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オーディション番組

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 昔、と言っても確か25年くらい前のことだと思うが、「有名写真家にヌードを撮ってもらいたい女性」を募集する番組がゴールデンタイムに放送されたことがある。

 応募してきたのは中学生から60代の女性までで、いうまでもなく当時は児童ポルノなどと言う概念は(少なくとも日本においては)存在しなかった。

 番組内容は。応募者たちがいかに自分が真剣に応募したかということをアピールし合うのである。最終的に選ばれたのは、母親に勧められて応募したという16歳の少女で、撮影風景まで放送された。選ばれたとき本当に嬉しそうな顔をしていたから本気だったのだろう。

 当時こういう雰囲気がごく普通に存在したのは宮沢りえの写真集と無関係ではないだろう。発表された当時宮沢りえは18歳であったが既にCMやドラマ、グラビアなどで知らぬ者はいない存在だった。その彼女がヘアヌード写真集を出したということで「ヘアヌードになるのは一流の証だ」みたいな雰囲気が一挙に出てきたことは間違いない。しかも撮影した時期まで遡ればそれ未満だったことは誰の目にも明らかで、それまで「脱ぐ芸能人」というのは無名のアイドルや女優だと思われていたのが完全に払拭されてしまった。当時の女性芸能人には実際に出したかどうかは別にして、(一定の容姿を持っていれば)大半に「いくらだったら脱いでもらえますか?」と声がかかったそうである。その後話題作りのために落ち目の芸能人や無名芸能人、売り込むためにアダルトビデオ女優などがヌード写真集を出すようになり、マイナスイメージが強くなるとともに同一視されることを嫌う有名芸能人は脱がなくなったが、それはかなり後の話。数年後「モー娘。」でデビューした少女の中にすら「引退したらヌード写真集を出したい」と言っていたものがいたくらいなのである。

 「ヘアヌード全盛時代」にはデジタルカメラは登場していたが、画質は悪く値段も高く、とても一般的とは言い難いものであった。なんとかまともな画質で撮影できるぎりぎりの150万画素ていどであっても値段は100万を軽く超えたからとても一般的と言えるものではなかった。当然ながら当時のカメラは銀塩(フィルム)カメラが主流だったが、自分専用のラボを持っている(あるいは契約している)ような特別な人物(ほとんどはプロの写真家)を別にすれば街の写真店や現像代理店(当時は多くの店でやっていた)などに出す必要があった。

 ここで問題が生じる。

 「倫理上問題があると思われる写真は返却しない可能性がある」

 と契約書や店頭に書かれていたからである。「倫理上の問題」とは何を意味するのかはっきりとは書かれていなかったが、多くの人は「ヌード写真」が含まれると解釈していたのではないだろうか。既に書いたように当時は児童ポルノなどと言う概念は存在しなかったから、こども(概ね小学生以下であろう)のヌードであれば問題は起きなかっただろうが、番組で選抜された16歳の少女のヌードであれば「その可能性が高い」と親が思っていたとしてもおかしくはない。

 実際にはそこまで厳しいものではなかったらしい。カメラ雑誌には素人写真家投稿によるヌード写真はごく普通に掲載されていたし、実際に現像、焼き付けに出した人の声を聞いても「特に問題は無かった」というのがほとんどだからである。勝手に「返却されない可能性があるならやめておこうか」と思う人が多かったにすぎない。

 浅田奈美の母親が娘のヌードを残すために写真館に連れて行ったというのも同じような理由からではないだろうか。当時すでにカメラは普及していたから、自分で撮ってラボに出すことができるなら写真館に連れて行くなどという面倒なことはせずに自分で撮影していただろう。

 今はデジタルカメラの時代であるからそのようなことは過去のことになった。一般に公開したりしなければ子供のヌードだろうが規制の対象になることは無い。ましてやわざわざテレビを介して応募するなどと言うことは(今は番組規制が厳しくなっていることを別にしても)、やる人などまずいないだろう。

 当時大量に出回っていた18歳未満の少女のヌード写真集は児童ポルノ規制によって急速に消えたが(一部ではとんでもない値段で出回っているらしい)宮沢りえの写真集は今でもごく普通に古書店に並んでいる。撮影日時が書かれているわけではないので、「18歳未満であることが確認できない」ということなのだろう。それ以外の女性芸能人についても同様である。どう考えても撮影した時は18歳未満であるものは決して珍しくない。



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