私が幼馴染の婚約者と浮気をしていた? そんな事実はないのですが?

柚木ゆず

文字の大きさ
9 / 29

第4話 理由 クレア視点(2)

しおりを挟む
「俺が気付いていないだけで、クレア様には意中の人がいるかもしれない。その際は弊害が生じないようにするから、安心して欲しい」

 次にマリアス様が案じてくださったのは、私の恋心だった。
 恋人がいる様子はなかったけれど、好きな人はいるかもしれない――。そうだった場合は、問題が起きないように対応するから――。
 この方は当然のように、こう仰られたのだった。

「そうであったなら解決後に『合意の上で』と説明して関係を絶ったことにすればいいし、君の想い人には僕が直接説明もする。言わずもがな断られたとしても不満なんて抱きはしないから、安心してもらって構わないよ」
「……………………。………………」
「クレア様? どうかしたのかな? 何か納得できない点があったかな?」
「い、いえ、そうではありません。逆、なのです」

 納得できる点が、ありすぎるから。それが、こうして固まってしまっていた理由。

「そんな形で関係を絶ってしまえば、マリアス様の御名前に傷がついてしまいます。しかもその上、ご説明もと仰られて……。なぜ私に、そこまでしてくださるのですか?」
「クレア様を、愛しているから。それがこうする理由だよ」

 また、そうだった。この方は当たり前にように、即答された。

「本音を言うと、他の誰かの隣にゆくのは悔しいさ。この手で貴方に幸せを届けて、そうして最高の笑顔を生みたいと思っているのだからね」
「………………」
「けれどお互いの気持ちが揃っていないと、最高の恋であり関係は成立しない。だから俺が一番になれないのであれば、負けを認めて譲るしかないんだよ。だって愛する人には、何よりの幸せに浸っていてもらいたいのだからね」
「………………」

 今夜は、驚いてしまうことばかりある。
 こんなことを、本心で思われている方がいただなんて。こんなにも温かく優しい気持ちを、ずっと向けてくださっていただなんて。知らなかった。

「………………貴方様は、不思議な方です。私の常識、固定観念を塗り替えた方でして…………」

 だから。

「だから、貴方様を更に知りたいと思っています。……マリアス様。この件が落ち着いたら、貴方様のことをもっと教えていただけませんか?」

 胸の奥がとくんと鳴って、私はそんなお願いを行っていた。
 そして。そうしたらマリアス様の口元が柔らかく緩み、「光栄です」と返ってきて――

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください

ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。 やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが…… クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。 さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。 どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。 婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。 その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。 しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。 「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」

失踪していた姉が財産目当てで戻ってきました。それなら私は家を出ます

天宮有
恋愛
 水を聖水に変える魔法道具を、お父様は人々の為に作ろうとしていた。  それには水魔法に長けた私達姉妹の協力が必要なのに、無理だと考えた姉エイダは失踪してしまう。  私サフィラはお父様の夢が叶って欲しいと力になって、魔法道具は完成した。  それから数年後――お父様は亡くなり、私がウォルク家の領主に決まる。   家の繁栄を知ったエイダが婚約者を連れて戻り、家を乗っ取ろうとしていた。  お父様はこうなることを予想し、生前に手続きを済ませている。  私は全てを持ち出すことができて、家を出ることにしていた。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

あなたと妹がキモ……恐いので、婚約破棄でOKです。あ、あと慰謝料ください。

百谷シカ
恋愛
「妹が帰って来たので、今日はこれにて。また連絡するよ、ルイゾン」 「えっ? あ……」 婚約中のティボー伯爵令息マルク・バゼーヌが、結婚準備も兼ねた食事会を中座した。 理由は、出戻りした妹フェリシエンヌの涙の乱入。 それからというもの、まったく音沙汰ナシよ。 結婚予定日が迫り連絡してみたら、もう、最悪。 「君には良き姉としてフェリシエンヌを支えてほしい。婿探しを手伝ってくれ」 「お兄様のように素敵な方なんて、この世にいるわけがないわ」 「えっ? あ……ええっ!?」 私はシドニー伯爵令嬢ルイゾン・ジュアン。 婚約者とその妹の仲が良すぎて、若干の悪寒に震えている。 そして。 「あなたなんかにお兄様は渡さないわ!」 「無責任だな。妹の婿候補を連れて来られないなら、君との婚約は破棄させてもらう」 「あー……それで、結構です」 まったく、馬鹿にされたものだわ! 私はフェリシエンヌにあらぬ噂を流され、有責者として婚約を破棄された。 「お兄様を誘惑し、私を侮辱した罪は、すっごく重いんだからね!」 なんと、まさかの慰謝料請求される側。 困った私は、幼馴染のラモー伯爵令息リシャール・サヴァチエに助けを求めた。 彼は宮廷で執政官補佐を務めているから、法律に詳しいはず……

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

【完結】大好きな婚約者の運命の“赤い糸”の相手は、どうやら私ではないみたいです

Rohdea
恋愛
子爵令嬢のフランシスカには、10歳の時から婚約している大好きな婚約者のマーカスがいる。 マーカスは公爵家の令息で、子爵令嬢の自分とは何もかも釣り合っていなかったけれど、 とある理由により結ばれた婚約だった。 それでもマーカスは優しい人で婚約者として仲良く過ごして来た。 だけど、最近のフランシスカは不安を抱えていた。 その原因はマーカスが会長を務める生徒会に新たに加わった、元平民の男爵令嬢。 彼女の存在がフランシスカの胸をざわつかせていた。 そんなある日、酷いめまいを起こし倒れたフランシスカ。 目覚めた時、自分の前世とこの世界の事を思い出す。 ──ここは乙女ゲームの世界で、大好きな婚約者は攻略対象者だった…… そして、それとは別にフランシスカは何故かこの時から、ゲームの設定にもあった、 運命で結ばれる男女の中で繋がっているという“赤い糸”が見えるようになっていた。 しかし、フランシスカとマーカスの赤い糸は……

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

諦めていた自由を手に入れた令嬢

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。 これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。 実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。 自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。

処理中です...