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第9話 動き出す、企み(1)
しおりを挟む『メリッサ。また夜に会おう』
『はいっ。いってまいります』
ちょうど日付が変わったばかりの、午前0時過ぎ。校門の前でエリー君に見送られ、初老の男性の御者さんと2頭のお馬さんが動かす馬車に乗って出発しました。
ここから目的地までは、およそ17時間。ちょっとした旅の、始まりです。
「本日の御帰国は、『凱旋』と言っても過言ではございません。わたくしも昨夜は、涙が止まりませんでした」
「ケベックさん、ありがとうございます……! お父様とお母様にも、やっと安心していただけますよ」
わたしが移動の際に頼るこの方は、ハーフルの馬車会社に所属されていますが、叔父達によってクビにされた元ウチの御者さん。そのため、わたし達の味方――安心して接することもできる人ですので、時折こういった会話を行いながら進んでゆきます。
「旦那様と奥様への御報告、楽しみでございますね。わたくしめ、年甲斐もなくすでに心躍っております」
「わたしもずっと、報告が楽しみでした。出来れば当日に行いたくて、この日が待ち遠しかったです」
こんなやり取りをして笑い合ったり、
「メリッサお嬢様がついに、正式な次期当主となられるなんて……っ。その際は、是非わたくしめを再度お使いくださいませ。今度こそこの身朽ちるまで、お供させていただきますので……!」
「こちらこそ、お願い致します。わたしも今度こそ、皆様にご迷惑はかけません。その際は即日、お声をおかけさせていただきますね」
お願いをさせてもらったりして、あっという間に15時間が経過。わたしを乗せた馬車は、叔父の家の前――ではなく、ハンナ家の旧邸があった場所で止まりました。
現在ここは、ハンナ家の墓地として利用されています。帰国した際は毎回真っ先にお墓参りをするようにしているため、まずはこちらに寄りました。
「おや。晴れておりますのに、小雨が降り始めましたな。きっと旦那様と奥様が、泣いて喜んでくださっているのでしょう」
「そうですね。きっと、そうです」
ケベックさんがさしてくださった傘に入って敷地に入り、お墓の前に着くとまずは赤いバラを置きます。そしてそのあとロザリオを両手で握り締めながら目を瞑り、改めて報告をしました。
生徒会長に、就任したこと。
当主となる条件を、達成したこと。
あの時と同じで、またエリー君に助けていただいたこと。
じっくりと、何分もかけてお伝えして。同じようにケベックさんも、傘をさしてくれたまま瞑目してくださって。
わたし達は自身の言葉がしっかり届くようにと、集中してお祈りを行いました。
――だから、なのでしょう――。
わたしもケベックさんも、全く気が付きませんでした。
「「「「残念だが、幸せな時間はここでお仕舞いだ。なぜならお前達は、ここで死んじまうんだからな」」」」
いつの間にか、後方で待機してくださっていた護衛の皆さんが倒れていて……。人相の悪い男性が4人によって、周りを囲まれてしまっていることに。
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