【完結】魔法道具の預かり銀行

六畳のえる

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第4章 魔女であること

2話 秘密のこと、バレること

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「はあ? そんな理ゆ——」
「ええええっ! 恋してるってことですか!」

 チャンプスが「そんな理由かよ」と言い切る前にさえぎった。だって、そんな素敵な理由なんて思ってなかったもん!

「そうなの。それで、バレたくなくてね。持ち物を小さくする魔法とかもあるんだけど、私はまだ使えなくて。それに、魔導書とかは普通の本と一緒に並べておけばごまかせるけど、魔女の箒って掃除に使うものとはデザインが違うから、置いておくだけでバレそうでしょ? だから預かってもらったのよ」
「そうなんですね。え、え、相手はどんな人なんですか?」

 恋バナなんて最近全然してなかったから、ついテンションが上がっちゃう。ショアンさんは少し照れて頬を赤くしながら答えてくれた。

「イラックって名前で科学者なの。頼まれて、学校で理科も教えてるけどね。『世界の色々なことを科学で解明したい!』っていうのが口癖で、だから科学と対極にある魔法とか魔女みたいなものは好きじゃないんだろうなって……」
「そっか……ねえ、ショアンさん、イラックさんってどんな人なんですか?」
「え? んっと、髪は真っ黒で、身長が結構高いの。年は二つ上なんだけど、見た目は幼くなくて、むしろキリッとしてて……」

 見た目も性格もたくさん話してくれたけど、細かいことはあんまり頭に入ってこなかった。イラックさんのことを語るショアンさんの表情が、とてもキラキラしていたから。

「……っていうわけで、ずっと預かってもらってたの」

 そして聞き終わると同時に、私はすぐにガタッとテーブルを立って口を開いた。

「チャンプス、これは仕方ないよ! もうしばらくカンテラで預かってさ、ショアンさんのこと応援してあげよ! ね、アッキもそう思うでしょ!」
「んあ……まあな」

 チャンプスと「だけど……」歯切れの悪い返事に腹が立ったけど、ショアンさんもどこか理解を示してるように笑みを浮かべていた。


 その後、「いったん帰りますね!」と挨拶をして外に出る。ショアンさんは「帰り、気をつけてね」と空を飛びはじめるまで見送ってくれた。

「聞いたでしょ、チャンプス。科学者だから、非科学的なことは嫌いなんだよきっと! 道具預かるくらいは協力してあげようよ。お金はちゃんと払ってもらってるんでしょ?」
「利息は問題ねーけどよ……」

 チャンプスはさっきと同じように言葉をにごして、アッキに目線を送る。私の後ろで箒にまたがってるアッキは「そうだなあ」と呟いた。

「リンコ、協力するのはいいけどさ、いつまで預かるの?」
「え? いつまでって……」
「魔女が嫌だって言うなら、ショアンさんはずっと隠し続けないといけないだろ。箒もずっと預けっぱなしになるから、これからもずっと利息だけ払ってくことになるんじゃない?」
「あ……」

 確かに、アッキの言う通りだ。ショアンさんとイラックさんのことばっかり気にしてて、全然気が付かなかった。

「オレもそれを気にしてたんだよな。アイツ、どっかで自分が魔女って打ち明けないといつまでたっても箒を持てない。でも、一年以上相手に話せてないってことだろ。だから心配してんだ」

 尻尾をたらすチャンプス。そっか、だからショアンさんも、私の言葉に対して寂しそうな顔してたんだ。今のままうまくいくか、分からなかったから。

「でも、でも大丈夫だよ。ショアンさんなら、きっとうまく伝えられるって!」
「だといいなあって俺も思うよ」

 アッキの相槌もどこか力ないけど、私はもう一度「絶対に大丈夫だって!」と叫ぶ。まるで、自信がないのを声の大きさでカバーするみたいに。

 そして、私の「絶対に」はちっとも信頼できないってことは、一週間後に分かってしまった。


 ***


「おい、リコ、そっちにいねーか!」
「こっちにはいない! チャンプス、魔法で見つからないの?」
「ジュラーネのくれたマッチの煙で探してるんだけど、キリが深くて分かりづれーな」

 夜の森、木々がワサワサと会話するように揺れる中を、必死で彼女を探していく。

 ショアンさんから「彼に魔女であることがバレてしまった」という手紙がカンテラに届いた。利息が入ってるわけでもなく、箒を返してほしいという文がそえられてるわけでもない。ただ、報告の一文だけ。

 読んだ私は不安になった。悲しいってことだけを伝える文章は、読んでて怖い。ジュラーネさんの「落ち込みすぎてないといいけどね」の一言で、私は「探しに行こう!」と提案して、夜にショアンさんの家を訪れた。

 でも、ノックをしても彼女は全然出てこない。気落ちしたまま近くの森にいるんじゃないかと思って、慌ててアッキとチャンプスと探しに来て、そろそろ二十分になる。


 夜の森は暗くて怖い。ジュラーネさんがくれた、爪がライトみたいに光る塗料がなかったら、完全な暗闇だった。人の気配を煙で教えてくれるマッチもあるし、なんとか探したい。ショアンさん、無事だといいんだけど……。

 弱気になっていたところに、アッキの声がやや遠くから響いた。

「いた! 見つかった!」
「アッキ、ありがとう! すぐ行く!」

 近くにいたチャンプスと合流して走ると、森の奥の方でアッキが手を振っていた。隣にしゃがんでるのは、ショアンさん。暗くてあんまり表情は見えないけど、憔悴してることだけは分かった。


「……うかつだったの」

 家に戻ったショアンさんは、私たちに紅茶を、チャンプスにミルクを用意してくれた。

 心配かけてごめんなさい、と謝ったあと、ゆっくりと話し始める。

「たまたま魔導書を読むことがあったんだけど、ついそのままリビングに置いてて。そしたら、予定が早く終わったって言ってイラックが来ちゃったの。授業がなくなったらしくてね。それで……」

 言葉を詰まらせるショアンさん。その先は、聞かなくてもなんとなく分かる。リビングに置いてある魔導書を、イラックが目撃してしまったんだろう。

「それで、イラックとは話したのか?」

 チャンプスが尋ねると、彼女はうつむいたまま首を振った。

「『君、魔女だったんだね』って言われて、私、パニックになっちゃって『今日はもう帰って!』って言ったの。そのまま、あなたたちには知らせた方が良いかなと思って手紙を書いて魔法の速達で送って、そしたらなんか、急に悲しくなってきちゃって。隠してきたけどもうおしまいなんだ、とか、なんで私は魔女なんだろう、普通の人間ならイラックとずっと一緒にいられたのかな、とか。どんどん気分が落ち込んできて、家の中にいられなくなって、森に飛び出したの」

 そこまで一息に話すと、ショアンさんはコーヒーを飲んで大きく深呼吸した。少し気分も落ち着いたみたい。

「まあでも、こういう運命なら仕方ないかなって。私なりに一年頑張ったし、やれることはやったから、また魔女としての仕事も再開しないとね」

 せいせいしたような表情を見せるショアンさんだけど、私は納得いかなかった。こんなに努力して、こんなに相手のことを想ってたのに。たった一度の失敗で終わり? そんなの、なんか違うと思う! 違うって、思ってほしい!

「あの、子どもの私がこんなこというの変かもしれないんですけど、まだショアンさんがやれること、ううん、やり残したこと、あると思います」
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