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第五章 統一国

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砦に二十四家の当主たちが集まった。

最後に到着した公爵と夜半遅く、レイフとともに三者でスピア国の現状を確認する。

薬物をばらまき始め半年、早い者はそろそろマイナスの効果が表れる。

実は薬物を他国に売り始めた当初は、スピア国から売られた薬物はほぼ直接消費者に横流しされていた。
これが売れると分かった途端、それぞれの家が個別に買い付け、色をつけて売るようになった。

毎月徐々に値が上がっていく。
これもまた三家の懐を潤す助けとなった。

半年後の現在、他国で売られる価格は倍に跳ね上がる。
にもかかわらず、生産国のスピア国内では卸値のまま売られていた。
特段、宣伝はしていない。
ただ口伝えで広まる。
スピア国では安く手に入るぞと……。

これにより、人の流れが少しづつ変わる兆しが見えてきた。




儀式の前日。
二十四家が集う夜会が開かれるかと思いきや、何もなく、翌日の儀式に備え、砦は静かに眠りにつく。





翌朝、二十四家の面々が見守るなか、四人の魔導士が正方形の四隅に立ち、挨拶を交わす。
儀式の開始が宣言された。

六家の時と同じく、一騎打ち、魔導士が負けると代表者が咎を負う。
ルールは同じだった。
形骸化した儀式かもしれないが、三家の横暴を見ていた俺たちは、六家の時のような提案はしなかった。




ヒル家のウォーレンは風を得意とするものの、大きな風は扱えず、魔法を練るにも時間を要する。

ハリケーンを起すような魔力をもっていないのであれば、技量はゾーラより劣る。

バスカ家のベイジルは火を得意とするものの、小さな火の玉しか生み出せない。投ずる速さも、ボールを投げる程度のものだ。

火も風も操れれば、火の玉を風速に載せて投じることもできるというのに。

リドリー家のマルコムは水を得意とするものの、量の調整ができない。水は使い方を考えれば、少量でも人を害することができるというのに

物質を生み出す魔法とかけ合わせれば、その場で毒水を痕跡なく作れ、暗殺にも便利だというのに。





拍子抜けする俺は、簡単に三者を打ち負かした。
三戦全勝。
俺は衣類についた土埃をほろうまでもなかった。
スピア国が勝つことは目に見えていたとはいえ、呆気ない幕切れに、ため息しかでない。



二十四家の当主たちは、これは神聖な儀式であると宣言し、魔導士の主が責任を取る不文律を遂行するため、全勝のレイフ以外の主三人を縛り上げた。

公爵家で見た敗者の姿を俺は思い出した。

三敗のゴード。
二敗のデニス。
一敗のエイサ。

三者はこんなはずではないと吠えた。
なにが起こったのか分からないといいたげに、わめいていた。

卓上で不幸を量産していた者たちであっても、己がその責を負う段階になれば、不条理を叫ぶのは滑稽極まりなかった。




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