貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね？

第６話 醜悪な者達 マエリス視点

「素晴らしい御判断でしたな。今後も仲良くしてゆきましょう」
「……そうですな。今後も良い付き合いをしてまいりましょう」

　お義父様とお父様は正反対の表情で握手を交わし、その瞬間大きな拍手が響き渡りました。
　パチパチパチパチパチ！　そんな軽快な音を鳴らしているのは、ジョルロアさん。発端、張本人です。

「よかったわね、ジョルロア。おめでとう、今までよく頑張ったわね」
「父上、母上、お義父さん、マエリス、心から感謝いたします。……マエリス、取り乱してしまってごめんよ。さっきも言ったように――」

　ジョルロアさんが何か言っていますが、どれも心にもない言葉なのは明白でした。わたしは適当に相槌を打って全てを聞き流し、気が付いたら上機嫌な言い訳タイムは幕を閉じていました。

「……ところで、卿。今度何らかの形で、そのファニーという女性が当主夫人になるようなことにはならないのでしょうな？」
「さすがに、そこまで愚かではありませんよ。そんなことをすれば一族内から大批判が出てしまいますし、ジョルロアには申し訳ないが――ハーライト家に、貴族以外の血を入れるわけにはいかない。夫人はマエリスくん、ふたりの子はライズ。家内外どちらでも、その事実は揺るぎませんとも」

　貴族は『血』を重要視していて、お義父様は特にその意識が強い。浮気は許してもそこは絶対に認められず、わたしやライズが命の危険に晒されることはありません。

「それを聞けて、少しばかり安心できましたよ。……マリエス、心身共に休息が必要だろう。ライズを連れてしばらく戻ってきなさい」
「そうですね。そうさせていただきます」

　ファニーと会っていただきたい――。レオンにも会ってもらいたい――。
　ああ、是非会おうじゃないか――。孫がもう一人いただなんてね、楽しみだわ――。
　３人はすでに、こんな話を始めています。
　お屋敷にいたら、不快な思いをするだけ。そういったアレコレが終わるまで、ここを離れましょう。

「あちらは、その話で夢中になっているようだ。放っておいて行くとしよう」
「はい、お父様」
（…………こんな家に嫁がしてしまって、すまないな）
（お父様は当主、フォルトエナ家にとって最善の選択をしただけです。お気になさらないでください）

　誰かが考えても、政略結婚を呑まない、という選択肢はありませんでした。わたしはすぐに首を振り、２階にいるレイズを抱き上げ、３人で馬車に乗り込み実家へと戻ったのでした。