貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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第1話 変わる日 マエリス視点(3)

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((……思い返せば……。ラフィールで食事をしようという流れになった際は、いつもジョルロアさんが別のお店を提案していた……。万が一のハプニングを考慮したものだとすれば、納得がいきますね))

 ジョルロアさんと給仕さんのやり取りを見て、わたしが気付いてしまう。婚約者であり妻が目の前にいたら、給仕さんが面白くない。などなど、色んな可能性がある。
 そう考えたら、なぜか今まで一度も来店が叶っていないのも合点がいきます。

((何度もあった不自然な変更、『ファニー、愛してる』、昔からジョルロアさんが頻繁に出入りしていた場所にファニーという名前の女性がいる。これだけ条件が揃えば……))

 そう思いたくはありませんが、思わざるを得ません。

 ジョルロアさんは、浮気をしている。

 に、なります。

((…………………………。………………………………))

 俺は人を好きになれないんだ――。大切な人の死を切っ掛けに、失ってしまったんだ――。そんなことを言っていた人が、自分の好意を抱いて関係を持っていた。
 ほぼ、間違いないと思っていました。浮気の二文字がずっと頭の中にあったのに、やっぱり……。確定すると、辛いですね……。
 気が付くと、頬が濡れていました。

((……………………………………………………………………。そんなこと、より……。今後について考えないといけませんね))

 他のことを考えないと、頭の中と心の中が色んな感情でぐちゃくちゃになってパニックになってしまいそうだったから。壊れてしまわないように、いつも服の下に着けている三日月型のネックレスに――お父様の旧友からいただいた『平穏』をもたらすお守りに触れ、大きくかぶりを振りました。

((まずはとにかく、浮気を認めさせないといけませんね))

 個人的には、今すぐにでもライズを連れて実家に戻りたい。ですがわたしは『フォルトエナ家の駒』としてハーライト家に嫁いでおり、そうしたからには家を第一に考えないといけません。

 ファニーさんとの縁を切った上で、慰謝料を支払ってもらい関係を続ける。
 ファニーさんとの浮気を公表した上で、離婚をして慰謝料をもらう。

 貴族の浮気が発覚した際は普通は・・・このふたつのどちらかになり、そうできるように不貞を認めさせないといけないのです。

((ただ……。それは、一筋縄ではいかない……))

 問い詰めても本人は認めないでしょうし、こういったリスクを孕んでいるため簡単に露見しないように行動している。実際わたしは傍にいるのにまったく気付かなくて、治ったあとに尾行などをしても恐らく収穫はないでしょう。

((お義父様とお義母様の性格を鑑みると、給仕との交際は認めない。浮気は知らない、のでしょうが……))

 あの方達は、ウチ以上に貴族らしい貴族。自分達にとって都合の悪いことには協力してはくれません。
 どんなに自分達に非があったとしても。

((フォルトエナ家の力を総動員しても、さすがにこの手の証拠は掴めないでしょうし……。困りましたね……))

 認めさせる手立てがなく、どんなに頭を働かせても見つかりそうにない。
 なので、何も進展がないまま時間だけが過ぎていって……。
 ついにジョルロアさんが完治して……。さっそく、やけに嬉しそうに森林浴・・・に出掛けて……。やっていることが分かっているのに、なにもできなくて……。

((悔しい……))

 歯がみをする日々が続いていた、のですが――。
 ひょんなことから、光明が差すこととなるのでした。



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