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第九章 決起

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王太子を暗殺するだけなら簡単である。
王に毒を盛るのもわけないことだ。

城はすべて公爵が掌握してある。
王太子に忍び寄り、魔導を駆使して命を絶つことも難しくない。

なるべく早く決着をつけ、俺は王太子を消してしまいたかった。
腹の底からたぎるように殺意が湧いてくる。
その衝動を必死に抑えていた。





レイフがいたからこそ、俺は気ままに理想の夢へと進むことができた。
俺の望む平和を実現する使命を背負ってくれたレイフ。彼に歴史を託したからこそ、俺は心安らかにジェナと出奔することができたのだ。

レイフがいなくなった今、俺が求める安寧は崩れた。

時間は無常にすすんでいく。
流れる歴史はきまっている。

死に際に傍にいてやれなかった悔いもあった。
レイフの遺体は屋敷の氷室に隠し、葬儀も行っていない。
できるだけ早めに領地に戻し、埋葬してやりたかった。

ゾーラがレイフの遺志を継ぐと明言するように、俺もまた彼女とは別の形でレイフの遺志を継ぐ。
正確には、俺がレイフに託した意思を俺の胸に戻すのだ。

レイフに託した未来は彼の死によって潰えるものではない。

平和な世界で、長生きをする。
そんなささやかな夢に、レイフの子どもが立派に育つ平和な世界を実現させる、という遺志の花が添えられるだけなのだ。

レイフに託したバトンは一回り重くなって俺に戻ってきた。
言うなれば、それだけである。

歴史を知っている俺は、今生きている過去げんじつが辿る道を知っている。
すべての答えは俺の手中にある。




だからこそ事後処理は重要だ。この点だけは、公爵と示し合わせておかねばならない。

俺は一晩、公爵と額を突き合せ、今後について話し合った。
レイフがまだ存命であると示すために、領地から動かない伯爵も、公爵とは意思疎通できており、王太子暗殺を待ちに待っているという話であった。



歴史を知る俺は、レイフの暗殺をオーウェンの暗殺に挿げ替えることを提案した。

レイフとオーウェンを同一人物とし、レイフともどもオーウェンを歴史から抹消する。

俺は今までずっと仮面を被っていた。後半は、とるタイミングが無かっただけであったが、おかげで誰も素顔を知らない。

夜会などでレイフとともに居たことで同一人物なはずがないと疑う者がいても、仮面をつけていたのだ、その時は別人に成り代わっていたなど言い訳もたつ。

二十四家だけは、二人が別人であることを認識している。
この暗殺で死んだのはレイフだけであると認識する。

生きている俺がどうするか。

すり替わった俺が、公の場で魔導を示せば、それだけで、俺が今どこにいるのか示すことができる。

良からぬことを考えれば、すぐさま制裁するぞと示せば、それだけで抑止力になるだろう。


未来の歴史を鑑みるとこれが正解の道筋だ。
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