私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた? そんな事実はないのですが?

柚木ゆず

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第1話 覚えがない疑惑と クレア視点(2)

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「ダリア、私は浮気なんてしてはないわ。だから貴方の――貴方とファビオ様のお話を、もう少し聞きたいの。これから出す質問に応えて頂戴」

 こういった場面では、動揺を見せたら相手は調子づく。余裕が生まれてしまって、不自然さを――粗を、見つけにくくなってしまうものね。
 そこで私は平然とした雰囲気を張り付け、目の前にいる2人を順番に眺めた。

「クレア様……。もう、素直に認めましょう……。余計な傷を増やしてしまうだけですよ……」
「そういった事実は全くなく、増える傷などございません。……はっきり申し上げますと、私は貴方がたの発言は嘘――何かしらの理由で、私を貶めようとしていると考えておりますので。潔白を証明するため、私自身が納得できるまで動かせていただきます」
「……この期に及んで、まだ否定するんですのね……。分かりましたわ。皆様の前で、認めざるを得ない状況を作って差し上げますわ」

 ダリアは可哀想な被害者を演じ続け、鼻を啜ってキッと睨みつけてきた。
 ……その姿にも声音にも、動揺は全然ない。ということは、これは想定内。予定通りの流れ、ということなのでしょうね。

((だとしたら……。用意していた質問は、別のものに変えておくべきね))

 見当はつかないのだけれど。恐らくダリアには、こう言い始めた私を加害者にできる策がある。だから迂闊に仕掛けてしまえばきっと、痛い目に遭うのはこちらの方。

((……はぁ、ここまで用意周到だなんて。こんなにも敵視されてると、気付けないなんて。情けないわね))

 まずは心の中で『軽口』を叩き、焦り始めた気持ちを意図的に落ち着かせる。
 心が乱れていたら、出るものも出なくなってしまうものね。こうやって再び内側を鎮め――


「『家』のルールを破ってしまうことになるけれど、事が事だ。仕方がないね」


 ――黙考を始めようとしていたら、静寂の中を一つの声が走り抜けた。
 高くもなく低くもない、耳障りの良い柔らかな声音。このお声は――

「「ジュレイアル様……!?」」

 ダリアとファビオ様が目を丸くしてしまうのも、無理はない。なぜなら、あのお声の主は学院一の大物だから。
 現生徒会長であり有力侯爵家の嫡男様であるマリアス・ジュレイアル様が、私達の間に割って入られたのだから。

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