子供専門の写真館

zebra

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初めての依頼者

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 「いらっしゃいませ」

 若い女性が迎えてくれた。事務員だろうか。

 「撮影のご依頼でしょうか」

 「今日開店ですよね。予約とかは要らないのですか」

 「いいえ、お問い合わせはあるのですが。着衣撮影とかの希望も多くて。本写真館は子供のヌード専門とさせていただいておりますので、着衣撮影はお断りしております。もしお客様が希望されれば、すぐ撮影できますよ」

 「撮影する方は中にいらっしゃるのですか」

 「私が撮影いたします」

 「失礼しました。あまり若いので事務の方かと思っていました」

 「私のような若い女性なら、お子様を安心して任せていただけるかなと思って。いかつい男性写真家だったら泣き出してしまうかもしれませんね」

 「そうですよね。それじゃ、お願いしようかな」

 「撮影されるのはそちらのお嬢様ですね。作品を店内に展示させていただけるなら、最初のお客様ですから無料にしますよ」

 昭和50年は児童ポルノなどという概念そのものが無かった時代である。

 「ありがとうございます。それで構いません」

 「お名前と年齢を伺えますか」

 母親が答える。

 「ちはる。4さいです」

 「それではスタジオに参りましょうか。お母様も一緒にいてあげてください」

 「ちはる、おいで。写真撮るよ」

 スタジオは暖色系のふわふわした素材の床の部屋だった。

 彼女はちはるに声を掛けた。

 「それじゃ、服脱ぎましょうか」

 「服、脱ぐの?どうして?」

 「・・・・・・。」

 考えてみれば、あの幼稚園はそういう環境にあったからこそ子供たちはごく当たり前に裸になっていたが、赤ちゃんならともかくこれくらいの年齢の子が写真家の言われるままに何の意味もなく脱いでくれるわけがない。

 母親と作戦を立てる必要があるかと思った時、彼女はふと思いついた。

 「お母様も裸になっていただくわけにはいかないでしょうか」

 「・・・・・?」

 「つまり、こういうことです。おかあさまも一緒に裸になれば、ちはるちゃんは何の疑問を抱くこともなく脱いでくれるはずです。私がお母様の側に来て撮影すれば、ちはるちゃんの自然な姿を撮ることができるのではないかと思います」

 「確かにそれは名案ですね。それくらいやる価値はありそうです」
 
 母親は娘に声をかける。

 「ほら、ママも裸になるから。一緒に写真撮ってもらおうね」

 母親は何のためらいもなく、さっさと脱ぎ始めた。決断したら行動の早い女性のようだ。

 それを見た娘も連られるように脱ぎ始める。

 母子は彼女の前で生まれたままの姿になった。娘は母親と一緒の写真を撮ってもらうつもりなのだろう。実際には娘の方だけなのだが。

 母親が声をかける。

 「ちはる、服、ちゃんと脱げたね。いい子だね」
 
 褒められた娘は嬉しそうに母親に近付いていく。これこそ彼女が求めていた自然な姿だ。すぐ撮影する。母親がその場にいれば、自分が裸であることなど忘れて他の人がいたとしてもそんなことなど気にもしなくなる。それが子供。

 彼女にとってはそれが分かっただけでも撮影をただでやったことなど遥かに超える意味があった。今後の仕事をやるうえで大いに役立つだろう。

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