気付いてくれたのは、わたしを嫌っていたはずの婚約者でした

柚木ゆず

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第4話 目 ベンジャマン・ロルードル視点

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((なんて綺麗な目をしているんだ。……なんて嫌な目をしているんだ))

 それが、エレノオール様とマティルドを初めて見た際の印象だった。

((分かる。隠し事が下手で、自より他を優先しがちで、人のためなら損得勘定抜きで動けてしまう人なんだろうな))

 いつも他者の幸せを考え、分け隔てなく優しさを振り撒いた人。その目は今は亡き母方の祖母にそっくりで、だから理解できた。エレノオール様という女性が、予想通り・・・・とても素敵な人であることを。

((……分かる。心の中は妬み辛み嫉みで満ちていて、平然と一線を越えてしまう危険性がある人間なんだろう))

 自分の理想的な容姿や才や周囲からの評価を持っているからと密かに激しく憎み続け、ある日大量の薬を使って実妹の殺害を試みた人。今は遠くにいる・・・・・母にそっくりで、だから理解できた。マティルドという女性が、恐ろしい人間であることを。

((それに、なんてことだ……。その黒い感情は、母と同じく身内に向いているんだな……))

 母が叔母上に向けていた視線そのもので、ココに関しても簡単に察せた。
 しかも最悪なことに……。マティルドは僕を気に入ったらしく、僕が目の前に現れてから余計に姉に対して憎悪を向けにようになったのだった。

((…………その調子なら、近いうちに母のように爆発してしまうだろう。仕方ない、な))

 そうしてしまえば、エレノオール様を――なんの罪も非もない人を、傷付けることになると百も承知だった。
 しかしながらマティルドは上手く擬態しているため、出会って間もない他人がエレノオール様や卿に対して『あの人間は危険です』と告げても信用されない。それどころか家族を貶されたと怒りを買ってしまう危険性があったし、『ベンジャマンが〇〇と言っていた』と伝わってしまう危険性だってあった。
 だから、このやり方しかなかった。

『まぁ……! そうなのですか……!?』
『ええ、そうなんですよ。一目見た時から、可愛らしい方だなと思っていました。エレノオール様よりも、ずっとね』

『こんなにも素敵な方の存在に、気付けなかっただなんて。人生を大きく損していたと言っても過言ではありませんよ』

『戦略結婚は長男と長女で行わないといけない。貴方が先に御生まれになっていたら、と思わずにはいられませんよ』
『ベンジャマン様……! そこまで想ってくださっていたのですね……!』

 優越感に浸りたかったのだろう。あの手の手でエレノオール様の耳に入るようにしていると理解していたものの、それでもそうせざるを得なかった。
 会うたび精一杯マティルドを持ち上げ気持ちよくさせたり、

『実は先週、父の付き添いで隣国バーズンに行っていたんです。よろしければお土産を受け取ってください』

 マティルドを露骨に贔屓したり。
 いつも心の中で謝罪をしながら接し続け、僕達が結婚するまで――エレノオール様がマティルドの傍を離れられるその日まで、爆弾が爆発しないように努めていたのだった。

((はぁ、今日もまたエレノオール様に嫌な思いをさせてしまう。あと、半年か。長いな――…………。エレノオール様……!?))

 だが、その計画は完遂できなかった。
 恐らく、僕の知らないところで『何か』があったのだろう。2週間ぶりにレティアズ子爵邸を訪ねると、異変が起きていたのだった。


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