経験値として生きていく~やられるだけの異世界バトル~

誇高悠登

文字の大きさ
9 / 59
一章 経験値として生きてます

8話 狂人の才能

しおりを挟む
「うああぁわぁあああ!」

 いつも冷静なサキヒデの悲鳴。
 それは、レベルの低い兵士たちの我を奪うには十分だった。
 未知の攻撃を放つセンリに対して、先頭にいた二人の兵士が跳びかかる。どれだけ愚かなのか、数分前の自分だったら識別できただろうに。
 
 愚かな人間は愚かに終わる。
 
 先ほどと同じ『音』が響くと、二人の兵士が頭蓋を撃ち抜かれ谷下に消えていった。
 血しぶきと共に落ちてく命に、俺は思わず声を上げそうになる。
 自分が『死』を経験していなかったら、俺も自分を失って錯乱したことだろう。『死』に耐性を得た俺は、何が起こったのかを考える。

 兵士達は撃ち抜かれたのだ。

 俺が暮らしていた街の近くには自衛隊があり、この『音』を聞いたことがある。

 『音』の正体。

 それは――銃声だ。
 男の手には拳銃・・が握られていた。

「お前! なんだよ、それは!?」

 俺にはその正体が何か分かるが、この世界に住む人々には何がどうなっているのか理解できないようだ。
 落ちてく仲間に唇を噛みしめ、ケインが声を上げる。

「まだ、精度に欠けるか。本当は眼鏡の頭を狙ったのだがな……。右肩とは大きくズレたものだ」

 淡々と呟くセンリ。
 武器としての威力には納得したのだろう。後は自分の腕を磨くだけだと、次の標的をナツカに定めた。
 拳銃がどんな攻撃をしていくのか、まだ、ナツカは気付いていないようだ。
 当たり前だ。
 存在しない技術を絶った数回で理解できるわけがない。
 俺だっていまだにスマホの操作を使いこなせないもん。
 ……もう、触ることもないだろうけどな!

 ナツカさんは、すぐに動けるように姿勢を落とすが――音がしてから動いたのでは遅い。
 俺は咄嗟に、

「ナツカさん、逃げて!」

 と、声を揚げて茂みから立ち上がった。
 間一髪。
 俺の声の方が、引き金を引く指よりも先に届いたようだ。
 ナツカさんがその場から跳躍すると同時に銃声が響いた。
 立っていた場所に銃弾が被弾する。

「お前……! なんで、ここに!」

 逃げるのが遅れていたら、自分が貫かれていたかも知れないのに、なぜか俺のことに触れる。
 いや――今は俺がここにいることはどうでもいいだろう。

「早く逃げないと撃ち抜かれますって!」

 刀や槍のような近接武器での戦いに、拳銃が並んでいたら勝てるわけもない。戦いのステージが違う。

 俺の言葉も一理あると判断したのか、ナツカさんが「お前ら……引くぞ!」と撤退を指示した。ケインとアイリさんは、怪我を負ったサキヒデさんを抱えて、森の中に消えていく。

 しかし、橋の上に立つ10人の兵士たちは、攻めていたチームワークが嘘のように、我先にと、互いに体をぶつけ転んでしまう。

「ほう。自ら的になってくれるとは……。カラマリ領の人間も気が利くようになったではないか」

 転んだ兵士の頭に狙いを定めて引き金を引く。
 このままでは――残された兵士が全滅してしまう。
 俺は、見たくないと目を背けたが――、

 キィン

 いつの間にかハクハ領に移動していたのか、クロタカさんが、センリの背後から小刀を振るった。
 拳銃と小刀がぶつかり合う音が俺の耳に届いたのだ。
 レベル50の兵士では越えられない谷も、クロタカさんレベルなら跳躍で飛び越えられるようだった。
 顔と顔を近づけた二人は、互いに笑い合う。

「隠れていたのに姿を見せていいのか? お前が隠れているのが面白くて見逃してやっていたのに」

「君が何か隠してたのは知ってたから……。拳銃それが隠してたものだね。ふふふふ、面白い武器つかうねぇ。僕にも味わわせてよ――」

 クロタカさんはそう言って自身に放たれる銃弾を刀で弾いた。
 その行為に俺は固まる。
 銃弾を小刀で弾くって……そんなこと出来るのかよ。
 あ、そうか。
 サキヒデさんが撃たれたことで、通常の人間の視線で話してしまっていたが、この世界の人間達は俺達とは違うのだった。

 だからと言って納得はできないけども。
 
 銃弾を弾いたクロタカさんが勝ち誇るようにして小刀を突きつけた。

「君が使うにしては、その武器は直線過ぎるね。殺気通りの攻撃じゃあ、僕には通じないよ」

 信じられないことにクロタカさんは、弾丸に込められた殺気を感じて回避を行っているらしい。そんなことできるのかよ……。
 だとしても、何回も上手くいくのか?
 
 遠くからでははっきりと見えないが、センリが使っているのは、リボルバー式の拳銃。大きさから判断するに六~八発の弾丸が込められると考えて良さそうだ。
 今、使ったのはサキヒデさんに一発。
 落ちて言った二人の兵士に二発。
 カナツさんに一発。
 そして、サキヒデさんが弾いた一発。

「少なくともあと三発も凌がなければ行けないのか……」

 二本の小刀と素早い身のこなしで照準を付ける隙を与えない。
 未知の武器である拳銃と渡り合っているのはクロタカさんだからこそだろう。殺気に敏感であり、遠くからではあるが、4回の攻撃を目撃していた。
 たったそれだけでどんな攻撃なのか見切ったのだ。

 殺気があるから攻撃してくる。
 クロタカさんはその思考のみで銃弾を防いだ。
 普通ならば、「なにがどうなったのか」「何故、遠距離から撃ち抜かれたのか」
 と、そこから考えてしまう。考える分、行動はワンテンポ遅くなってしまうのだ。

 狂人ではあるが戦いの天才。
 その才能を俺は見せつけられていた。
 殺されるだけの俺には、見る必要もないのだろうけども……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

処理中です...