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 第二十二話 ストライダーは、仲間たちと色々と話し合う。

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 廃村は東から西へと突き抜けるように一本道があり、その中心には共用の井戸があった。周辺の敷地と言えば、共用の井戸を村の中心にして四方へと拡大される構造をしている。
 一本道の南北に大小の家屋、物置、家畜小屋と立ち並び、その外側に家畜用の柵、外部と村の内部とを隔てる低い塀、農作物を育てる畑という構成である。
 ストライダーは東側の入口に幼女たちを留め置き、自分は一人、村の中へと入っていった。その先の井戸端に一人座っていたTURUGIを、IKUMIは早速発見した。

 「そこに居たか、TURUGI」

 (YASAIの姿がないな…ん?)

 「よう、来たなIKUMI!」 

 旧友と半日振りに再開したIKUMIであるが、何かが変だ。そうだ、YASAIの姿が見当たらない。IKUMIはすぐさまそのことに気付き、TURUGIの近付き質問することにした。
 だが、その必要はないことにすぐに気付いた。
 何かが井戸の底へと入っていった形跡があることを発見したからである。

 (ああ、そういう事か)

 「YASAIは井戸の中か?」

 「そうだ。今内部を掃除させている。まあ、流れがあるから地下水は大丈夫だと思うが、万が一ということもある。内部に何かの死体でも放り込まれていたら事だからな」

 「確かにな。万が一の場合、YASAIなら上手く始末してくれるはずだ」

 「おお。それでお前の幼女ハーレムの子たちは全員無事なのか?」

 「人聞きの悪い言い方はやめてくれ。もちろん全員無事だ。お前みたいに連れ出した幼女を気絶させる真似もせんぞ!」

 「いや、そうか。これは藪蛇だったな」

 「とくにKAGAMIや他に女性が居る場合、その話はしてくれるな。ロリコンだとは勘違いされたくない」

 「いや、すまんすまん。今後は気をつけるよ」

 「解れば良い。それとそれとして周辺の畑は御苦労だった。あれなら当面は植物育成の精霊術を遺憾なく発揮できる」

 ストライダーはTURUGIの冗談をそれ以上追求せず、とりあえず廃村周辺の畑のことを話題に出した。ロリコン趣味のないストイックなIKUMIには、TURUGIの言う幼女ハーレムになまったく興味がないのだ。

 そんなことよりも、これから始まる幼女たちとの暮らし振りを、どのようにして上手く生活を回していくかにこそ、IKUMIの興味の大半が向いていた。

 「まあ、最初に面倒を押し付けたのは俺だからな。畑を耕す基本的なことはやって置いたぜ。後はお前の得意な水、地、木の精霊術で、水路整備や農業の手法を整えてくれ」

 (まあ、お前にその気がなくたって、幼女たちはお前を放って置きはしまいよ)

 内心はともかく、IKUMIの話に付き合うTURUGIである。  

 「了解した。お前やKAGAMI、TAMAKIとの話し合いが終わった後でやっておく」

 「ああ。それが良いだろう」
 
 ある意味、TURUGIは幼女たちがIKUMIに性的に迫っていくことを確信していた。そのためTURUGIはそのことに対して必要以上に突っ込む真似はしなかった。

 結果は後のお楽しみなのである。

 TURUGIとしては、その時になってIKUMIをいじり倒せれば良いのだから。

 そのため、IKUMIと幼女たちとの話はこれで断ち切れとなり、二人の話題は当然のごとく、現在、北方諸国連合に住む仲間たちとの通信へ移っていった。

 「昨晩も伝えた通りだ。一旦、TAMAKIとKAGAMIに連絡を入れる」

 「そうだったな。安心しろ。俺も伝話符は持って来ている」

 「では俺がTAMAKIに」

 「解った、俺がKAGAMIにする」

 そのように言葉にして確認し合い、スマホやら携帯電話のように伝話符を取り出す二人。IKUMIが忘れられた鉱山にいるTAMAKIに。
 TURUGIが昨晩、売国組織から新たに捕らわれていた幼女たちを救ったKAGAMIへと、コンタクトを取るのだった。

 「TAMAKIか? こちらは予定通りに廃村に到着した」

 通信状態になったと色の変化で知らせる伝話符へ、そう語り掛けるIKUMI。

 一方、TURUGIはそれぞれの話の邪魔にならない様に、ある程度の距離を取って、伝話符を使用した。

 [やあやあ。無事に到着して何よりだ。それでIKUMI、早速だが大型ドローンをそこの座標に飛ばしても問題ないか?]

 そこに、TAMAKIからIKUMIへと返信の声が聴こえて来た。 

 「問題ない。衣類に使う反物や、裁縫用に使うベーシックな台紙、型紙、足踏み式ミシンなどは用意済みか?」

 [紡績加工製品は、一部を除き軌道に乗っている。綿、麻、絹、毛織り物、すべて送り出す用意は完了している。それに食料を生み出す家畜用有精卵、各種野菜、果物の種も用意済みだ。こちらで送れない品は、外に出せない人員くらいだよ]

 「それは重畳。こちらの幼女たちは最終的な加工や家畜の飼育だけすれば良いのだな?」

 [一応、カラー写真のカタログを作ってある。数冊それを入れて置く。それに裁縫セット。それらを使って、幼女たちには裁縫を覚えさせれば良い。農作業の手伝い、鳥の世話などは、教えなくとも元々できるだろう?]

 「解った。それで代金代わりは、こちらで作った野菜、果物類で良いんだな?」

 [そうだ。北方は元々、作物の収穫が少ない。季節外れの野菜や果物は高く販売できる。こちらの職員たちに与えれば、やる気の維持にも繋がる。精霊術でそれらの収穫を可能とする君だ。そんな君との取引は悪くないことだ]

 「では頼む。それでドローンはどの程度の時間で到着する?」

 [そこそこ距離がある。町や村、砦、山脈上空を避けた安全なルートを飛ばして、二日といったところだな]

 「それも了解した。それと、各種武器の輸送はどのくらいになる?」

 [現在、我が忘れられた鉱山製造の武器は、北方諸国全体へと流している。人員が足りずに生産が追い付かない状況だ。そちらに回すのは相当後になるだろう]

 「そうか。ではこちらで何とかした方が無難か」

 [そうだな。そちらで用意する方が無難だ。無いものを寄越せとこちらを当てにされても困る。それが無難だろう。ではこれで通信を切るぞ。ドローンを出発させる作業に移る]

 「了解した。世話を掛ける。ではまた」

 「ではまた」

 そのようにして、ストライダーIKUMIと、忘れられた鉱山を拠点とする選ばれし者、TAMAKIとの会話は終了した。次に会話するのは、おそらくは大型ドローンがこちらへと到着した後だろう。
 そして、伝話符の使用状態をOFFにするストライダーであった。

 「おい、IKUMI」

 「何だTURUGI?」

 TAMAKIとの会話終了を待って、TURUGIがそう話掛けてきた。なぜかKAGAMIとの通信に使っていた伝話符を渡す仕草をしてくる。
 なお、伝話符は通信中を示していた。

 「どうやら昨晩、KAGAMIたちが助けた娘たちのことでお前に相談があるんだとさ」

 「KAGAMIが?」

 「ああ」

 (………もしかして、その娘たちを俺に引き取れってことか?)

 「解った。渡せ」

 「おう」

 「…もしもし、KAGAMIか?」 
 
 何事だとTURUGIからの報告を訝しんだストライダーであったが、要件の内容を聞き、その話の内容を大体察し理解してしまう。
 なぜなら扱いに困る幼女たちの身柄を預かるのは、IKUMIは始めてではないからだ。

 TURUGIがそのことを察して、ちょっとばつの悪い笑顔を浮かべた。
 

 ◇ ◇ ◇


 「遅いね、ストライダーさま。ねえリューコちゃん、ちょっと一緒に様子を見てこようか?」

 「…うーん、そうだね。待っていろって言われたけど、こんなに遅いんじゃ…行ってみる?」

 「よし来た。行こうよ!」

 「あっ、待ってください、リューコさん、ノアさん、ストライダーさまが返ってきました…それと、知らない人と、緑の怪物がいます」

 「あれは…収容所で会ったTURUGIさんですの。それといつも連れている、食虫植物の怪物ですの」

 「そ…う」

 ストライダーにここで待てと言い付けられた後、それなりの時間が経過していた。そのため、うずうずと落ち着かなくなり、様子を見に行こうと主張し出したリューコとノア。
 そんな、様子見に出ようとする元気娘二人を、モモ、マリティア、アマナが寸前で止めたのだった。

 「ちぇっ、村を先に見て回れるって思ったのに」

 「ちょっとノアは落ち着きがないですの。IKUMIさんも返ってきたのだから、それは後にしてくださいの」

 軽い調子のノアに、少しだけ文句を言うマリティアであった。奴隷に落とされる前の身分的に、ノアの主家筋に当たるマリティアである。
 また、奴隷身分から開放された現在は、彼女はそのカリスマ性の高さによって、幼女たちのリーダー的立場になっていた。
 その二つの理由から、マリティアは一行に逸脱行為があった場合、それを嗜める役目へと自然になっていた。

 そのために仕方なく、ちょっとその場のルールから逸脱しようとしたリューコやノアに、御小言を言ったのである。
 リーダー役も、それなりに大変なのだ。

 「あはは、怒られちゃった!」

 「まあまあマリティア、私も謝るから許してあげて」

 「リューコも、そう甘やかすものではありませんの…でも、解ってくれるなら、それで良いですわ」

 「ごめんね。謝るよマリティア。次からはストライダーさまの言いつけ通りにするよ」

 「ええ。その謝罪を受け入れますの。もう、黙ってIKUMIさんたちを待ちましょう」

 「うん」

 「はーい」

 そんな状況の幼女たちの許に、TURUGIとYASAIを伴ったストライダーIKUMIが返ってきた。

 「みんな待たせたな。ここに一緒に居るTURUGIとYASAIが、村周辺の畑を、俺たちのために耕してくれた。お礼を言ってやれ」

 「では、わたくしが代表しますの。TURUGIさん、YASAIさん、ありがとうございました。それとTURUGIさん、一昨日は事情を知らずに、私たち三人は失礼な真似をしてしまいました。その件に関しても、改めてお詫び致しますの」

 「ありがとうございます」×11

 「あ…あり…あり…が…とう…」

 代表役のマリティアに続き、他の幼女たちも一斉に御礼を言った。言語障害のあるアマナもである。

 「イイってことよ。それよりお前たちはこれからが正念場だ。新しい仲間もやってくるから、みんなで支え合って生きるんだぞ!」

 そう言い残してTURUGIとYASAIは、幼女たちの横を通ってトーリンの収容所へと帰っていった。空に漂う雲の様な、何とも自由な男振りであった。
 あの程度離れると、YASAIがフリフリと蔦の触手を腕のように振ってきた。まるで別れを惜しみ、幼女たちに手を振っているようであった。

 「新しい仲間…ですの?」

 マリティア含め、数人の幼女が顏をキョトンとさせてTURUGIとYASAIを見送った。その答えを求め、ストライダーへと向き直り、その答えを求めるのだった。

 「…後で話す。たぶん二週間後のことだ。それより、今は荷物を建物の中に運び込む作業だ。まず俺が入って安全を確かめる。みんな後に付いてこい。リューコ、ノア、お前たちは元気そうだから、まずはお前たちが得物を持って、俺の後ろに付け」

 そう言って、村の家屋に向かってサッと踵を返すストライダーだった。

 「了解! リューコちゃん行こう!」

 「うん!」 

 その後に、牛車にあった薙刀と槍を持った、リューコ、ノアが続いた。さあ、これから住むことになる村の家屋の点検作業だ。頑張るぞと。
  
 
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