結婚式当日。婚約者様は、時間を巻き戻したいと仰りました

柚木ゆず

文字の大きさ
23 / 24

第14話 時間が巻き戻った結果~バジルの場合~ 俯瞰視点

しおりを挟む
 あの日から数か月後が経ち、7月15日がやって来ました。
 時間が巻き戻る前は、自己中心的な悪態をつきながらシドニーとの結婚式に臨んでいたバジル。そんな彼は現在――

「こらっ、何をのんりびしているのだ! さっさと働かないか!!」
「もっ、申し訳ございません!! ご主人様!!」
「申し訳ございません!! ご主人様!!」

「そこが終わったら、今日の仕事は終わりだ。大人しく檻に入っておけ!」
「承知致しましたっ!」
「承知、致しました!」

 ――とある成金の屋敷で、雑用兼ペットとして飼われていました。


『まもなく「元」になるとはいえ、現当主と嫡男が手に入るのか。素晴らしい。買ってやろうじゃないか』


 平民生まれ平民育ちの彼は、貴族に対して強烈な嫉妬心を抱いていました。
 そんな対象を扱き使えるし、『檻に入れて眺める』など様々な楽しみ方ができる。生殺与奪の権利を得られる。
 ソレに飛びつかないはずがなく、バジルとエドメは非常に悪趣味な男のことに送られていたのでした。

「ほら、今夜の餌だ。食え」
「あ、ありがとうございます……!」
「ありがとうございます……!」
「はっはっは。あの貴族様が檻の中で動物用の餌を食っているとはなぁ! 愉快だ! 実に愉快だ! あーっはっはっは!!」

((……誰か、助けてくれ……! こんな生活、もうこりごりだ……!))
((頼む……! 誰か……わたし達を助けてくれ……!!))

 日中は常に働かされて、夜は『見世物』にされてしまう。
 ふたりの中は屈辱と絶望で満ち満ちていて、今夜も心の中で嘆き助けを求めます。

((もう一度、時間を巻き戻してください……! お願いします……! 神様……!!))
((時間を、お戻しください……! やり直すチャンスをください……!!))

 そしてランドラーズン神に向かって懇願しますが、ここは祭壇の前でも、結婚式の場でもない。そんな奇跡が発生するはずがありません。

((嫌だぁ……。嫌だぁ……。あの頃に、戻らせてくれぇえ……!!))
((お願いだぁ……! お願いだぁ……!!))

 ですので、この状況は死ぬまで変わりません。


『その際に、「時間を巻き戻してこの婚約を白紙にしたい」と願え。そうすれば、神が助けてくださるかもしれない……!!』


 あの時、そんな命令をしなければ――そもそも強引に結婚しようとしなければ、幸せな人生が約束されていました。
 ですがバジルもエドメも、自分勝手な行動を繰り返してしまった。
 それによってふたりは、あまりにも悲惨な人生を歩まないといけなくなってしまったのでした――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして

東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。 破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

処理中です...