その後2人を待っていたのは、正反対の人生でした

柚木ゆず

文字の大きさ
4 / 44

第0話 愛する人との出会いと別れ。その先にある、誓いと代償の秘密(3)

しおりを挟む
『おや? 奇遇だなエルザ。どうして病院にいるんだ?』

 私のせいだ――。私のせいでユーゴさんが――。このまま目覚めなかったらどうしよう――。
 あの時は事件発生直後で、命に別状はないと言われたものの、駆けつけた時は昏睡状態でした。そのため病室で涙が涸れるまで泣いて、過呼吸で倒れてしまったあとのこと。お医者様の指示で一時的にお屋敷に戻るべく馬車へと向かっていたら、廊下でウィリアム様と出会いました。

 ココと彼の邸宅は距離があり、病院に用事はなにもなかったのに。なぜか従者を連れたウィリアム様がいて、即追い打ちをかけてきます。

『なるほど、ユーゴ・フェルスタがね。実に酷い出来事だな』
『……………………』
『ああ、そうだ。ところで、エルザ。このままごねて・・・いると、更に不幸な事が起きそうな予感がする。周りの人間の為にも、早めに受け入れた方がいいと思うぞ』

 彼は『予想だ』と付け加えましたが、これは『宣告』。……どんなに憎い相手でも、服従するしかありませんでした。

『ウィリアム様、承知いたしました。私はこの場でユーゴさんとの縁を切り、貴方様のものになります。婚約、結婚をさせていただきます』
『そうか、賢明な判断だ。お前は引き返して物分かりの悪い者共に説明をし、荷物をまとめてオレの屋敷に来い。いいな?』
『畏まりました。……ですがその前に、約束してください。もう二度と、私の大切な人達に手を出さない。一切の悪意を向けない・・・・・・・・・・と、誓ってください』

 唇を強く噛み、密かに右手の甲に血液を付着させ――。「この手を握りながら約束してください」と告げ、彼は上機嫌で握ってきました。

『オレは一度も向けた覚えはないが、まあいい。今宵は気分がすこぶる良いからな。特別に約束してやろう』
『……ウィリアム様。もう二度と、私の大切な人達に手を出さない。一切の悪意を向けないと、誓ってくださるのですね?』
『そう言っているだろう。思い当たる節はないが、誓ってやる』
『…………ありがとうございます。これで私も安心して、貴方様のもとへとゆけます』

 我が家(いえ)の名、セルメント。それはフランス語でこの国の言葉で、『誓い』『誓約』を表すもの。
 元々は『ラーザルレンス』だったウチの名が『セルメント』へと変わる切っ掛けとなった人、3代目当主夫人。隣国産まれのその方は、かつてその国に存在した『聖女』を遠縁に持ち――その影響なのかご自身も一つ不思議な力を、『誓い』に関する力をお持ちだったそうです。
 だから、なのでしょう。セルメント家の女性はその力を受け継ぎ、そうであるが故にやがて家の名が変わって。現在は血がかなり薄まってしまっているため生涯1度限りですが、その力を行使することができるのです。


 ――誓いという名の楔を魂に打ち込む――。


 要するに、『約束を破ったら破滅が訪れる』。
 同じく血が薄まっている影響で、相手の同意が必要という条件――高いハードルはあるのですが。それさえ越えられたのならば、強力な代償がある約束を交わすことができるのです。

((よかった。万が一何かあっても、これがあれば未然に防ぐことができます))


 そして、今日。
 ウィリアム様は誓いを違えてしまい、楔が起動しました。


((私にも何が起きるか分かりませんが、これから貴方を様々な不幸が襲い、貴方は破滅へと向かうということは分かります。……ウィリアム様。残された日々を、楽しんでくださいね))

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

【完結】そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして

Rohdea
恋愛
──ある日、婚約者が記憶喪失になりました。 伯爵令嬢のアリーチェには、幼い頃からの想い人でもある婚約者のエドワードがいる。 幼馴染でもある彼は、ある日を境に無口で無愛想な人に変わってしまっていた。 素っ気無い態度を取られても一途にエドワードを想ってきたアリーチェだったけど、 ある日、つい心にも無い言葉……婚約破棄を口走ってしまう。 だけど、その事を謝る前にエドワードが事故にあってしまい、目を覚ました彼はこれまでの記憶を全て失っていた。 記憶を失ったエドワードは、まるで昔の彼に戻ったかのように優しく、 また婚約者のアリーチェを一途に愛してくれるようになったけど──…… そしてある日、一人の女性がエドワードを訪ねて来る。 ※婚約者をざまぁする話ではありません ※2022.1.1 “謎の女”が登場したのでタグ追加しました

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

私はあなたを覚えていないので元の関係には戻りません

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のアリカは、婚約者のマトスから記憶を失う薬を飲まされてしまう。 アリカはマトスと侯爵令嬢レミザの記憶を失い、それを理由に婚約破棄が決まった。 マトスはレミザを好きになったようで、それを隠すためアリカの記憶を消している。 何も覚えていないアリカが婚約破棄を受け入れると、マトスはレミザと険悪になってしまう。 後悔して元の関係に戻りたいと提案するマトスだが、アリカは公爵令息のロランと婚約したようだ。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

処理中です...