轟町ヒルサイト ―― On Her Majesty 's Private Service ――

甘野正雪

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第七章 汚れつちまつた包帯に、いたいたしくも怖気づき…

第七章―05

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 ▼そして、その日の夜のこと。
 それは二日前。
 5月1日の夜。
 例によってメールで呼び出され、例によってトイレの窓から小春井巻のアパートの浴槽に降り立った彼だった。
「女王陛下、お召しにより、参上いたしました」
 と、これは中々上手いこと言えたじゃないか……なんて思ってみてすぐに、下僕が板についてきた自分を苦々しく噛み締めていると……。
 昨日見せた、あのか弱き乙女の姿など嘘のように、
「あらあら、これはこれは、なかなか豚が似合ってきたわね」
 と、下僕の心地よい挨拶に歓然と悪罵を叩きながら、バスルームの入口に姿をあらわされた女王陛下であったのだけれど……。
 しかしっ!
「お、お前っ! なんだよ、その格好っ!」
「あら、凸凹坂くんは、これを知らないとでもいうのかしら? 濃紺のポリエステル100%、競泳水着に似せて作られたレーサーバック型のスクール水着よ」
 と、クルっと回って背面を見せると肩越しに彼を見つめ、背中の辺り、X状に交差している濃紺の生地が肩胛骨の突起に歪んでいるその様を下方から指差してみせる小春井巻だった。
 そう――小春井巻は濃紺のスクール水着に白いゴム製のスウィムキャップ、さらには競泳用のゴーグルと……、それは、まさに今から飛び込みますっ…、て感じの格好だった。
 ……ゴクリっ。
 と、溜らず、彼が生唾を飲み込んでしまったのは、そのスクール水着の喰い込みようが半端じゃなかったからで。特に脂肪がついてるわけじゃない小春井巻の肉体《からだ》だったけれど、脇の下側なんか、若さに任せて張りつめた白い肌に濃紺の生地が喰い込んでいたりして、または、その濃紺の生地はピタリと小春井巻の体に貼りついていたりして、はたまた、それは、まるで濃紺の皮膚のようにこの女の筋肉や脇腹の、肋骨がゴツゴツしている具合などを見事に再現して見せたりもして……、特に、特にっ…だ! 痩せている…って言ったって、この女、尻には膨《ふく》よかな肉をつけていて、それは豊饒の実りを讃えた茄子《なすび》を二つ並べたような、左右に笑窪ができてるような、そんな尻頬《しりたぼ》をしているものだから、たぶん歩くに耐えられなかったに違いない、スクール水着の尻の生地は、上側は尻肉をズリ上がり、中ほどは左右の尻肉の谷間に押し込められ、下側はキュっ…と絞られて二つの尻頬の狭間に劇的に喰い込んでいて……まさに、それは臀部を丸々さらけ出しているに他ならず、『隠す』という意味においてその濃紺の生地が役目を果たしている事があるとすれば、それは『肛門をなんとか晒さずに済んでいる』といったことぐらいだった。
「お前っ、それ、サイズ、合ってないだろっ!」
「そうね。確かに、高1の時のものだから、ちょっと窮屈なのは否めないわね」
 そう言いながら振り返ろうとして小春井巻が右脚に体重を掛けると、右の尻頬がブギュっと艶めかしく脹れあがる……と、見る間に振り向いた小春井巻の正面像を見て、
 ゴクリッ!
 と、そりゃあもう、あからさまに鳴ってしまう彼の喉だった。
  スラッとした小春井巻の体にしては、けっこう大きなその胸の球体は、そうとう弾力性に富んでいるんだろう、濃紺の生地に押しこまれてもなおポックリと球形を膨らませていて、半切りにしたグレープフルーツを伏せ置いたような綺麗な峰線を、これでもかっ、いや、これでどうよッ、てな感じで誇示している。そしてそのグレープフルーツの頂上辺り、それは小春井巻の乳輪を表わすように一段、プックリとした盛上がりができていて、そのさらに頂には『天下を取った』と言わんばかりに小さな小豆のような突起が、まるで小春井巻の性格を表現するかのようにツンっと上を向いて突出している。
「ノーブラ……だよな?」
「凸凹坂くん。あなた、最近、オナニーできないものだから、いよいよ精子が脳に回ったとみえるわね」
「俺の脳は精嚢なのかよっ!」
「あらっ。それはそれで凄いことよ。だとしたら、あなたを見直せる気がするわ」
「そんなことで見直さんでいい!」
 ていうか、『気がする』だけかよ!
「とにかく凸凹坂くん。水着を着るのに、どこのお馬鹿がブラジャーなんて着けるというの。わたしは、ゲスな女優やアイドルのようにそんな卑劣な真似などしないわ。ましてや、ヌーブラで底上げしてみせるなど、今時、シークレットブーツを履いてるぐらい、恥ずかしいことだと思っているわ」
「有り難うっ、陛下! そのお言葉、胸に染みいります!」
「いいえ、礼には及ばなくてよ。それよりも、凸凹坂くん。当然、ショーツも穿いていないのだけれど…、あら、あなたにはわかりずらかったかしら。では、言い直しましょう。当然、パンティーも穿いていないのだけれど、それをよく見て確かめる必要はなくって?」
「あっ、そうでございました」
 と、なぜか素直に下僕口調がすらりと出てくる彼だった。
 そして、遠慮なく、まじまじと見つめる。
「でも、お前…ホントにスタイル良いよな…」
 肩幅は広い方だろう。それとは逆に腰は括れていて、濃紺の生地が貼りついた腹部には、筋が縦に一本通っている。その下に臍と思しき窪みがあるのだけれど、その少し上が銀玉のように小丸く膨らんでいるのは、きっとそれが臍ピアスなんだろう。そして骨盤が張っていて、そのやや下くらいに水着が喰い込んでいる……つまり、本来鈍角をなしているスクール水着の股布は、彼女のこれに限っては、激しく『V』字を描いて股を切りつけているのだった。それは彼女の肉体が刻んでいる鼠蹊部の『V』字の線が露わとなっているほどに。そして、あの、公園で見たときと同様に、いや、それ以上に、小春井巻の恥骨がボッコリとその流線型を突きだしているのがわかる。さらに、
 ――え? これって……。
 濃紺の生地はピタリと肌にくっ付いていて、まるで濃紺の皮膚のようだ……とはさっき思ったことなのだけれど、恥骨がポックリと突きでている、その頂あたりが……なんかモワモワとした感じに薄い膨らみを持っているように見受けられる。
 そこを指差して言ってみた。
「陛下、これって毛」
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