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第6話 醜悪な者達 マエリス視点(1)
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「5000万ザックス――6000、いや8000万ザックスをお渡ししましょう。この金で、この子の関係を黙認してもらいたいのですよ」
お義父様が言及したのは、第3の選択肢。『浮気を許しつつ夫婦であり続ける』でした。
「卿っ、なにを仰っている! 浮気のリスクを御承知か!?」
「無論、理解しておりますとも。仰る通り、浮気は多くのリスクを含んでおります」
「でしたら――」
「ですがそれは、表に出なければ悪影響はもたらしません。……この件はうわごとが原因で発覚した、ソレがなければ隠し通せていました。身内だからこそできた芸当で、他の者は絶対に悟れない。マエリスくんが心の中に留めておいてくれたら、露見することはありませんよ」
言葉を失うわたしと、瞳に期待の色が満ちているジョルロアさん。わたし達を交互に見て、お義父様の視線はお父様へと戻りました。
「……私は貴族であり、この子の親だ。ジョルロアがここまでしていたと知ってしまったら――長年の苦しみを知ってしまったら、その縁を切るなんてできないのですよ」
「そうね、あなた。わたくしも、同じ気持ちですわ。……さっきはあんな風に叫んでいただけれど、きっとこの子は罪悪感を抱きながら生きていたに違いません。ジョルロアはそういう子。ね、そうよね?」
「は、はい! そうなんです!! さっきはごめんよマエリス! 君と婚約が決まった時から裏切っていることに罪悪感を覚えていたんだ! ずっと苦しんでいたんだ!」
こんな時でも子を想う、味方をするお義父様もお義母様。
即座に同意し、謝罪を繰り返し始めるジョルロアさん。
全員、異常です……。
「……卿、夫人。貴方がたは――」
「8000万ザックスもあれば、フォルトエナ家の強化を図れます。そちらにとってもよいお話ではないでしょうか?」
商会持ちのハーライト家とは違い、ウチの財力は平均的。こちらにとって8000万は大金で、家にとって大きなプラスとなります。
「そ、それは、そうだが……。それでも……」
「卿。こちらが、下手に出ているうちが華ですぞ?」
「……なにが言いたい……?」
「もしお願いを聞いてもらえないようならば、フォルトエナ家になにかしら悪いことが起きそうな気がしているんですよ。実は最近占いを齧っていましてな、未来のことがなんとなく分かるようになったのですよ」
「……卿……!」
ハーライト家はウチが所有する『山』や『畑』に目をつけて婚約を持ち掛けてきていて、関与できなくなるのは――余所の手に渡るのは、絶対に嫌。だから繋がりを維持したい、でも、我が子を悲しませたくない。
その結果が、脅迫でした。
「頭が武器の商売人にとってこの手の力押しは負けに等しく、今まで一度たりとも手を染めたことのない恥ずべきこと。できることならそんな無様な真似はしたくないですし、なにより、義理の娘に痛い思いをさせたくないのですよ」
「……なにが、なによりだ……!」
「こちらとしても、矜持は捨てたくない。そちらは臨時収入でホクホクになれる上に、これまで通りでいられる。どうですかな、話し合いで解決しませんか?」
「……………………」
同格なものの爵位以外は全てあちらが上で、攻撃されたら防げない。よしんば防げたとしても、『一線』を越えたあちらは嬉々として第二第三の嫌がらせをしてくるでしょう。
なら――
「………………すまん、マエリス。卿の提示を、呑むことになる」
――断れるはずがありません。
ファニーさんとの関係を認め、ライズに死ねとまで言った人と夫婦であり続ける。そんな、最悪の選択がされたのでした。
お義父様が言及したのは、第3の選択肢。『浮気を許しつつ夫婦であり続ける』でした。
「卿っ、なにを仰っている! 浮気のリスクを御承知か!?」
「無論、理解しておりますとも。仰る通り、浮気は多くのリスクを含んでおります」
「でしたら――」
「ですがそれは、表に出なければ悪影響はもたらしません。……この件はうわごとが原因で発覚した、ソレがなければ隠し通せていました。身内だからこそできた芸当で、他の者は絶対に悟れない。マエリスくんが心の中に留めておいてくれたら、露見することはありませんよ」
言葉を失うわたしと、瞳に期待の色が満ちているジョルロアさん。わたし達を交互に見て、お義父様の視線はお父様へと戻りました。
「……私は貴族であり、この子の親だ。ジョルロアがここまでしていたと知ってしまったら――長年の苦しみを知ってしまったら、その縁を切るなんてできないのですよ」
「そうね、あなた。わたくしも、同じ気持ちですわ。……さっきはあんな風に叫んでいただけれど、きっとこの子は罪悪感を抱きながら生きていたに違いません。ジョルロアはそういう子。ね、そうよね?」
「は、はい! そうなんです!! さっきはごめんよマエリス! 君と婚約が決まった時から裏切っていることに罪悪感を覚えていたんだ! ずっと苦しんでいたんだ!」
こんな時でも子を想う、味方をするお義父様もお義母様。
即座に同意し、謝罪を繰り返し始めるジョルロアさん。
全員、異常です……。
「……卿、夫人。貴方がたは――」
「8000万ザックスもあれば、フォルトエナ家の強化を図れます。そちらにとってもよいお話ではないでしょうか?」
商会持ちのハーライト家とは違い、ウチの財力は平均的。こちらにとって8000万は大金で、家にとって大きなプラスとなります。
「そ、それは、そうだが……。それでも……」
「卿。こちらが、下手に出ているうちが華ですぞ?」
「……なにが言いたい……?」
「もしお願いを聞いてもらえないようならば、フォルトエナ家になにかしら悪いことが起きそうな気がしているんですよ。実は最近占いを齧っていましてな、未来のことがなんとなく分かるようになったのですよ」
「……卿……!」
ハーライト家はウチが所有する『山』や『畑』に目をつけて婚約を持ち掛けてきていて、関与できなくなるのは――余所の手に渡るのは、絶対に嫌。だから繋がりを維持したい、でも、我が子を悲しませたくない。
その結果が、脅迫でした。
「頭が武器の商売人にとってこの手の力押しは負けに等しく、今まで一度たりとも手を染めたことのない恥ずべきこと。できることならそんな無様な真似はしたくないですし、なにより、義理の娘に痛い思いをさせたくないのですよ」
「……なにが、なによりだ……!」
「こちらとしても、矜持は捨てたくない。そちらは臨時収入でホクホクになれる上に、これまで通りでいられる。どうですかな、話し合いで解決しませんか?」
「……………………」
同格なものの爵位以外は全てあちらが上で、攻撃されたら防げない。よしんば防げたとしても、『一線』を越えたあちらは嬉々として第二第三の嫌がらせをしてくるでしょう。
なら――
「………………すまん、マエリス。卿の提示を、呑むことになる」
――断れるはずがありません。
ファニーさんとの関係を認め、ライズに死ねとまで言った人と夫婦であり続ける。そんな、最悪の選択がされたのでした。
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