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出会うことのなかった妻 (明神 公人)
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「あら……? 公人さん、今日はお休みなの?」
ダイニングキッチンで朝食を食べていた僕に、彼女――清野(せいの) 純(じゅん)さんが聞いてきた。腰まである髪を先端で一つに留めた髪型と、ピンクのエプロンが良く似合う、おっとりとした女性だ。
僕は手に持っていた箸を置いて答える。
「はい。僕は休みなので、今日は一日家にいます」
「そう……。なら、お留守番はお願いしますね、公人さん」
「はい……」
清野 純さんは〈並行世界〉で当てのない僕らを世話してくれている。今朝だって、当たり前のように、バランスの取れた食事が並んでいた。
卵焼きにサラダに味噌汁。
一般的なメニューだけど、現実世界では偏った食事を口にしていた僕からすれば、感謝しかない。
清野さんも食事をとるのか、4人掛けのテーブルに向かい合うように座る。
そして、話すことなく互いに箸を動かしていく。
正直、僕と彼女の関係は複雑である。
彼女は未亡人だ。
年齢は僕より一回り上の27歳――結婚していても驚かない年齢だ。だが、一番の驚くべき点は、彼女の夫が――この世界の僕だということだ。
〈並行世界〉で暮らしていた僕は、どうやら〈悪魔〉に逆らって殺されたらしい。
違う世界の自分だとしても、死んだことは知りたくはないが。
大雑把な性格の継之介は、「あんまり気に済んな」と言うが、当の本人である僕と彼女は、二人きりになるとなんとなく気まずい。
いや、そう感じているのは僕だけなのかもしれない。
純さんは二人きりだろうと態度を変えることなく、僕に話しかけてくれるのだから。
ご馳走様でしたと、手を合わせた清野さんが、食器を片づけながら僕に聞く。彼女は食事中は会話をしたがらない。
いや、それはきっと僕と暮らしていたからそうなったのだろう。
子供の時から賑やかな教室での昼食が僕は嫌いだった。
だから、僕に合わせて黙っていてくれたのか。
「そう言えば――昨晩、帰って来たのが遅かったようなけど、〈悪魔〉を退治していたのかしら? 夜遅くまでお疲れ様」
〈悪魔〉についての発言は、本来ならば罰を受ける対象になるのだが、それには例外が二つある。
一つは〈悪魔〉本人と話すこと。
もっとも、〈悪魔〉は本来の姿を見せることはないので、そんな真似をする人間は今となっては誰もいない。
そしてもう一つは、僕達と会話する時だ。
〈並行世界〉から〈プレイヤー〉として呼び出された僕達にはその制約はかけられていない。だから、情報を集めることもできるし、こうやって日常の一場面として〈悪魔〉の話題を出すことも出来る。
「あ、いえ、僕は殆ど見ているだけだったので。継之介が全部1人で倒し――。」
いや、追い詰めたのは継之介だったけど、止めを刺したのは違うんだと言葉を止めた。
〈悪魔〉を倒したのは、青い鱗を持った未知なる竜人だ。
見た目だけで言えば〈悪魔〉と類似していたが、〈ポイント〉と発言していたことを考えると僕たちと似たような境遇なのかも知れない。
もし、そうならば、協力できるか……。見た目だけで敵と判断するのは、チャンスを逃すだけだ。
つまり、可能性は半々であるということ。
「敵か味方か分からない状況を続けるのは無駄か……」
そうなると――相手の情報は直ぐにでも手に入れた方がいい。継之介が返ってきた時、情報を買うのか相談をしよう。
そう決めた僕に清野さんが言う。
「どうしました? もしかして、継之介くんが怪我しちゃったとか……? だから、姿を見せないの……?」
「そんなことはありません。あいつはいつでも元気ですよ。だから、今日も普通に働きに出てるんです」
「そう、それは良かったわー。継之介くん、無茶ばっかりするから」
ホッと胸に手を当てて安心したように息を漏らす純さん。
僕たちの暮らす家や世話をしてくれるだけでなく、本当に心配してくれているのが伝わってくる。彼女がいなかったら、僕たちは〈悪魔〉と戦う以前の問題だっただろう。
暮らす家もなければ料理も家事もできない僕達を救ってくれた女神のような存在。
「あ、今日の晩御飯はハンバーグだから楽しみにしていてね!」
そして、なにより――彼女の作るご飯は美味しかった。
ダイニングキッチンで朝食を食べていた僕に、彼女――清野(せいの) 純(じゅん)さんが聞いてきた。腰まである髪を先端で一つに留めた髪型と、ピンクのエプロンが良く似合う、おっとりとした女性だ。
僕は手に持っていた箸を置いて答える。
「はい。僕は休みなので、今日は一日家にいます」
「そう……。なら、お留守番はお願いしますね、公人さん」
「はい……」
清野 純さんは〈並行世界〉で当てのない僕らを世話してくれている。今朝だって、当たり前のように、バランスの取れた食事が並んでいた。
卵焼きにサラダに味噌汁。
一般的なメニューだけど、現実世界では偏った食事を口にしていた僕からすれば、感謝しかない。
清野さんも食事をとるのか、4人掛けのテーブルに向かい合うように座る。
そして、話すことなく互いに箸を動かしていく。
正直、僕と彼女の関係は複雑である。
彼女は未亡人だ。
年齢は僕より一回り上の27歳――結婚していても驚かない年齢だ。だが、一番の驚くべき点は、彼女の夫が――この世界の僕だということだ。
〈並行世界〉で暮らしていた僕は、どうやら〈悪魔〉に逆らって殺されたらしい。
違う世界の自分だとしても、死んだことは知りたくはないが。
大雑把な性格の継之介は、「あんまり気に済んな」と言うが、当の本人である僕と彼女は、二人きりになるとなんとなく気まずい。
いや、そう感じているのは僕だけなのかもしれない。
純さんは二人きりだろうと態度を変えることなく、僕に話しかけてくれるのだから。
ご馳走様でしたと、手を合わせた清野さんが、食器を片づけながら僕に聞く。彼女は食事中は会話をしたがらない。
いや、それはきっと僕と暮らしていたからそうなったのだろう。
子供の時から賑やかな教室での昼食が僕は嫌いだった。
だから、僕に合わせて黙っていてくれたのか。
「そう言えば――昨晩、帰って来たのが遅かったようなけど、〈悪魔〉を退治していたのかしら? 夜遅くまでお疲れ様」
〈悪魔〉についての発言は、本来ならば罰を受ける対象になるのだが、それには例外が二つある。
一つは〈悪魔〉本人と話すこと。
もっとも、〈悪魔〉は本来の姿を見せることはないので、そんな真似をする人間は今となっては誰もいない。
そしてもう一つは、僕達と会話する時だ。
〈並行世界〉から〈プレイヤー〉として呼び出された僕達にはその制約はかけられていない。だから、情報を集めることもできるし、こうやって日常の一場面として〈悪魔〉の話題を出すことも出来る。
「あ、いえ、僕は殆ど見ているだけだったので。継之介が全部1人で倒し――。」
いや、追い詰めたのは継之介だったけど、止めを刺したのは違うんだと言葉を止めた。
〈悪魔〉を倒したのは、青い鱗を持った未知なる竜人だ。
見た目だけで言えば〈悪魔〉と類似していたが、〈ポイント〉と発言していたことを考えると僕たちと似たような境遇なのかも知れない。
もし、そうならば、協力できるか……。見た目だけで敵と判断するのは、チャンスを逃すだけだ。
つまり、可能性は半々であるということ。
「敵か味方か分からない状況を続けるのは無駄か……」
そうなると――相手の情報は直ぐにでも手に入れた方がいい。継之介が返ってきた時、情報を買うのか相談をしよう。
そう決めた僕に清野さんが言う。
「どうしました? もしかして、継之介くんが怪我しちゃったとか……? だから、姿を見せないの……?」
「そんなことはありません。あいつはいつでも元気ですよ。だから、今日も普通に働きに出てるんです」
「そう、それは良かったわー。継之介くん、無茶ばっかりするから」
ホッと胸に手を当てて安心したように息を漏らす純さん。
僕たちの暮らす家や世話をしてくれるだけでなく、本当に心配してくれているのが伝わってくる。彼女がいなかったら、僕たちは〈悪魔〉と戦う以前の問題だっただろう。
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