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第6話 お礼と楽しい時間と、過去の出来事(3)
しおりを挟む「メリッサ、迷惑でなければ形見を借りたい。構わないだろうか?」
「勿論ですっ。迷惑ではなく、わたしは――お父様もお母様も、喜んでくださるはずですっ」
首からかけているロザリオを外してお渡しし、エリー君は両手で握って目を閉じました。
高価なものを扱うように大切に受け取ってくれて、真剣に祈ってくれる。こんなにも嬉しい、有難いことは、ありませんよね。
「………………。………………。………………」
((お父様お母様。この方があの日助けてくれた、エリー君ですよ))
エリー君が伝えてくれているのですけど、どうしても私もお伝えしたくなったので。ロザリオを見つめます。
((その人が今日も、助けてくださったんですよ))
そのおかげで濡れ衣だと証明されて、生徒会長就任のチャンスを失わずに済みました。
ですのできっと、大丈夫だと思います。家はわたしが守って、お父様達の悲劇を利用させませんから……っ。
「………………。………………。………………っっ」
え? あれ?
お父様とお母様にお伝えして目を開くと、エリー君の顔が一瞬歪みました。
「………………ありがとうメリッサ、終わったよ。ロザリオをお返しする――メリッサ? ボーっとしてどうしたのだ?」
「い、いえ、なんでもありません。こちらこそ、ありがとうございました」
受け取って首にかけながら、その上にある顔を左右に動かします。
怒り、後悔、自責。そんな感情があったように思えましたが、この場でエリー君がそうなる理由がありません。きっと過去を振り返った影響で自分の中にモヤモヤが生まれ、そう感じてしまったのでしょう。
「お父様もお母様も、とても喜んでいますよ。あの日も『エリー君という子にお会いしたかった』と、何度も仰っていましたので」
「そうか、それならば光栄だ。おまけに今日は愛娘の疑惑が晴れ、更には生徒会長就任が確定的となった。お二人にとっても、すこぶる良い日になっただろうな」
「エリー君、そういうお話はまだ早いですよ。油断してしまうと何があるか分かりませんから、最後まで油断せずにいきます」
アリシアさんの支持率が0になったように、誰にだって急降下の可能性はありますから。残り、3日。引き続き気を引き締め、学院生活を送りたいと思います。
「その言葉を聞いて更に確信したが、そうだな。それに関する話の続きは、3日後の夜にたっぷりとするとしよう」
エリー君は満足そうに頷いてくださり、壁にある時計を見て立ち上がりました。
「ではその日を学院で過ごせるように、その日までに溜まっている仕事を終わらせておくとしよう」
「お仕事……。公爵家のもの、ですか?」
「ああ。他貴族への手紙など、やるべきことが多々あるのだよ」
伯爵家とは比較にならない程に、公爵家は様々な繋がりがあると聞きます。そういうものを維持するのは、かなり大変なようですね……。
「そのため3日後までは、こうして顔を合わせる機会はないだろう。引き続き、陰から応援している」
「はい、ありがとうございます……っ。エリー君がしてくださった努力が無駄にならないよう、頑張ります……!」
「期待、しているぞ。ではな、メリッサ。今日は6年ぶりにちゃんと言葉を交わせて、幸せだった」
「わたしもですっ。エリー君、今も昔も、ありがとうございました……っ!」
笑顔に笑顔とお辞儀をお返しして、わたし達は一旦お別れとなりました。
次に会えるのは、3日後。その時に同じような表情で再会できるように、私は有言実行で気を一切緩めませんでした。
活動期間ギリギリまで精力的に動き回り、やがて投票がスタート。この日は休日なので朝に投票が行われ、正午締め切りで即開票。全生徒数は347人なため、数時間後には結果が発表されて――
《生徒会長 メリッサ・ハンナ》
――掲示板に貼られた紙には、わたしの名前があったのでした。
お父様、お母様、エリー君。やりました……っ。
私は、ライヤ学院の生徒会長になりましたよ……!
応援ありがとうございます!
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