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一章 経験値として生きてます
9話 経験値としての意地
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「おい……、お前は、あの武器を知っているのか!? 知ってるのであれば、なにか弱点がないか、私に教えてくれ!」
仲間たちを全員避難させたカナツさんが、俺の元にやって来た。
焦る口調で俺に言う。
どうやらさっきの言葉から、俺がセンリが使っている武器を知っていると気付いたようだ。頼って貰えることは嬉しいが、だが、素人の俺に、拳銃の弱点など思いつくわけもない。
「すいません。俺はミリタリー系は詳しくなくて……」
「何を言っている! このままでは、クロタカが……負けるぞ!」
小さなことでも良いから教えてくれと肩を掴まれた。
そんなこと言われてもな……。
俺が自分の小さな脳みそから記憶を引っ張ていると、カナツさんが自分の腿を殴った。
「私が助けに行ければいいのだが……」
弾を弾く芸当を、大将であるカナツさんも実行できない訳ではないだろうが、クロタカさん程の精度は期待できないと言う。
むしろ、自分が入ることで、現在拮抗している戦いを崩してしまう方が危険だと判断したようだ。
その辺は俺には分からないが、まあ、戦のプロのジャッジだ。
俺に口を出す権利はない。
それは分かっていても、つい口を滑らせるのが俺である。
「クロタカさんの方が押してませんか?」
銃弾の軌道から外れては刀を振るう。
リーチの短い小刀を使う素早い戦法。ヒット&アウェイを仕掛けるクロタカさんを、捕らえきれていないようだ。
このまま行けば、ハクハ領を倒せると期待しているのだが、全く違うと早口で否定された。
「センリの奴は、クロタカの狙いに気付いている。だからこそ、あえてあの武器を使っていないんだよ」
拳銃を使う気はない。
その存在を見せつけながら回避に専念しているのだと。言われてみれば、拳銃を気にして攻め手に欠けるクロタカさんを、薄ら笑いで避けていた。
戦ってるんじゃない。
遊んでいるのだ。
……マジかよ。
俺は急いで拳銃の情報を引き出すが、残念なことに元の知識がなければどうしようもない。
結果、無駄だった。
「すいません……。俺じゃ力不足です」
「そうか……。ならば、ここは――一か八かクロタカと二人で戦う。無傷とは行かなくとも、少なくとも奴を倒せるはずだ」
二人でようやく倒せる強さ。レベルで勝っているにも関わらずにか。
拳銃の武器を持っているとは言え――なんか、アレだな。
俺の存在を否定されたみたいだな。
経験値としてレベルを上げる。
そのことに対して、カラマリ領の皆がそれで喜んでくれているから、少しばかり天狗になってしまっていたのかも知れない。
レベルだけでは埋まらない個体差。
この三か月。
俺が殺され続けたことがばかみたいだ。
ならば――その俺の小さなプライドを賭けて、勝てはしなくとも、一矢報いろうではないか。
イタチのすかしっぺを舐めるなよ?
あれ?
すかしっぺだっけ?
まあ、いいさ。
とにかく、足掻いてやるってことだ。
「弱点は分からなくても、この場を抜け出す案は思いついたぜ……? はっはっは、実は俺、サキヒデさん以上に策士なのかもな」
「なに……?」
クロタカさんとカナツさんが二人そろって離脱する方法があると。
自分が思い付かないのに、戦初体験の俺が見つけ出したことに、カナツさんは驚いたようだ。そうだ、もっと驚くがいい。
俺の案があれば、シンリという奴から一瞬の隙を作れるだろう。
そして、カナツさんとクロタカさんの実力ならば、一瞬の隙があれば事足りる。
「大将。ここにいるのは、なにもお二人だけじゃないと思いやせんか?」
こーこーに、俺がいる。
と、自分の指で自分を指した。
そこで、カナツさんは俺の考えを察したようだ。
「お前、まさか……」
「俺が囮になればいい。あのハクハ領の大将さんに経験値与えるのはマズいだろうけど、クロタカさんとカナツさんが怪我をするよりはマシでしょう?」
シンリの強さに忘れそうになるが、これはハンディ戦。
この戦が終わってすぐに、違う領と戦わねばならないのだ。いくら順位が低かろうが、主戦力の三人を失っては勝てる確率は低くなる。
なら、センリのレベルを上げてでも、この場を切り抜けるべきではないかと俺は提言した。
「しかし……お前はいいのか?」
今までは決められた場所で、決められたタイミングで、最小限の痛みで殺されていた。
だが、戦場ではいつ殺されるかも分からないし、痛みがどれほどのモノか分からない。
もしかしたら、拷問をされるのかも知れない。
ナツカさんが心配してくれるが――、
「安心してください。いや、まさか、クロタカさんの拷問がここで生きてくるとはね……」
あの痛みを味わいたいとは思わないけれど、でも、死んでも生き返ると分かっていながら、お世話になってるカナツさんを見捨てるのはもっと嫌だ。
三か月と言う短い期間ではあるが、痛みを味わってでも守りたいと思う位には絆を感じていた。
それに、ほら、「死んでいい人間がいない」って言うのは、死んだらお終いだからだろ? もしも、全ての人間がいたら、そんな綺麗事を言っていたのだろうか。
案外、地球上の全員が俺と同じような力を手にしたら、『取り敢えず死刑』とかが流行語になるかもしれないじゃん?
……いやー、怖いからブラックジョークが湧いて出るぜ。
俺は少しでも余裕に見せるように自分のジョークで無理やりに笑う。
「安心してくださいよ。今も量産されてる俺は、畑仕事してるだろうから――戻ったら報酬くれればそれでいいっすよ」
「……すまない」
あれ?
俺の強がり見抜かれたのかな?
申し訳なさそうに大将があたまを下げた。
これ言うならば、日本の首相が俺に頭を垂れてるってことだよな?
俺すげー!
なんか、急にやる気が出てきたぜ!
「じゃあ、行ってきます!」
俺は精一杯格好つけて言うが――しかし、その声は震えていた。これじゃあ、カナツさんに、強がりだって見抜かれるわ。というか、強がり以外の何物でもなかった。
……これ以上、脚を止めていたら動けなくなる。
自分の両足を何度も殴って痛みを与えた。
ジンジンと内側から湧き出る痛みが、同じく湧き上がる恐怖と混じって和らげる。
「よし!」
俺は雄叫びを上げながら橋を渡る。
突如として現れた、意味不明な叫びと、二人からすれば鈍過ぎる全力疾走に、何事かと動きを緩めた。
が、俺なんて、一瞬で相手にする必要のないザコだと伝わったようで、直ぐに二人の戦いに戻ってしまう。
センリはともかくとして、クロタカさんは、俺が弱いの知ってるんだから、「来るな!」ぐらい言ってもいいんじゃないかな?
俺だって頑張ってるんだから。
まあ、いいか。
相手にされない方が好都合だ。
俺の視界に金色の髪が映る。
拳銃の音もしていない。
これなら、俺の捨て身タックルが当たるだろう。
作戦通りだ。
力を込めて衝撃に備えるが――なにかが当たる感触もなく、俺の意識が途切れた。
なるほど。
どうやら、俺は殺されてしまったようだ。
……カッコ悪すぎる死に様だった。
仲間たちを全員避難させたカナツさんが、俺の元にやって来た。
焦る口調で俺に言う。
どうやらさっきの言葉から、俺がセンリが使っている武器を知っていると気付いたようだ。頼って貰えることは嬉しいが、だが、素人の俺に、拳銃の弱点など思いつくわけもない。
「すいません。俺はミリタリー系は詳しくなくて……」
「何を言っている! このままでは、クロタカが……負けるぞ!」
小さなことでも良いから教えてくれと肩を掴まれた。
そんなこと言われてもな……。
俺が自分の小さな脳みそから記憶を引っ張ていると、カナツさんが自分の腿を殴った。
「私が助けに行ければいいのだが……」
弾を弾く芸当を、大将であるカナツさんも実行できない訳ではないだろうが、クロタカさん程の精度は期待できないと言う。
むしろ、自分が入ることで、現在拮抗している戦いを崩してしまう方が危険だと判断したようだ。
その辺は俺には分からないが、まあ、戦のプロのジャッジだ。
俺に口を出す権利はない。
それは分かっていても、つい口を滑らせるのが俺である。
「クロタカさんの方が押してませんか?」
銃弾の軌道から外れては刀を振るう。
リーチの短い小刀を使う素早い戦法。ヒット&アウェイを仕掛けるクロタカさんを、捕らえきれていないようだ。
このまま行けば、ハクハ領を倒せると期待しているのだが、全く違うと早口で否定された。
「センリの奴は、クロタカの狙いに気付いている。だからこそ、あえてあの武器を使っていないんだよ」
拳銃を使う気はない。
その存在を見せつけながら回避に専念しているのだと。言われてみれば、拳銃を気にして攻め手に欠けるクロタカさんを、薄ら笑いで避けていた。
戦ってるんじゃない。
遊んでいるのだ。
……マジかよ。
俺は急いで拳銃の情報を引き出すが、残念なことに元の知識がなければどうしようもない。
結果、無駄だった。
「すいません……。俺じゃ力不足です」
「そうか……。ならば、ここは――一か八かクロタカと二人で戦う。無傷とは行かなくとも、少なくとも奴を倒せるはずだ」
二人でようやく倒せる強さ。レベルで勝っているにも関わらずにか。
拳銃の武器を持っているとは言え――なんか、アレだな。
俺の存在を否定されたみたいだな。
経験値としてレベルを上げる。
そのことに対して、カラマリ領の皆がそれで喜んでくれているから、少しばかり天狗になってしまっていたのかも知れない。
レベルだけでは埋まらない個体差。
この三か月。
俺が殺され続けたことがばかみたいだ。
ならば――その俺の小さなプライドを賭けて、勝てはしなくとも、一矢報いろうではないか。
イタチのすかしっぺを舐めるなよ?
あれ?
すかしっぺだっけ?
まあ、いいさ。
とにかく、足掻いてやるってことだ。
「弱点は分からなくても、この場を抜け出す案は思いついたぜ……? はっはっは、実は俺、サキヒデさん以上に策士なのかもな」
「なに……?」
クロタカさんとカナツさんが二人そろって離脱する方法があると。
自分が思い付かないのに、戦初体験の俺が見つけ出したことに、カナツさんは驚いたようだ。そうだ、もっと驚くがいい。
俺の案があれば、シンリという奴から一瞬の隙を作れるだろう。
そして、カナツさんとクロタカさんの実力ならば、一瞬の隙があれば事足りる。
「大将。ここにいるのは、なにもお二人だけじゃないと思いやせんか?」
こーこーに、俺がいる。
と、自分の指で自分を指した。
そこで、カナツさんは俺の考えを察したようだ。
「お前、まさか……」
「俺が囮になればいい。あのハクハ領の大将さんに経験値与えるのはマズいだろうけど、クロタカさんとカナツさんが怪我をするよりはマシでしょう?」
シンリの強さに忘れそうになるが、これはハンディ戦。
この戦が終わってすぐに、違う領と戦わねばならないのだ。いくら順位が低かろうが、主戦力の三人を失っては勝てる確率は低くなる。
なら、センリのレベルを上げてでも、この場を切り抜けるべきではないかと俺は提言した。
「しかし……お前はいいのか?」
今までは決められた場所で、決められたタイミングで、最小限の痛みで殺されていた。
だが、戦場ではいつ殺されるかも分からないし、痛みがどれほどのモノか分からない。
もしかしたら、拷問をされるのかも知れない。
ナツカさんが心配してくれるが――、
「安心してください。いや、まさか、クロタカさんの拷問がここで生きてくるとはね……」
あの痛みを味わいたいとは思わないけれど、でも、死んでも生き返ると分かっていながら、お世話になってるカナツさんを見捨てるのはもっと嫌だ。
三か月と言う短い期間ではあるが、痛みを味わってでも守りたいと思う位には絆を感じていた。
それに、ほら、「死んでいい人間がいない」って言うのは、死んだらお終いだからだろ? もしも、全ての人間がいたら、そんな綺麗事を言っていたのだろうか。
案外、地球上の全員が俺と同じような力を手にしたら、『取り敢えず死刑』とかが流行語になるかもしれないじゃん?
……いやー、怖いからブラックジョークが湧いて出るぜ。
俺は少しでも余裕に見せるように自分のジョークで無理やりに笑う。
「安心してくださいよ。今も量産されてる俺は、畑仕事してるだろうから――戻ったら報酬くれればそれでいいっすよ」
「……すまない」
あれ?
俺の強がり見抜かれたのかな?
申し訳なさそうに大将があたまを下げた。
これ言うならば、日本の首相が俺に頭を垂れてるってことだよな?
俺すげー!
なんか、急にやる気が出てきたぜ!
「じゃあ、行ってきます!」
俺は精一杯格好つけて言うが――しかし、その声は震えていた。これじゃあ、カナツさんに、強がりだって見抜かれるわ。というか、強がり以外の何物でもなかった。
……これ以上、脚を止めていたら動けなくなる。
自分の両足を何度も殴って痛みを与えた。
ジンジンと内側から湧き出る痛みが、同じく湧き上がる恐怖と混じって和らげる。
「よし!」
俺は雄叫びを上げながら橋を渡る。
突如として現れた、意味不明な叫びと、二人からすれば鈍過ぎる全力疾走に、何事かと動きを緩めた。
が、俺なんて、一瞬で相手にする必要のないザコだと伝わったようで、直ぐに二人の戦いに戻ってしまう。
センリはともかくとして、クロタカさんは、俺が弱いの知ってるんだから、「来るな!」ぐらい言ってもいいんじゃないかな?
俺だって頑張ってるんだから。
まあ、いいか。
相手にされない方が好都合だ。
俺の視界に金色の髪が映る。
拳銃の音もしていない。
これなら、俺の捨て身タックルが当たるだろう。
作戦通りだ。
力を込めて衝撃に備えるが――なにかが当たる感触もなく、俺の意識が途切れた。
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