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第七話 女学生をもう一度
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入学式から早1か月。最初は遠巻きに様子を窺っていた同級生たちも、カイトと話す私を見て警戒心が解けたのか、はたまた怯えられながらも話しかけるのを諦めなかった私の根気が勝ったのか、今では他のクラスメイトと同じように私に接してくれるようになった。嬉しい。今ではリアン様よりアニーって呼ばれる機会の方が多いんじゃないかな。
それに、学園生活が思いのほか楽しすぎる! 中高女子校育ちの私とっては、制服を着た男子たちが隣にいるというだけで新鮮だ。
女子校も、悪くはなかった。女子だから副リーダー……みたいな遠慮もなく、部活でも勉強でも趣味でも、異性の目を気にすることなくやりたいことを全力で取り組んでいた中高時代があったからこそ、今の私があると思う。でも、大学入学当初、共学女子と女子校出身者との違いには、わりと衝撃を受けた。
女子校だと、大掃除や文化祭、体育祭の準備も当然女子だけで行うため、自分のことは自分で何とかするという精神が自然と身に着くことが多い。だが、大学で出会った共学出身の女子は、重い物を運ぶだったり、やや面倒な手続きだったりを、特に躊躇いもなく近くの男子に頼んでいた。それを目にしたとき、自分のいた女子校という世界の中での秩序は、良くも悪くも不均衡の中での均衡に過ぎなかったのだな……とぼんやり思ったのをよく覚えている。
それに、学園ドラマや少女漫画に出てくるみたいな甘酸っぱい思い出を、シンプルに自分も体験してみたかったなという気持ちもある。その想いが行き過ぎて、先生だったり先輩だったりに疑似恋愛的な感情を抱き、友人たちときゃーきゃー言っていたこともあった。あれはあれで楽しかったけれど、教科書を忘れた隣の男子と机をくっつけて授業を受けたり、バレンタインに体育館裏に呼び出して告白したり、何かそういう、学校ならではの恋のときめきを、ひとつは経験してみたかった。……夢、見すぎ?
そんな私にとってこの学園生活は味わうことのできなかった青春そのもの。ヒロインが入学するまでは、心置きなく共学生活を満喫したい。
そうそう、女の子の友だちもできた——カトリーヌとナディア。このふたりと仲良くなって分かったことは、女子校でも共学校でも、話している内容はそこまで変わらないということだ。
私がこはくだったときの学校生活とほとんど変わらないからこそ、今はリアン様であるということを忘れそうになる。
移動教室からの帰り道、カトリーヌとナディアは「一番の推しは誰か」という話題で盛り上がっている。
「アタシは断然ミカ王子! 王子だからって威張らない、あの柔らかい物腰と常にたたえる微笑! おまけに成績優秀! たまに見せるメガネ姿までかっこいい! 完璧!」
「確かにミカ王子もかっこいいけど、ナディアはハリー様かな~。付き合ってから大事になるのって、勉強ができるかより強いかどうかじゃない? ハリー様ならどんなときも守ってくれると思うわ~」
「はん! 守るって、普通に生きてて何から守るっていうのさ? 王国にはたくさんの護衛がいるから心配いりません! それにハリー様が女子と話してるところ見たことある? 必要最低限しか関わろうとしないじゃない」
「分かってないわね、カトリーヌ。ハリー様は硬派なのよ~! そんな彼が滅多に見せない笑顔を自分に向けてくれたらって想像してみて?」
「……それは嬉しいけど! でも誰に対しても等しく優しいミカ王子から愛おしい目を向けられたらどう? やばくない?」
……こんな会話、不敬罪で捕まらないんだろうか。
「あ~! アニーが、私は関係ないですけど? って顔してる~」
「アニーはまだ恋を知らないベイビーちゃんだもんな」
ナディアが首を振る。
「カトリーヌ? 恋をしたら大人だなんてことはないわ~? 恋はしてもしなくても、どっちだっていいのよ。それにアニーは、ミカ王子でもハリー様でもなくカイトくんだものね?」
「ごめん! アニーがついかわいくてベイビーちゃんなんて言っちゃったよ! ……ていうか、え⁉ アニー、カイトってどういうこと? アタシ聞いてないんだけど⁈」
何の話だ?
「聞いていないも何も、私は何も言っていないわ?」
「うふふ~、見れば分かるじゃない! でもまぁ時期尚早といったところかしら~」
「時期尚早っていうか、私とカイトは何も始まってないと思うんだけれど……」
「何なに? オレの話ー?」
後ろからカイトがやって来る。
「カイトとアニーがいいカン……もご」
ナディアはカトリーヌの口を手で押さえる。
「カトリーヌ~? 時期尚早っていう言葉、お勉強しましょうね~?」
「ふぉふぇんふぁふぁい」
カイトの方を見ると、何やら顔が赤い。
「あら? カイト、熱でもあるのかしら。耳まで真っ赤よ?」
「えっ! あ、いや! さっき走ってきたからかなー? あー、気にしないでー! アハハ」
カトリーヌとナディアは二人で顔を見合わせため息をつき、カイトに対し
「アタシたちは味方だからさ、頑張れよ」
「まだまだこれからよ~」
と言い、憐れむような表情を向けながら、ぐっと腕を胸の前に掲げた。
「ふ、二人とも、何言ってんだー? 何のことだかさっぱりだなー! はー! ……はい!教室とうちゃーく! この話おしまい!」
「なぁ、ナディア、カイトってアニー以上にかわいいやつじゃないか?」
「うふふ、そうね? でもあんまりいじめすぎたらだめよ~?」
「だからもうー! この話はお、し、ま、いっ! ……って、あれ? アニーの机に何か置いてあんぞ?」
カイトの視線をたどると、確かに私の机に――ベージュの封筒があった。
え? 手紙⁇ 誰から⁈
それに、学園生活が思いのほか楽しすぎる! 中高女子校育ちの私とっては、制服を着た男子たちが隣にいるというだけで新鮮だ。
女子校も、悪くはなかった。女子だから副リーダー……みたいな遠慮もなく、部活でも勉強でも趣味でも、異性の目を気にすることなくやりたいことを全力で取り組んでいた中高時代があったからこそ、今の私があると思う。でも、大学入学当初、共学女子と女子校出身者との違いには、わりと衝撃を受けた。
女子校だと、大掃除や文化祭、体育祭の準備も当然女子だけで行うため、自分のことは自分で何とかするという精神が自然と身に着くことが多い。だが、大学で出会った共学出身の女子は、重い物を運ぶだったり、やや面倒な手続きだったりを、特に躊躇いもなく近くの男子に頼んでいた。それを目にしたとき、自分のいた女子校という世界の中での秩序は、良くも悪くも不均衡の中での均衡に過ぎなかったのだな……とぼんやり思ったのをよく覚えている。
それに、学園ドラマや少女漫画に出てくるみたいな甘酸っぱい思い出を、シンプルに自分も体験してみたかったなという気持ちもある。その想いが行き過ぎて、先生だったり先輩だったりに疑似恋愛的な感情を抱き、友人たちときゃーきゃー言っていたこともあった。あれはあれで楽しかったけれど、教科書を忘れた隣の男子と机をくっつけて授業を受けたり、バレンタインに体育館裏に呼び出して告白したり、何かそういう、学校ならではの恋のときめきを、ひとつは経験してみたかった。……夢、見すぎ?
そんな私にとってこの学園生活は味わうことのできなかった青春そのもの。ヒロインが入学するまでは、心置きなく共学生活を満喫したい。
そうそう、女の子の友だちもできた——カトリーヌとナディア。このふたりと仲良くなって分かったことは、女子校でも共学校でも、話している内容はそこまで変わらないということだ。
私がこはくだったときの学校生活とほとんど変わらないからこそ、今はリアン様であるということを忘れそうになる。
移動教室からの帰り道、カトリーヌとナディアは「一番の推しは誰か」という話題で盛り上がっている。
「アタシは断然ミカ王子! 王子だからって威張らない、あの柔らかい物腰と常にたたえる微笑! おまけに成績優秀! たまに見せるメガネ姿までかっこいい! 完璧!」
「確かにミカ王子もかっこいいけど、ナディアはハリー様かな~。付き合ってから大事になるのって、勉強ができるかより強いかどうかじゃない? ハリー様ならどんなときも守ってくれると思うわ~」
「はん! 守るって、普通に生きてて何から守るっていうのさ? 王国にはたくさんの護衛がいるから心配いりません! それにハリー様が女子と話してるところ見たことある? 必要最低限しか関わろうとしないじゃない」
「分かってないわね、カトリーヌ。ハリー様は硬派なのよ~! そんな彼が滅多に見せない笑顔を自分に向けてくれたらって想像してみて?」
「……それは嬉しいけど! でも誰に対しても等しく優しいミカ王子から愛おしい目を向けられたらどう? やばくない?」
……こんな会話、不敬罪で捕まらないんだろうか。
「あ~! アニーが、私は関係ないですけど? って顔してる~」
「アニーはまだ恋を知らないベイビーちゃんだもんな」
ナディアが首を振る。
「カトリーヌ? 恋をしたら大人だなんてことはないわ~? 恋はしてもしなくても、どっちだっていいのよ。それにアニーは、ミカ王子でもハリー様でもなくカイトくんだものね?」
「ごめん! アニーがついかわいくてベイビーちゃんなんて言っちゃったよ! ……ていうか、え⁉ アニー、カイトってどういうこと? アタシ聞いてないんだけど⁈」
何の話だ?
「聞いていないも何も、私は何も言っていないわ?」
「うふふ~、見れば分かるじゃない! でもまぁ時期尚早といったところかしら~」
「時期尚早っていうか、私とカイトは何も始まってないと思うんだけれど……」
「何なに? オレの話ー?」
後ろからカイトがやって来る。
「カイトとアニーがいいカン……もご」
ナディアはカトリーヌの口を手で押さえる。
「カトリーヌ~? 時期尚早っていう言葉、お勉強しましょうね~?」
「ふぉふぇんふぁふぁい」
カイトの方を見ると、何やら顔が赤い。
「あら? カイト、熱でもあるのかしら。耳まで真っ赤よ?」
「えっ! あ、いや! さっき走ってきたからかなー? あー、気にしないでー! アハハ」
カトリーヌとナディアは二人で顔を見合わせため息をつき、カイトに対し
「アタシたちは味方だからさ、頑張れよ」
「まだまだこれからよ~」
と言い、憐れむような表情を向けながら、ぐっと腕を胸の前に掲げた。
「ふ、二人とも、何言ってんだー? 何のことだかさっぱりだなー! はー! ……はい!教室とうちゃーく! この話おしまい!」
「なぁ、ナディア、カイトってアニー以上にかわいいやつじゃないか?」
「うふふ、そうね? でもあんまりいじめすぎたらだめよ~?」
「だからもうー! この話はお、し、ま、いっ! ……って、あれ? アニーの机に何か置いてあんぞ?」
カイトの視線をたどると、確かに私の机に――ベージュの封筒があった。
え? 手紙⁇ 誰から⁈
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