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偽りの過去
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思い返せば、自分の「過去」について子供たちに話したことは一度も無かった。
二人にとって祖父母といえばユウさんの両親であり、今まではそれで十分だったのは確か。
これからはそうはいかなくなる。どのように説明しようか。
いずれにしても自分一人だけでは決められない。ユウさんやご両親と相談して辻褄合わせをしておかないと矛盾が生じかねない。
それすらも、本当の「過去」ではない。ここで生活している間はずっと隠し続けていかなければならないこと。
「今日は話せないの。後で必ず教えてあげるから、それまで待っていてね」
「はあい」
特に疑問は持っていない様子。とりあえずその場は何とかなった。
子供たちが寝付いた後、ユウさんに話す。
「きみ、本当に今でも記憶が戻っていないの?」
「ええ、あの時より前のことは何一つ憶えていないわ」
「だったら、そのまま話すしかないんじゃないかな。適当なことを言って誤魔化しても、大きくなるにつれてますます疑うようになるよ」
「やっぱりそうするしかないか」
昭和から来たなんて言えるはずがない。
今、両親はどうしているだろう。生きていれば父は90を超えている。母も80代半ばのはず。
思いにふけっている顔を見て、ユウさんは別のことを想像したらしい。
「大丈夫。君がどこの誰だろうと、僕の妻であり、あの子たちの母親であることに変わりはないのだから」
「ありがとう」
その夜はずっと眠れなかった。
そのまま夜は明けた。
メイとアオイはまだ眠っている。起きて来たユウさんに、これから二人に説明するつもりだと話す。
メイは今日から夏休み。敬子としては弁当を作らなくて済むのが一番助かる。給食のある日もあるが、園の方針で週に二日は弁当持参になっている。
完全週休二日制というのには驚いた。これが当たり前になっているらしい。昭和の時代では学校や幼稚園が週休二日制なんて少なくとも慶子は聞いたことが無かった。
朝食の支度ができた頃にメイとアオイが起きてきた。昭和の家族では歩と泰代は早起きだったが、病弱なためか、保はいつも寝起きが悪くて起こすのに苦労していた。
「おはよう。ごはんにするわよ」
「はあい」
「ちょっと二人ともよく聞いてね」
珍しく真剣な顔をしたのを見て、メイとアオイは口を閉じて敬子の顔を注視する。
「今からいうことはお友達に話したりしないでね。家族だけの秘密。約束よ。守れる?」
動きを揃えて頷く。
「ママにはね、お父さんもお母さんもいないの。死んだとかじゃないのよ。気が付いたら、それまでのこと何一つ憶えていなかったの。本当の名前も分からない。「けいこ」というのは自分で付けた名前」
メイが聞いてくる。
「じゃあ、ママのパパとママはどこかにいるの?」
「それも分からないわ。どこかで元気でいてくれればいいけどね」
これは本音だった。相当な高齢だけど、まだ生きている可能性も無いわけではない。
「きっとどこかにいて、ママと会えるよ」
敬子の顔が曇った。それはいくらなんでも無理だろう。会ったりしたら両親は大混乱を起こすに違いない。
「思い出さないほうがいいのよ。もし思い出したら、ママはみんなと一緒に暮らせなくなるかもしれない」
「それは絶対いや!」
二人は泣き顔になった。大丈夫。そんなことは絶対に無いから。これからも私はこちらでは「記憶を失った女」として生きていく。
二人にとって祖父母といえばユウさんの両親であり、今まではそれで十分だったのは確か。
これからはそうはいかなくなる。どのように説明しようか。
いずれにしても自分一人だけでは決められない。ユウさんやご両親と相談して辻褄合わせをしておかないと矛盾が生じかねない。
それすらも、本当の「過去」ではない。ここで生活している間はずっと隠し続けていかなければならないこと。
「今日は話せないの。後で必ず教えてあげるから、それまで待っていてね」
「はあい」
特に疑問は持っていない様子。とりあえずその場は何とかなった。
子供たちが寝付いた後、ユウさんに話す。
「きみ、本当に今でも記憶が戻っていないの?」
「ええ、あの時より前のことは何一つ憶えていないわ」
「だったら、そのまま話すしかないんじゃないかな。適当なことを言って誤魔化しても、大きくなるにつれてますます疑うようになるよ」
「やっぱりそうするしかないか」
昭和から来たなんて言えるはずがない。
今、両親はどうしているだろう。生きていれば父は90を超えている。母も80代半ばのはず。
思いにふけっている顔を見て、ユウさんは別のことを想像したらしい。
「大丈夫。君がどこの誰だろうと、僕の妻であり、あの子たちの母親であることに変わりはないのだから」
「ありがとう」
その夜はずっと眠れなかった。
そのまま夜は明けた。
メイとアオイはまだ眠っている。起きて来たユウさんに、これから二人に説明するつもりだと話す。
メイは今日から夏休み。敬子としては弁当を作らなくて済むのが一番助かる。給食のある日もあるが、園の方針で週に二日は弁当持参になっている。
完全週休二日制というのには驚いた。これが当たり前になっているらしい。昭和の時代では学校や幼稚園が週休二日制なんて少なくとも慶子は聞いたことが無かった。
朝食の支度ができた頃にメイとアオイが起きてきた。昭和の家族では歩と泰代は早起きだったが、病弱なためか、保はいつも寝起きが悪くて起こすのに苦労していた。
「おはよう。ごはんにするわよ」
「はあい」
「ちょっと二人ともよく聞いてね」
珍しく真剣な顔をしたのを見て、メイとアオイは口を閉じて敬子の顔を注視する。
「今からいうことはお友達に話したりしないでね。家族だけの秘密。約束よ。守れる?」
動きを揃えて頷く。
「ママにはね、お父さんもお母さんもいないの。死んだとかじゃないのよ。気が付いたら、それまでのこと何一つ憶えていなかったの。本当の名前も分からない。「けいこ」というのは自分で付けた名前」
メイが聞いてくる。
「じゃあ、ママのパパとママはどこかにいるの?」
「それも分からないわ。どこかで元気でいてくれればいいけどね」
これは本音だった。相当な高齢だけど、まだ生きている可能性も無いわけではない。
「きっとどこかにいて、ママと会えるよ」
敬子の顔が曇った。それはいくらなんでも無理だろう。会ったりしたら両親は大混乱を起こすに違いない。
「思い出さないほうがいいのよ。もし思い出したら、ママはみんなと一緒に暮らせなくなるかもしれない」
「それは絶対いや!」
二人は泣き顔になった。大丈夫。そんなことは絶対に無いから。これからも私はこちらでは「記憶を失った女」として生きていく。
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