夢十夜

研修

　会社で研修を受けている。

　開始から1時間経った時、私だけ別の部屋に行くように指示があった。

　部屋に入ると、社長がいて、アンケートのようなものに答えさせられた。

　その後しばらく沈黙が流れ、社長が重そうな口を開く。

　「あなたの教育を行うと、担当者がつきっきりにならなければいかなくなって自分の仕事ができない」

　暗に

　「辞めてもらえないだろか」

　と言っているのは明らかだったが、私もこのご時世簡単に

　「はい分かりました」

　と言うわけにはいかない。

　もっとも社長には言っていないが、別の会社の面接も数社受けてある。そちらから採用連絡を受けたら、こんな会社はどうでもいい。

　採用になる保証など無いからそんなことは口にできないが。

　私が「辞めます」と言い出さないので、このあと何をさせたらいいのか困っているらしい。紙を渡され何やらテーマに沿った文章を書くように言われる。

　こんなことに何の意味があるのかと思ったが、おとなしく指示に従う。

　国語辞典を二冊持ってきている。一冊は私が高校入学の際に買ってもらったもので、もう一冊は同じく妹が買ってもらったもの。妹は最近使っていないので、重なるけど私が譲り受けた。

　ある言葉の意味を知りたくて引いてみるが、古い辞書なので両方とも載っていなかった。

　午前が終わり、昼食は屋上でとる様に言われる。

　屋上に出ると他の研修生もたくさんいたが、雨が降ってきた。皆渋い顔をしている。わずかに屋根がかかっている部分には既にほかの研修生が密集している。

　これじゃ「3密」そのものだと思い、私は近寄ろうとは思わなかった。そう思っている人も多いらしく、雨が降る中途方に暮れている。

　雨は止む気配がない。