並行世界で悪魔とゲーム

誇高悠登

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〈ポイント〉の使い道 (正大 継之介)

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「さて、公人。ちょっとお前に言いたいことがあったんだ」

「僕もだよ、継之介」

 俺と公人は純さんが作ってくれていた夕飯を食べ終え、俺の部屋に集まっていた。純さんが一人で生活している家は一軒家。将来の家族のために、それなりの数を用意していたのだろうが、今は使っていない部屋の方が多い。
 
 だから、俺と公人はそれぞれ一人ずつ部屋を与えられた。
 基本、部屋の中に純さんが入ってくることはないのだけれど、毎週日曜日の10時から掃除をすると決まっている。

 部屋の掃除や食事を用意してくれるのは、純さんなりに〈悪魔〉を倒したいからだろう。父を――〈並行世界〉の公人を殺した〈悪魔〉を……。

 そのためにも、〈ポイント〉を集めている〈悪魔〉の情報を買おうと、公人に提案したかったのだが、公人は公人で俺に話があるようだ。
 俺は先に公人の要件を聞くことにした。

「で、お前の言いたいことはなんだ?」

「あ、僕からでいいのかい? 継之介が先にいいなよ」

「俺は別に後でいいさ」

「本当? なら、先に提案をさせて貰おうかな」

 今日の夕飯は公人が好きなハンバーグだったからか、どこか機嫌が良さそうだ。こいつはしっかりしているようで、意外なところで子供っぽい。

「僕は昨日会った、あの〈悪魔〉についての情報を、〈ポイント〉で買いたいと思ったんだけど、どうだい?」

「……奇遇だな。俺もそのことをお前に言おうと思ってたんだよ」

〈ポイント〉とは〈悪魔〉を倒すことで〈ゲームマスター〉から与えられる報酬みたいなものだ。
 仲間である〈悪魔〉の命に数値を付けて俺達と戦わせる。
 奴はそれを見て楽しんでいる。
 俺に力があれば……。

「継之介……? どうしたの?」

「あ、いや、なんでもない」

 公人も昨日の〈悪魔〉のことは気になっていたらしい。それならば話は早かった。
 俺と公人の取り決めで〈ポイント〉は二人共通で管理している。
 故に使う時は二人が納得しないといけない。
 今回の場合は完全に意見が一致した。ならば、迷ってる暇はないと、テーブルに置かれたタブレット端末の電源を入れた。

 起動してしばらくすると、自然と画面が切り替わっていく。
 これは市販のタブレットではない。
〈ポイント〉の管理や連絡用に作られたオリジナルの端末だった。
 メイン画面の中央には俺と公人がこの三か月で貯めた〈ポイント〉が表示されている。

『100Pt』

 これが俺達の三か月の成果だった。
 だが、はっきり言うと俺達が求めている数字には全然足りていない。どれくらい足りていないかといえば、桁が一つ分だ。

 まあ、それでも、一年間、今の生活を続けることができれば、十分に必要数には達する。そう考えれば慌てるようなことでもないのだろうが――今回のように〈ポイント〉を横取りされていては、当然、貯まるモノも貯まらない。

 だからこそ、俺達は今から妨害する〈悪魔〉の情報を買うんだ。

 俺達の合計ポイントの右下に交換と書かれた文字がある。
俺がそこに触れると画面が切り替わり、〈ポイント〉と引き換えに交換できる〈商品〉が表示された。
 この画面を見るたびに俺は怒りを覚えて拳を握る。

 何故なら、その景品の一番上には――『人間』と書かれているのだから。

 交換必要〈ポイント〉は『1500Pt』。それを払うことで――四国に囚われた人々を解放することができるのだ。

 怒りに奥歯を噛みしめて操作を止めた俺に代わって、公人が引き継いだ。
 画面を下にスクロールさせていくと、目当てのモノがあった。

『情報――3Pt』

 公人は迷わずに選択して情報を購入した。
 俺達が集めた〈ポイント〉が100から97へと減少する。購入してからしばらくたつと自動で画面が切り替わる。

 切り替わった画面に映ったのは、黒の下着姿――おまけにガーターベルトまで付けている。映像が繋がっていることに気付いていないのか、背を向けて鏡に向かってポージングしていた。

「おい! 〈ポイント〉は払ってるんだから早く対応してくれないか!?」

 俺の叫び声で回線が繋がっていることに気付いたのか、ランウェイを歩くモデルのような歩きで画面に近づいてくる。
 正面を向くことで見える強調された谷間。
 口元には色気のある黒子があった。

「なーにー? これからマスターとお楽しみだっていうのに……。邪魔しないで貰えるかな?」

 相手がこの女でなければ、魅力的に感じられたのだろうが、こいつは〈悪魔〉。しかも、四国を支配している一人だ。
 そんな奴と呑気に会話する気はない。
 情報だけ貰って、さっさと会話を終わらせるか。

「そんなこと知るかよ。それより、情報を教えて貰おうか。昨晩、俺達の他に〈ポイント〉を集めている〈悪魔〉がいた。そいつについての情報を知りたい」

 この女は言うなれば〈ゲームマスター〉の秘書。〈ゲームマスター〉に一番近い場所にいる存在だ。
 だから、俺達が知りたいと思った情報何て直ぐ調べることが出来るだろう。〈悪魔〉について言葉を漏らした人間を殺すことができるのだ。俺達が知りたい情報を調べることなんてこいつらにとっては容易いことだ。

 俺の言葉を受けて、画面の向こうでキーボードを入力する。〈悪魔〉でも最新技術は使うんだなと嫌味の一つでも、毎度言いたくなるのだが、ここで腹を立てられて回線を切られたくはない。
 ただ、黙って作業が終わるのを待つ。
 何回か操作を繰り返した女性が俺達に言う。

「〈悪魔〉がポイントを……? そんなデータは私の元に来ていないわ?」

「嘘を吐くな! 昨日、確かにいたんだ。まさか、〈ポイント〉がけ消費させて何も教えない気か?」

〈悪魔〉が〈ポイント〉を集めているというならば、こいつらの仲間である可能性が高い。どれだけ〈ポイント〉を払おうと相手が〈悪魔〉であることは変わりない。
 自分たちが有利になるための情報操作くらいやってのけるか。

『3Pt』は俺達に取って、貴重な数字だ。
〈悪魔〉を一体倒して手に入るのが精々『3Pt』。

 一週間に一度、『悪魔』を倒せればいいが、最近は俺達の存在に気付いてか、〈悪魔〉達の動きが静かになり、見つけるのが困難になっていた。
 せめて昨日の〈悪魔〉を倒せていればと奥歯を擦るが、どれだけ考えても無駄なことだ。
 それに――全てを教えてはくれないとこの端末を貰った時に説明されていた。
 俺に思い出させるように言う。

「最初にいったでしょ? 『情報』は答えらる範囲だって。分かって使ったのだから、悪いのはそっちよ? 質問はそれだけなら、切るわ。これからマスターと気持ちのいいことするんだから」

 艶やかな声で言うと、唇に指を付けて「チュっ」とキスを投げる。
 本当に人の気を逆なでするのが上手い奴だ。
 直ぐに相手の挑発に乗ってしまう俺を抑えて、公人が欲する情報を切り替えた。

「分かった。なら、質問を変えてもいいかい? 僕たちの近くにいる〈悪魔〉を1人教えてくれ」

 このままでは〈ポイント〉が無駄になる。ならば、既に経験している質問ならば答えて貰えるだろうと公人は判断したようだ。

〈悪魔〉の情報

 これは前にも一度質問し、答えを貰っていた。
 楽して〈悪魔〉の居場所を知ることができるのだが、残る〈ポイント〉はプラマイゼロ。こういう時でないと意味をなさない質問だ。

「それは構わないわ」

 女性は違う画面で作業をすると、すぐに公人の問いに答えた。

「飯田(いいだ) 宇美(うみ)という〈悪魔〉が近いわね。でも、あげれる情報はこれだけ、じゃあね」

 よほど〈ゲームマスター〉との良いことが楽しみなのか、唐突に映像が切られてしまった。

「くそ。あいつら……。自分たちが優位にいるからっていい気になりやがって。あー! もう、我慢できねぇ。奴らがアジトにしてる四国に乗り込んでやろうか!!」

 そして、四国に囚われた人質を解放する!
 怒りで我を忘れる俺の肩を公人が叩いた。

「……それは止めといた方がいいよ、継之介。僕たちがこの〈並行世界〉に来たときのことを――忘れたわけじゃないよね?」

 公人の言葉にその時の映像が浮かんで流れる。
 俺達と同じようにして〈並行世界〉にきた人々が、〈悪魔〉に襲われ喰われていく。少なくとも100人はいただろう。

 だが、生き残ったのは俺達二人。

 疲弊と恐怖から解放された俺と公人の前で〈ゲームマスター〉が取った行為は――四国で暮らす人々の命を奪うことだった。
 生き延びたと安堵していた俺達の前に、新たに100人の死体が重ねられた。
 死体が作る山の頂で〈ゲームマスター〉笑っていた。
 新たなゲームに花を添えると言って……。

「ああ……。分かってる。本気で行動には移さねぇよ」

 100人もの人間を同時に瞬間移動させて、同時に命を奪った。そんな化物を相手に今の俺は悔しいが歯が立たないだろう。

 だが――それは現時点での話だ。

 俺が強くなればこんなふざけたゲームに付き合う理由もない。「今はまだな……」と、俺は公人に聞こえないように呟き、ベランダに出た。
 少し肌寒い風が俺の怒りを冷ましていく。
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