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第5話 初恋の人の家族 アマンディーヌ視点(3)
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「詳細はあとで伝えるよ。何も知らない状態で移動してもらいたくて、これをつけてもいいかな?」
「は、はい。どうぞ。お願いします」
差し出されたものは、目隠しでした。頷きを返すとジェレミー様が優しく巻いてくださり、
「もう一度、失礼するね」
今度はそっとお姫様抱っこにしてくださり、わたしはどこかへと運ばれ始めました。
((どちらに向かわれるのでしょうか……?))
「内緒と言っても、屋敷から出ないから安心して。もうそろそろ着くよ」」
お部屋を出て、廊下を進んで、階段を降りて、廊下を進む。音で状況を判断していると――やがて足は止まり、細心の注意を払いながら降ろしてくださいました。
「付き合ってくれてありがとう。じゃあ目隠しを取るね」
「は、はい」
しゅるりと音を立てて、目隠しがはずれる。そうすると、しばらく塞がっていた視覚が回復して――
《ようこそナツマトルズ家へ》
《18歳のお誕生日おめでとう》
――……………………。
わたしの目に食堂の景色と、そんな文字が書かれた横断幕が飛び込んできたのでした。
「……………………こちら、は……」
「ここは、歓迎と誕生日パーティーの会場だよ。あの日から今日まで移動をしていて、記念日を祝えていなかったでしょ? だから一緒にやろうって話をしていて、僕は迎えに行く前に準備をして、みんなには迎えにいっている間に用意をしてもらっていたんだ」
ジェレミー様は、パーティーのメニューの考案。カルナ様は会場の演出。サンドラ様は造花の制作。ファブリス様はなんと、横断幕をひとりで作ってくださったそうです。
「息子からアマンディーヌ君の話はよく聞いていて、父としては認めたかったし、人としては支援をしたかった。だが『家』を任された当主としては、手放しで認めることはできなかった。そのせめてものお詫びとして、精一杯のもてなしの準備をさせてもらったのだよ」
「……ファブリス様……! 痛み入ります……! サンドラ様、カルナ様、ジェレミー様。痛み入ります……!」
すでにいただいたものだけでも、充分すぎるのに……。ここまでしていただける、想っていただけるなんて。
驚きと喜びで心の中が一杯になって、抑えきれなくなり両目から溢れてきてしまいました。
「ふふ。さあ、主役はどうぞこちらへ。楽しい時間のはじまりだよ」
「はい……っ。はい……っ! よろしく、おねがいいたします……!」
すでに何回も泣いていますが、このあとわたしは更に何度も泣くことになりました。
人生で初めて、誕生日を祝ってもらえる。
この世に生まれて来た日を、良い日だと言ってもらえる。
それは、こんなにも幸せなことなのですね。
しかも。
そんな幸せなことを、大好きな方と、お優しい方々が行ってくださる。
ただでさえ大きな喜びが何倍にも膨らみ、たくさんの涙を流して、たくさんの思い出をいただきました。
ジェレミー様。ファブリス様。サンドラ様。カルナ様。ありがとうございます。
9月15日。
今日という日を、わたしは生涯忘れることはありません。
○○
「っっ! っっ!!」
アマンディーヌが喜びに包まれていた頃、とある場所では正反対の表情を浮かべている者がいました。
その人の名は――
「は、はい。どうぞ。お願いします」
差し出されたものは、目隠しでした。頷きを返すとジェレミー様が優しく巻いてくださり、
「もう一度、失礼するね」
今度はそっとお姫様抱っこにしてくださり、わたしはどこかへと運ばれ始めました。
((どちらに向かわれるのでしょうか……?))
「内緒と言っても、屋敷から出ないから安心して。もうそろそろ着くよ」」
お部屋を出て、廊下を進んで、階段を降りて、廊下を進む。音で状況を判断していると――やがて足は止まり、細心の注意を払いながら降ろしてくださいました。
「付き合ってくれてありがとう。じゃあ目隠しを取るね」
「は、はい」
しゅるりと音を立てて、目隠しがはずれる。そうすると、しばらく塞がっていた視覚が回復して――
《ようこそナツマトルズ家へ》
《18歳のお誕生日おめでとう》
――……………………。
わたしの目に食堂の景色と、そんな文字が書かれた横断幕が飛び込んできたのでした。
「……………………こちら、は……」
「ここは、歓迎と誕生日パーティーの会場だよ。あの日から今日まで移動をしていて、記念日を祝えていなかったでしょ? だから一緒にやろうって話をしていて、僕は迎えに行く前に準備をして、みんなには迎えにいっている間に用意をしてもらっていたんだ」
ジェレミー様は、パーティーのメニューの考案。カルナ様は会場の演出。サンドラ様は造花の制作。ファブリス様はなんと、横断幕をひとりで作ってくださったそうです。
「息子からアマンディーヌ君の話はよく聞いていて、父としては認めたかったし、人としては支援をしたかった。だが『家』を任された当主としては、手放しで認めることはできなかった。そのせめてものお詫びとして、精一杯のもてなしの準備をさせてもらったのだよ」
「……ファブリス様……! 痛み入ります……! サンドラ様、カルナ様、ジェレミー様。痛み入ります……!」
すでにいただいたものだけでも、充分すぎるのに……。ここまでしていただける、想っていただけるなんて。
驚きと喜びで心の中が一杯になって、抑えきれなくなり両目から溢れてきてしまいました。
「ふふ。さあ、主役はどうぞこちらへ。楽しい時間のはじまりだよ」
「はい……っ。はい……っ! よろしく、おねがいいたします……!」
すでに何回も泣いていますが、このあとわたしは更に何度も泣くことになりました。
人生で初めて、誕生日を祝ってもらえる。
この世に生まれて来た日を、良い日だと言ってもらえる。
それは、こんなにも幸せなことなのですね。
しかも。
そんな幸せなことを、大好きな方と、お優しい方々が行ってくださる。
ただでさえ大きな喜びが何倍にも膨らみ、たくさんの涙を流して、たくさんの思い出をいただきました。
ジェレミー様。ファブリス様。サンドラ様。カルナ様。ありがとうございます。
9月15日。
今日という日を、わたしは生涯忘れることはありません。
○○
「っっ! っっ!!」
アマンディーヌが喜びに包まれていた頃、とある場所では正反対の表情を浮かべている者がいました。
その人の名は――
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