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第八章 暗殺

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血の気が引き、驚愕する俺にゾーラが顛末を語る。



レイフは俺が去っても気にせず、「オーウェンらしい」と納得し追わないことにしたそうだ。
役職をそのまま残したのは、いつでも戻ってきてかまわないという意図をこめてのことだった。

その上で、王太子とガーラの予定通りすすめていく。
各国にも知らせ、婚約の式典も、結婚の式典も、盛大に執り行われた。

何も知らない王も王太子も我が世の春を謳歌する。

彼らは秘密結社の存在も二十四家の存在も知らない。
ただ本当に、スピア国が四国を統一させたと思い込んでいた。

全容を知らされていない彼らは、いくつかの見えている事、起こっている事を手掛かりに、その点と点を結んで、結論を導きだす。

頂点に立ったことで世界のすべてが見えている気になり、その断片から導き出された歪な結論を、世界の真実、真相だと信じ込む。

信じることを補強する事実だけが彼らの目につくようになった王家は、与えられた栄華だけでは物足りなく感じるようになっていく。覇者として君臨しているはずなのに、思い通りに行かないことに納得できなくなっていた。

公爵の後ろ盾を得るレイフの采配通りに事が進んでいくと気づく。

当初、ガーラは王家の監視役であった。二十四家の存在も、秘密結社についても知っていたとはいえ、統一国の王妃になるのである。彼女はもっと思い通りになると思っていた。

なにより、事がすべてレイフの指示通り動く様をみて、その横にいる姉が目障りに感じるようになっていたそうだ。
姉妹関係は徐々に悪化していった。

妹には姉の方が良い婿を得たように見えたのだ。隣の芝生が青く見えているだけというのに、気づきもしないで。

すべてを知らされていなかったガーラは、王家の不満と同調していく。

もっと欲しい。
もっと贅沢がしたい。
姉よりも上に立ちたい。
四国を統一させた王家に嫁いだのに、権力を行使し、栄華を誇り切れないことに、不満を募らせていった。

レイフとやり取りがあったゾーラほどガーラは事情を知らない。
公爵も教えていなかった。

城内のほとんどの人員には公爵の息がかかっている。
王家に自由はなかった。
どう動こうとも筒抜けになるよう、人員は張り巡らされているはずだった。
公爵は油断していた。

大々的に動くことはできない状況にあると思われていたなかで、王太子は自ら動いたのだ。

薬学を学んでおり、王家の庭先にある植物から毒を作り出した。
元々、庭や植物を好む人物だったので、趣向が良い隠れ蓑になり、計画は発覚しなかった。

よもや鼠が一人で動くとはだれも思わなかったのだ。

レイフの結婚式も済み、国の方向性が定まる。
不満を抱いていたが、それを表に出さない程度に王太子は賢かった。

ある日、ねぎらいと称して、レイフのために宴を催すと言った。
満月の綺麗な夜に、園庭を眺める風雅で質素な宴だった。

その席で、王太子自らレイフに酒を注いだ。

酒自体に毒は無かった。
王太子はレイフのいない間に、盃の縁に毒を一塗りしていたのだった。

レイフが倒れた時、王太子に毒を盛られたと分かっていたものの、酒から毒が出てこず、盃に毒が仕込まれたと気づいた時には、物証は隠匿されていた。

倒れたレイフは屋敷にすぐさま運び込まれたものの、あっという間に息を引き取った。

その死は伏せられる。
死んでいるのに生きているとし、彼の有能な右腕でもあったガーラがレイフの名代として采配を振るうようになったのだった。
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