あこがれチェンジ!

柚木ゆず

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《こんな時間に珍しいね。もしかしなくても、アコヘンの話?》
「ええ、そうなの。実は――」

 説明中。説明中。
 モミジちゃんがテキパキ、わかりやすくじじょー事情をお話しした。

《なーる、そりゃあ珍しいパターンだね。しかも今夜、最終オーディションがあり、か》
「彼女はこれまで何度も落選していて、今回は初めてで最後のチャンス。私も陽上さんも、どうにかしたいと考えているの」
《今ちょいちょいっと調べてみたら、そのオーディションはかなり有名なやつだ。そういう意味でも、本来の自分で受けさせてあげたいよね》

 せっかく頑張って、ここまで来たんだもん。
 絶対にもとに戻したい、です。

「姉さん、私はまだまだ勉強不足。このような時は、どう振る舞えばいいのかしら?」
《本人や家族と仲良くなってじっくり調べる、ってのが一番良い方法だよ。でも今回は、そうしている時間がない》

 あと1時間と少し。お時間は、これだけしかない。

《となれば――。方法は1つだけ》
「……姉さん。それは……」
《そうだよ。情報0で心に入る、だね》

 ナツキちゃんさんの声が、真剣になった。

《心の中をさがし回って本人を見つけて、本人から直接話を聞いて、その場で説得する。これしかないんだよ》
「………………そう、なってしまうわよね。しかしそれは……」
《当然、失敗すればその子はずっとそのまま。大大大成功か大大大失敗、そのどっちかだよ》

 心の中には、1回しか入れないだもんね。失敗しちゃうと、直す方法はない……。

《しかも本人が目の前にいて本人と話してるんだから、じっくり考えたり陽上ちゃんと相談したりする時間がない。話を聞いてすぐ答えて、相手を説得しなくちゃいけない》
「………………」
《だから専門家的には、解除は見送る、がオススメ。オーディションに合格しても不合格になっても辛い事になるけど、一生アコヘンよりはマシだからね》
「………………」
《以上がアタシのアドバイスで、どうするか決めるのは紅葉だよ。その学校の担当者は、紅葉なんだからね》
「………………」

 モミジちゃんはゴクリと唾を飲み込んで、少しだけ下を向く。

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