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第七章 汚れつちまつた包帯に、いたいたしくも怖気づき…
第七章―03
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いや、このピアスのことも!?
あまつ、昨日、この男根を直に握りしめたことまでっ!
――二人はそんなに仲が良いのか?
小春井巻は、ああいう風であっても、まだ、十七歳。あの恐ろしい言動の中にも意外に乙女チックで幼い思考も見え隠れしているような気もする。であれば、その年頃の乙女にありがちな、自分の秘密を親友にコッソリ打ち明けて親友と二人、トキメキに胸を熱くしハシャギ合う…なんて、おキャンな行動を取ったとしても不思議じゃないだろ!?
「凸凹坂くん」
そして涼包の声が背中を撫でつける。
「どうしたの?」
「別に……」
彼の動揺をよそに「それでね」と言って話しつづける涼包。
「その時、転びそうになった小春井巻さんを支えようとして、凸凹坂くんが代わりに転んだんだって?」
「えっ……そ、そうなの?」
「もう、しっかりしてよね、凸凹坂くんっ。覚えてないの?」
「うん、その時のことは良く覚えてないの――って答えたら、また『凸凹坂くんなんだからっ』って言われるのかな?」
彼はあえてそんな長たらしい台詞を選んでは、小春井巻の偽証に、込みあげる安堵の吐息と感謝の念をなんとか嚥下していた。
「もおっ」
タンっと靴底を鳴らす涼包。
「とにかく、とにかくだよ。小春井巻さん、感謝してたよ。履き慣れないサンダルに脚が縺れちゃったところをサッと支えてくれて、おかげで小春井巻さんは無事でいられた…って」
「あっ、そうだった、そうだった」
――ここは小春井巻の偽証に感謝しつつ、それに付合うしかないだろう。
「凸凹坂くんに怪我させたのはわたしの責任だから――って、小春井巻さん、そう言って」
――そうだろ、そうだろ。全くその通りだ。だいたい、アイツがピアスを打ち込んだ張本人なんだから。
「それで昨日、返却整理を手伝ってくれたの」
「へえ……意外だな」
「なにが?」
「いや。アイツがそんなに律儀なヤツだって、思ってなかったからさ」
「アイツ?」
と涼包が、彼の小春井巻に対する呼び方について指摘してみせたのは、これは、涼包が例によって『品性養成ギブス』の機能を発揮してばかりのこと、とも言い切れないものがあった……。しかし、それも、気のせいだろうと自分を諫めながら、
「いやっ、あの、小春井巻さん…が」
と、素直に言い改める彼だった。
「小春井巻さん、あんな感じだけど、気立ては良い…っていうか、根は優しい人だから。わたしから見れば、小春井巻さんらしい行動に思えるけど」
「そうなんだ」
――いや、きっとあの小春井巻陛下のことだ。『蒼頭《そうとう》の尻を拭うのも主君の勤め』みたいな感覚なんだろう。
「でも、涼包。お前も、小春井巻が『あんな感じ』ってことは認めてるわけだな」
「あっ、別にわたし、小春井巻さんを中傷してるわけじゃないんだよ」
「いや、わかってるよ。それは」
――そう。お前のOSにそんなプログラムが存在してないことぐらい。
振り向くと涼包はけっこう落ち込んだ顔を俯かせていた。
涼包 銫という女子は、人が傷つくことを嫌う。それが自分によりなされたことだと気づいたときは…とは言ってもそれは有り得ることではないのだけれど、その全てが他人の嫉妬や誤解に基づく中傷なのだけれど、それでも彼女は自分が人を傷付けてしまったと思ってしまい、すると、彼女の心は慙悔に蝕まれてしまうのだ。
涼包は人が傷つくぐらいなら、間違いなく自分が傷つく方を選ぶ人間だ。
しかし、そんな機微を人に見せないのもまた涼包で、それが彼にだけ、こうやって切なげに俯いて見せているのは、これも、やはり、あの春の嵐が残していった爪痕の一つなのかも知れない……。
「わかってるよ涼包」
そう言って涼包の両肩に手を置いた。本当は抱き締めたかった。それは猥褻な意味でなく、子供を抱《いだ》くように……そう、抱擁してやりたかった。が、それをしてしまえば、また、あの春の出来事が再現されるようで……、彼はその背徳心から距離を置くように、あえて涼包の肩に手を置いてその距離を保ったのだった。
「ごめん、涼包。俺の言い方が悪かったんだ。お前は誰も傷つけちゃいないよ。それに、小春井巻が『あんな感じ』だって言ったけど、俺、あれって結構気に入ってるんだ。なんか、こう、癖になるって言うかさ…」
て、なに、俺。これってアイツの毒に犯されちまってるって事じゃないかっ?
「と、とにかくさ、涼包。少なくとも俺は、悪い意味で言ってる訳じゃないんだ」
と彼が複雑な心境で慰めた甲斐あってか、涼包はいつものように『魅惑の頬笑み』を見せてくれたのだけれど、
「そう……悪い意味じゃ、ないんだよね…」
と言った涼包の瞳が妙に涼しく映って見えたのは、彼の気のせいだったのだろうか。そう…それはその言葉に頷くのを、彼が少しためらってしまうぐらいに…。
そんな彼を見て、すぐさま笑顔を見せて安心させたのも、まさに涼包だろう。そして話しつづける。
「小春井巻さん、家のことで色々大変だったらしいから……」
「涼包、お前、なにか知ってんのか?」
あまつ、昨日、この男根を直に握りしめたことまでっ!
――二人はそんなに仲が良いのか?
小春井巻は、ああいう風であっても、まだ、十七歳。あの恐ろしい言動の中にも意外に乙女チックで幼い思考も見え隠れしているような気もする。であれば、その年頃の乙女にありがちな、自分の秘密を親友にコッソリ打ち明けて親友と二人、トキメキに胸を熱くしハシャギ合う…なんて、おキャンな行動を取ったとしても不思議じゃないだろ!?
「凸凹坂くん」
そして涼包の声が背中を撫でつける。
「どうしたの?」
「別に……」
彼の動揺をよそに「それでね」と言って話しつづける涼包。
「その時、転びそうになった小春井巻さんを支えようとして、凸凹坂くんが代わりに転んだんだって?」
「えっ……そ、そうなの?」
「もう、しっかりしてよね、凸凹坂くんっ。覚えてないの?」
「うん、その時のことは良く覚えてないの――って答えたら、また『凸凹坂くんなんだからっ』って言われるのかな?」
彼はあえてそんな長たらしい台詞を選んでは、小春井巻の偽証に、込みあげる安堵の吐息と感謝の念をなんとか嚥下していた。
「もおっ」
タンっと靴底を鳴らす涼包。
「とにかく、とにかくだよ。小春井巻さん、感謝してたよ。履き慣れないサンダルに脚が縺れちゃったところをサッと支えてくれて、おかげで小春井巻さんは無事でいられた…って」
「あっ、そうだった、そうだった」
――ここは小春井巻の偽証に感謝しつつ、それに付合うしかないだろう。
「凸凹坂くんに怪我させたのはわたしの責任だから――って、小春井巻さん、そう言って」
――そうだろ、そうだろ。全くその通りだ。だいたい、アイツがピアスを打ち込んだ張本人なんだから。
「それで昨日、返却整理を手伝ってくれたの」
「へえ……意外だな」
「なにが?」
「いや。アイツがそんなに律儀なヤツだって、思ってなかったからさ」
「アイツ?」
と涼包が、彼の小春井巻に対する呼び方について指摘してみせたのは、これは、涼包が例によって『品性養成ギブス』の機能を発揮してばかりのこと、とも言い切れないものがあった……。しかし、それも、気のせいだろうと自分を諫めながら、
「いやっ、あの、小春井巻さん…が」
と、素直に言い改める彼だった。
「小春井巻さん、あんな感じだけど、気立ては良い…っていうか、根は優しい人だから。わたしから見れば、小春井巻さんらしい行動に思えるけど」
「そうなんだ」
――いや、きっとあの小春井巻陛下のことだ。『蒼頭《そうとう》の尻を拭うのも主君の勤め』みたいな感覚なんだろう。
「でも、涼包。お前も、小春井巻が『あんな感じ』ってことは認めてるわけだな」
「あっ、別にわたし、小春井巻さんを中傷してるわけじゃないんだよ」
「いや、わかってるよ。それは」
――そう。お前のOSにそんなプログラムが存在してないことぐらい。
振り向くと涼包はけっこう落ち込んだ顔を俯かせていた。
涼包 銫という女子は、人が傷つくことを嫌う。それが自分によりなされたことだと気づいたときは…とは言ってもそれは有り得ることではないのだけれど、その全てが他人の嫉妬や誤解に基づく中傷なのだけれど、それでも彼女は自分が人を傷付けてしまったと思ってしまい、すると、彼女の心は慙悔に蝕まれてしまうのだ。
涼包は人が傷つくぐらいなら、間違いなく自分が傷つく方を選ぶ人間だ。
しかし、そんな機微を人に見せないのもまた涼包で、それが彼にだけ、こうやって切なげに俯いて見せているのは、これも、やはり、あの春の嵐が残していった爪痕の一つなのかも知れない……。
「わかってるよ涼包」
そう言って涼包の両肩に手を置いた。本当は抱き締めたかった。それは猥褻な意味でなく、子供を抱《いだ》くように……そう、抱擁してやりたかった。が、それをしてしまえば、また、あの春の出来事が再現されるようで……、彼はその背徳心から距離を置くように、あえて涼包の肩に手を置いてその距離を保ったのだった。
「ごめん、涼包。俺の言い方が悪かったんだ。お前は誰も傷つけちゃいないよ。それに、小春井巻が『あんな感じ』だって言ったけど、俺、あれって結構気に入ってるんだ。なんか、こう、癖になるって言うかさ…」
て、なに、俺。これってアイツの毒に犯されちまってるって事じゃないかっ?
「と、とにかくさ、涼包。少なくとも俺は、悪い意味で言ってる訳じゃないんだ」
と彼が複雑な心境で慰めた甲斐あってか、涼包はいつものように『魅惑の頬笑み』を見せてくれたのだけれど、
「そう……悪い意味じゃ、ないんだよね…」
と言った涼包の瞳が妙に涼しく映って見えたのは、彼の気のせいだったのだろうか。そう…それはその言葉に頷くのを、彼が少しためらってしまうぐらいに…。
そんな彼を見て、すぐさま笑顔を見せて安心させたのも、まさに涼包だろう。そして話しつづける。
「小春井巻さん、家のことで色々大変だったらしいから……」
「涼包、お前、なにか知ってんのか?」
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