーラは俺を暗殺する女だけに、どうしても気になってしまう。
しかし、夜会で会った際もゾーラはガーラの影に隠れた存在だった。このような表舞台には、ガーラの方が訪ねて来そうなのだが……。
「ああ。公爵はゾーラ嬢を連れてくるという。手紙にはそうしたためられていた。それに……」
言いよどむレイフが口元に拳を寄せて、視線を横に流した。
俺は見たこともない彼の反応に、瞬きをした。
「ゾーラ嬢の手紙にも、こちらに来ると……」
「あっ……、ああ……」
レイフの反応に、俺は気の抜けた返事を返してしまう。
これは、あれか。
この反応は……。
「レイフ様、ゾーラ嬢と手紙のやりとりを……」
顔を赤らめて、口元をミミズのように歪ませるレイフ。
それだけで、俺だとて、悟ってしまう。
「もしかして、恋を……」
「いうな、いうな、いうな。それ以上、いうな」
真っ赤になるレイフは両手を振って俺の発言を制した。
ゾーラとレイフが……。
まさか……。
俺はまったく気づかなかった。
仮面の下でポカンとする俺の目の前では、赤くなるレイフが左右に体を動かして、なんとも居心地が悪そうだ。
「ああ……、彼女が来るのが楽し……」
「だから、いうな。それ以上言うな!!」
怒鳴られた以上に、思いもよらないカップリングに面食らう。
そして、瞬時にひらめく。
俺と婚約結婚し俺を暗殺するゾーラがレイフとくっつけば、俺の暗殺も回避できるのではないか。
このまま、レイフとゾーラがくっつけば……。
いつの間にか、歴史が変わっていたのだろうか。
思い当たる節はないが、そもそも、前世でかじった歴史だけが、歴史のすべてではない。
ゾーラがレイフとくっつくと見せかけて、公爵の反対にあうという可能性もまだ捨てきれない。
そんなこと、させるものか。
今回の功労者は俺だ。
スピア国を覇者にのし上げる俺の意向は尊重される、はずだ。
レイフの片手を俺は両手で掴んだ。
「レイフ様、その恋、俺は全力で支持します」
暗殺回避の糸口を掴んだ俺は、全力でレイフの恋を応援することにした。
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